時の廻廊の守り人

鏡華

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第一章 時の守り人篇

第3話 自分で選んだ道

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毎日毎日、行きたくもない仕事に行って。自分にはキャパオーバーな仕事を押し付けられ、周りに聞きながら何とかやり終える。
その最中もミスや小言、椅子を蹴られたり等々、精神的ダメージは多い。

家に帰ってきても一人暮らしだから誰もいない、ご飯は自分で作るしかない。でも疲労とストレスで作る気になれない。結局いつもコンビニの弁当だ。

ストレス発散方法はゲーム。だが最近はちょっとやっただけですぐ飽きてしまう、また新しいゲームを買う、飽きる、買う。その繰り返しだ。お金なんて貯まるわけが無い。低賃金だから尚更だ。

趣味でイラストを描いたり、漫画を書いたりしてみた。評価は全くしてもらえない、低評価すらもつかない。誰も見ていないのだ。

更には、毎日のようにSNSでやり取りをしていた好きな女の子からの返信が途絶えた。きっと俺との会話に飽きたんだろう。俺が一方的に好意を寄せていただけで、相手は何とも思っていなかったんだ。


「お前はダメな奴だ。」
「誰もお前なんか必要としていない。」
「とっとと消えろ。」
「お前の存在価値なんてない。」

そう世間は告げていた。こんな何の取り柄もない、誰の役にも立てない、必要とされていない人間が生きていても意味は無いんだ。そう思って惰性で生きていた。どうしても自分で死ぬのが怖いからだ。

」自分でもそう思う。

それでも…こんなにもネガティブで聞き苦しい愚痴のような悩みを、ジョーカーさんとサブローさんは黙って聞いていてくれた。

話しながら今までの人生を振り返り、自分の惨めさで涙が出てきた。
こんなにも優しくしてくれる2人に、俺はネガティブな情けない自分語りを押し付けている。本当に情けない奴だ。

『なんのために生きてきたのか。』
『なんのために生きていくのか。』
『なんで俺みたいな奴が生きているのか。』
自分で自分を殺してやりたい。そう思っていた。

「本当に……なんのために生きてるんですかね、俺は…。」

ひとしきり話し終えたが、涙が止まらない。そんな俺にジョーカーさんは優しく話しかけてくれた。

「そうか…毎日毎日大変なんだな。でもね士くん、君は十分頑張っている、私はそう思うよ。周りがどう思おうと。君が君自身をダメな奴扱いするのは良くないよ。」 

「ジョーカーさん…。」

「振り返ってみて、嫌なことばかりの人生だったかもしれない。それでも君は一生懸命夢に向かって頑張ってきたじゃないか、その努力してきた時間は本物だ。」

「バウバウ(あぁ、問題なのはお前自身がどうしたくて、どうなりたいかだ)」

「サブローの言う通りだよ、士くん。…私は医者でも心理カウンセラーでもないから、何が正解で何が間違いなのかは分からない。最終的に決めるのは君自身だ。の人生なんだからね。」

真剣に答えてくれるジョーカーさんとサブローさんだったが、そんな優しさを俺はどこか投げやりだと感じてしまった。俺はこんなにも苦しんでるのに、話を聞くだけでのかと。
冷静になって考えてみれば、「話を聞くことしか出来ない」と言われていたのに、それを忘れた甘ったれた考えだった。

「アンタ達は…こんな所で楽して、大した苦しみもなく暮らしてるからそんな事が言えるんだ!俺は今すぐにでも助けて欲しいんだよ!!…もういっその事、楽にしてくれよ!!!」

「士くん……。」

「もう嫌なんだよ…生きてたって何にも良いことなんてない…、行きたくても生きれない人がいるなら俺が死んでその人のために臓器提供でもなんでもしてやるのに……。」

「バウ…(士…お前…)」

ジョーカーさんもサブローさんも口をつむぎ、場が静まり返る。次に言葉を発したのはジョーカーさんだった。

「分かった、私が君をしよう。自分で死ぬという選択を排除した君は素晴らしい。それに敬意を評して。それでどうだい?」

「バウバウ!?(おまっ、何言い出してんだ!?)」

そう言うジョーカーさんに驚くサブローさん。真剣な眼差しでジョーカーさんは続ける

「それが君にとっての幸せへの第1歩になるなら、私は応援したい。手助けをしたい。それが私の使命だからだ。なに、痛みは無く一瞬で逝けるぞ。」

上を指さし優しく言うジョーカーさんはどこか悲しげに見えた。

「ジョーカーさんが…俺を……。」

楽にしてくれる、しかも痛みも無く。その言葉は俺の心に安らぎのような心地良さを与えてくれた。もうあんなに苦しむことは無いんだ、嫌なこと全部から解き放たれる、自由になれる。なんて幸せなんだろう。

「……お願いします…。」

頭を下げて俺は頼んだ。

「バウバウッ!?バウ!!!(正気か!?もうちょいよく考えてみろよ!!)」

「サブロー、士くんがんだ、周りがどうこう言う事じゃないぞ。」

「バウ……(そりゃあ…そうだけどよ…)」

「顔を上げたまえ、士くん。そこに膝立ちで立ってくれないか?」

ジョーカーさんは立ち上がり、俺をテーブルの横で膝立ちになるよう指示した。
言われるがまま膝立ちになる。

「さて、痛みは無いがそれまでの時間が怖いだろう。目をつぶって居た方がいい。」

「は、はい…。その…どうやって俺を…殺してくれるんですか…?」

「この杖、実は仕込み刀になっていてね、これでスパッと。」

杖を腕の周りでくるくる回しながら言うジョーカーさん。サブローさんは物悲しそうな顔で黙っている。

「…士くん、もしもまたどこかで会えたら、その時は私のことを"さん"付けではなく呼び捨てにしてくれて構わないよ、敬語も使う必要はない。サブローにも同じようにしてやってくれ。」

優しく微笑みながら語りかけてくれる。

「…分かりました。」

俺もなるべく笑顔で答えようとするが、死を目の前にして体が震え始める。自分が望んだことなのに。

「……やっぱりやめておくか?士くん。」

震えていることが見抜かれた。

「いえ…今度はちゃんと自分の選択に責任を持とうと思います。これでいいんです。ことなんですから…。」

涙が出てきた。やはり死ぬのが怖いのだ。
そんな俺を見てジョーカーさんは居合切りの構えをとる。

「士くん、目をつぶってくれ。君が気がつく頃にはきっとにいるだろう。」

俺は、言われるがまま目を閉じた。


「ありがとうございます…ジョーカーさん、サブローさん……っ。」

「こちらこそありがとう、士くん。。」


次の瞬間「ヒュン!」という音とともに鞘から刀が勢いよく抜かれた。
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