楠葵先輩は頼られたい

黒姫百合

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第三十六話

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「笑った中村さんの顔が一番可愛いわ」
「葵。いきなりキモいことを言うな。中村さんにドン引きされるぞ」
「えっ、今の私キモかった。中村さん、引かないでね」
「別に引かないですよ。それに楠先輩に可愛いって言われると嬉しいです」
「ほらね。中村さんは瞳のように冷たい人間じゃないのよ」

 自分が優に対してキモイことを言ってしまったと思った葵は心配そうな目で優を見つめる。
 別に葵の発言はキモいとは思わないし、むしろこんな可愛い先輩に可愛いと言われて優は嬉しかった。
 優に否定された葵はなぜか自信満々な表情で胸に手を当てている。
 それを見た瞳はため息を吐き、実乃里は三人のやり取りを見ながらクスクス笑っていた。
 そこには冗談が言い合えるほど温かい空間があった。

「……楽しいな」

 思わず優の口から本音が漏れる。
 葵や瞳は先輩にも関わらず、まるで同級生と話しているかのように話しやすいし実乃里とはクラスでも話すようになりボッチでいることは減った。
 いきなり優のスマホが鳴る。
 通知を確認すると、葵から、しかも個人用のルインだった。

『よろしく』

 そこにはウサギのスタンプが送られてきていた。
 優が葵の方を見ると、葵はいたずらっぽく笑いながら口元に人差し指を付けて、

「シー」

 と言っていた。
 その表情に優はドキッてしてしまう。

『よろしく』

 優も葵にくまのスタンプを送り返す。
 優のルインを受け取った葵は嬉しそうにスマホを眺める。

「どうした葵。また気持ち悪い笑みなんか浮かべちゃって」
「教えなーい。って気持ち悪い笑みってどういう意味っ。瞳こそ実乃里ちゃんとルインしてる時、気持ち悪い顔してるわよ」
「してねーわ」
「いーやしてるね。気持ち悪い顔」
「実乃里は彼氏なんだから、愛する彼氏からルインが来たら誰だって頬ぐらい緩むだろ」
「まぁ……瞳ちゃんったら……」

 くだらないことで言い争いをする先輩二人に、彼女に惚気られ満更でもない表情を浮かべている実乃里。
 葵と瞳の言い争いは子猫のじゃれ合いと同じなので無視してもなんの問題もない。
 彼女がいない歴=年齢なので優には彼女に惚気られた気持ちは分からない。
 でもいつもはニヤニヤしない実乃里がこんなにもニヤニヤしているということはよっぽど嬉しいのだろう。
 今日も楽しい昼休みだった。
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