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14.第六界
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なら、もうこのままで?
なんかハッピーな気分。
おお。明るい。
景色もだけど、なにより気分が。
みんなが笑顔でいられるこっちのほうが。
誰も傷つけない。誰も傷つかない。
想像したことが全部出来る。
できないことばっかで、ぶつかってばっかのクソゲーの現実よりずっと。
ず~っと…。
じゃあ、もう、
「真宏!!!!」
コウダにそう呼ばれた時、何故かケチャップの匂いが鼻についた。
そういや、まだ一回も食ってねえな。
オムライス。
お店のじゃなくて、自分で作ったご家庭のオムライス。
視界の景色は、さっきまでの電波障害レベルじゃなく、半々くらいで明るいほうに寄りだしてる。
でも、相変わらずケチャップの匂い。
そうだ。
食ってねぇ。
ここで食おうにも自分で作ったことねぇから、実際の味は?
俺が想像したことは何でもできるけど。
それって、そっか。
想像したことしか出来無いよね。
色々美味いもんは食えるけど、分かんないはずっと分かんないまま。
例えばリアル安藤さんのおっぱいは一生揉めない。
想像ではふわふわおっぱいもプリプリおっぱいもありだけど。
…どうせリアル揉むチャンスなんて…。
いやでも、わかんねぇぞ。
だって安藤さんの場合少なくとも接点あるし。
他にもっといい感じの…おっと脱線しすぎた。
田中のエロ本みたく、偶々分かったってこともある。
思いもよらなかった。
あんなの想像できたか?
殆どが偶々とか、無理かもとかだけど、『やってみたら』ってあるんじゃねえか?
そうじゃん。オムライスは今でも食えるぞ。
ちょっと奮発して材料買って来て、俺が作ってみるだけだ。
できるよな。
でも、想像の世界じゃ絶対できない。
やれてもそれって別モノっていうか、俺の想像した通りのもんが出来るだけだ。
それにオムライスじゃなくても、そもそも見たことない食いもんだって…。
どういうのだろ…。
わかんない。
だって見たことないから。
そう思ったら、
急に、
もっと欲しくなった。
『わからない』が欲しい。
見たことない。聞いたことない。食ったことない。会ったことない。やったことない。
それがなにかもわからないくらいわからない。
たくさんの、俺の想像もつかない『わからない』が。
もっともっと。
もっと欲しい。
じゃあ、今やることって一つだよね。
ここから出る。
景色はまたケチャップとレモンタルトとじゃんけんグミの臭いに満ちた、青い世界。
気色悪い色のまま、もう景色がパカパカ切り替わったりしたりしない。
俺二号は四角錐の向こうの影っこで投げ捨てられたケチャップのポリ容器の中身を掻きだしてごそごそしてる。
もうじゃんけんにもコウダにも興味がないのか。全く見てねぇな。
コウダはまだ爪先が消えただけのままキープ。
でもどうする。
俺二号がチラッと俺の方を見た。
チョキ。
あいこ。
パー。
あいこ。
グー。
あいこ。
俺二号はまたチラッと俺の方を。
暫く左手グーだけでいいか。
グー。
あいこ。
グー。
あいこ。
俺二号は四角錐の影でごそごそ。
偶にちらっとこっちを見ながら基本一人遊びだ。
グー。
あいこ。
グー。
あいこ。
グー。
あいこ。
最初のころ律儀に等間隔にかかってた『じゃん、けん、ぽん! うふふふふ~』の声は、まだ同じように等間隔にかかり続けてる。
飽きた。
それでも。
グー。
あいこ。
グー。
あいこ。
グー。
あいこ。
それでもやめない。
この俺VS俺の無限ループから出るにはどうしたら。
俺と、俺じゃ、ずっと同じ手しか出てこねぇぞ。
どうする?
どうする?
ああ、もう!!
『じゃん、けん、ぽん!
うふふふふ~』
なんか他の!!!!
…!!!!
今でも思い出す。
あの時、思いついたことがそのまま口から出た。
その後の行動もひっくるめて。
脊髄反射って言うんだろう。
「コウダーーーーーー!!!!
ペットボトル見せてーーーーーーーーー!!!!!!」
コウダは手首を動かし、ホルダーを触った。
じゃんけんグミが握る手をずらし、コウダの手首まで押さえ込もうとしてる。
俺二号がこちらを向いて目を見開く。
『じゃん、』
腰のホルダーは揺れて外れ、ペットボトルがコウダの手首の、可能な限りのスナップに合わせて俺のほうに軽く飛ぶように落下する。
俺と対戦してたじゃんけんグミがペットボトルのほうに一瞬ふらついて、伸び。
ペットボトルはそれに当たって激しく回転しながら軌道を変える。
色だけは分かる。黄色い。
俺二号は右足を蹴り上げてる。
『けん、』
黄色…しかわかんない。
回転が激しい。
じゃんけんグミは元の位置に戻ってじゃんけんするモード。
放置されたペットボトル。
ガツッ
底の角が地面に当たってワンバン。
無回転で跳ね上がるペットボトル。
割れた底から漏れ出す水飛沫。
俺二号は二歩目を上げてる所。
まだ四角錐の奥の角らへんからそんな離れてない。
じゃんけんグミは手を振り下ろしにかかる。
ペットボトルは。
跳ね上がる力が丁度0になる、その頂点で。
物理法則に則って一瞬だけ静止した。
俺の右手は、そのキャップと同じ形になった。
『ぽん!』
なんかハッピーな気分。
おお。明るい。
景色もだけど、なにより気分が。
みんなが笑顔でいられるこっちのほうが。
誰も傷つけない。誰も傷つかない。
想像したことが全部出来る。
できないことばっかで、ぶつかってばっかのクソゲーの現実よりずっと。
ず~っと…。
じゃあ、もう、
「真宏!!!!」
コウダにそう呼ばれた時、何故かケチャップの匂いが鼻についた。
そういや、まだ一回も食ってねえな。
オムライス。
お店のじゃなくて、自分で作ったご家庭のオムライス。
視界の景色は、さっきまでの電波障害レベルじゃなく、半々くらいで明るいほうに寄りだしてる。
でも、相変わらずケチャップの匂い。
そうだ。
食ってねぇ。
ここで食おうにも自分で作ったことねぇから、実際の味は?
俺が想像したことは何でもできるけど。
それって、そっか。
想像したことしか出来無いよね。
色々美味いもんは食えるけど、分かんないはずっと分かんないまま。
例えばリアル安藤さんのおっぱいは一生揉めない。
想像ではふわふわおっぱいもプリプリおっぱいもありだけど。
…どうせリアル揉むチャンスなんて…。
いやでも、わかんねぇぞ。
だって安藤さんの場合少なくとも接点あるし。
他にもっといい感じの…おっと脱線しすぎた。
田中のエロ本みたく、偶々分かったってこともある。
思いもよらなかった。
あんなの想像できたか?
殆どが偶々とか、無理かもとかだけど、『やってみたら』ってあるんじゃねえか?
そうじゃん。オムライスは今でも食えるぞ。
ちょっと奮発して材料買って来て、俺が作ってみるだけだ。
できるよな。
でも、想像の世界じゃ絶対できない。
やれてもそれって別モノっていうか、俺の想像した通りのもんが出来るだけだ。
それにオムライスじゃなくても、そもそも見たことない食いもんだって…。
どういうのだろ…。
わかんない。
だって見たことないから。
そう思ったら、
急に、
もっと欲しくなった。
『わからない』が欲しい。
見たことない。聞いたことない。食ったことない。会ったことない。やったことない。
それがなにかもわからないくらいわからない。
たくさんの、俺の想像もつかない『わからない』が。
もっともっと。
もっと欲しい。
じゃあ、今やることって一つだよね。
ここから出る。
景色はまたケチャップとレモンタルトとじゃんけんグミの臭いに満ちた、青い世界。
気色悪い色のまま、もう景色がパカパカ切り替わったりしたりしない。
俺二号は四角錐の向こうの影っこで投げ捨てられたケチャップのポリ容器の中身を掻きだしてごそごそしてる。
もうじゃんけんにもコウダにも興味がないのか。全く見てねぇな。
コウダはまだ爪先が消えただけのままキープ。
でもどうする。
俺二号がチラッと俺の方を見た。
チョキ。
あいこ。
パー。
あいこ。
グー。
あいこ。
俺二号はまたチラッと俺の方を。
暫く左手グーだけでいいか。
グー。
あいこ。
グー。
あいこ。
俺二号は四角錐の影でごそごそ。
偶にちらっとこっちを見ながら基本一人遊びだ。
グー。
あいこ。
グー。
あいこ。
グー。
あいこ。
最初のころ律儀に等間隔にかかってた『じゃん、けん、ぽん! うふふふふ~』の声は、まだ同じように等間隔にかかり続けてる。
飽きた。
それでも。
グー。
あいこ。
グー。
あいこ。
グー。
あいこ。
それでもやめない。
この俺VS俺の無限ループから出るにはどうしたら。
俺と、俺じゃ、ずっと同じ手しか出てこねぇぞ。
どうする?
どうする?
ああ、もう!!
『じゃん、けん、ぽん!
うふふふふ~』
なんか他の!!!!
…!!!!
今でも思い出す。
あの時、思いついたことがそのまま口から出た。
その後の行動もひっくるめて。
脊髄反射って言うんだろう。
「コウダーーーーーー!!!!
ペットボトル見せてーーーーーーーーー!!!!!!」
コウダは手首を動かし、ホルダーを触った。
じゃんけんグミが握る手をずらし、コウダの手首まで押さえ込もうとしてる。
俺二号がこちらを向いて目を見開く。
『じゃん、』
腰のホルダーは揺れて外れ、ペットボトルがコウダの手首の、可能な限りのスナップに合わせて俺のほうに軽く飛ぶように落下する。
俺と対戦してたじゃんけんグミがペットボトルのほうに一瞬ふらついて、伸び。
ペットボトルはそれに当たって激しく回転しながら軌道を変える。
色だけは分かる。黄色い。
俺二号は右足を蹴り上げてる。
『けん、』
黄色…しかわかんない。
回転が激しい。
じゃんけんグミは元の位置に戻ってじゃんけんするモード。
放置されたペットボトル。
ガツッ
底の角が地面に当たってワンバン。
無回転で跳ね上がるペットボトル。
割れた底から漏れ出す水飛沫。
俺二号は二歩目を上げてる所。
まだ四角錐の奥の角らへんからそんな離れてない。
じゃんけんグミは手を振り下ろしにかかる。
ペットボトルは。
跳ね上がる力が丁度0になる、その頂点で。
物理法則に則って一瞬だけ静止した。
俺の右手は、そのキャップと同じ形になった。
『ぽん!』
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