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第二章
閑話 ユーノ対ブライト ブライトの悪だくみ
しおりを挟むズザザザっ!
突撃の勢いを絶妙の体幹コントロールと足腰の強さだけで制止し、ユーノはそのまま光を纏った疑似聖剣を振るった状態で残心する。しかし剣を振るわれたブライトの方はというと、
『……クククっ。やるねぇ』
切り裂かれた腕からは血の代わりに光の粒子が勢い良く噴き出し、その様は常人であれば明らかに大怪我。だというのに大して気にした様子もなく、刀身を断ち切られた剣を投げ捨ててどこか愉快そうに笑っている。
『加減したとはいえ神族の身体に一太刀入れるか。……成程。制限がある状態でも勇者の力は予想以上と』
「当たり前でしょう? 神族を神族たらしめる力。世界に問答無用で影響を与える“権能”を一切使っていない神族に負けるつもりはないわ」
『そりゃな。お遊びで権能を振るうのはいくらなんでも興が削がれるだろうよ。……ふんっ!』
ブライトが少し腕に力を込めると、噴き出していた光の粒子がぴたりと収まる。だがそれは傷の表面が塞がっただけで、傷跡自体ははっきりと残っていた。
『やれやれ。オレが創った剣はオレを傷つけられないってのに、わざわざ聖剣に変えてまでダメージを通すかよ』
「腕の一本くらいなら遠慮する事はない。アナタ自身が言った言葉よ。まさか神族が自分の言った事を反故にする……なんて事はないわよね?」
『違いないな。ククっ。良いだろう。お遊びはこれは終わりとして、本題に入ろうか』
ブライトがパチンと指を鳴らすと、先ほど両断された丸机と椅子が何事もなかったかのように元の姿に戻って設置された。
そのままブライトが上機嫌に座り直すのを見て、ユーノも持っていた剣をその場に突き立てて再び席に着く。
『さ~て。こうして気になっていた勇者のツラを拝んだ訳だが、これからどうする気だ? いくらオレがヒトとしての面を消すのを止めようが、お前さん自身が言ったようにいずれそれぞれの精神は統合される。その時が来れば……分かるよな?』
「えぇ。おそらく今のままなら残るのはワタシの面だけ。さっきも言ったけれど、その時は職務を放棄するつもりはないわ。でもそれまでは好きにさせてもらう。……もう一人のわたしが生きて家族の元に戻る意思を見せたのなら猶更ね」
そんな中、突如ユーノの身体が透け始めた。ホブゴブリンとの戦いでもあった時間切れの前兆だ。
「やはり加減アリとはいえ神族相手は消耗が激しいわね。もう限界か」
『あちゃ~。これはミスったな。お遊びの前にもっと喋っときゃ良かった。しかし完全に覚醒していないんじゃ、世界からのバックアップにも限界があるか』
その様子を見て、ブライトは顎に手を当てながら思案する。
(いや、よく見りゃこれは普通の魔力切れとは少し違うな。さっきはともかく今はわざと世界からのバックアップを拒絶している。おそらく自分が必要以上に出続ける事で、ヒトとしての面が擦り減るのを少しでも遅らせるために。……歴代勇者の中でも最高級の才能を持ちながら、それをただ一人の為に押し込めるかよ。勿体ないというか面白いというか)
「ともかく。ワタシはここで一度引っ込むから話はこれでおしまいね。……分かってると思うけれど」
『ああ! お前さんにコンタクトを取りたくなったら、とりあえずもう一人のお前さんを消そうとすれば良いんだな!』
「次やったら両腕を落とすわよ? ちょっかいをかけるなと言っているの。数日聖都を見て回らせて速やかに村に帰せばそれで済む話。それでわざわざ勇者と神族が激突する事もなくなるわ」
そう呆れながら言うユーノだったが、いよいよもって身体は限界を迎えていく。そして、遂に消えるという所で、
『ちょっと待った。消える前にどうせだから聞かせろよ勇者。お前さんが生まれた時から頭に鳴り響いているっていう、世界からのメッセージって奴をさ』
ブライトが好奇心で聞いたその言葉。それにユーノは僅かながら黙考し……珍しくその端正な顔を歪めてどこか吐き捨てるように語る。それは、
「“神族。滅ぶべし”。世界の側がここまで言うなんて、アナタ達は余程のやらかしをしたのかしら? まあ、今のワタシにはどうでも良い事だけど。……じゃあね」
それを最後にユーノの姿は光に包まれ、数秒後に元のヒトの姿に戻ってその場に倒れこんだ。
(神族滅ぶべし……か。コイツは少々こちらも本腰を入れて掛からねぇとな。しかしそれはそれとして)
その様子を見ながらブライトが今の言葉について思考を巡らせていると、
「…………んっ!? ……うぅ~…………はぅわっ!? 神族様っ!?」
『まあ落ち着けよ。何も取って食おうってんじゃない』
倒れていたヒトとしてのユーノが、小さく声を上げながら目を覚ました。最初は意識がぼんやりとしていたが、ブライトを見るなり意識を失う前の事を思い出したのか奇声を上げて身構える。
それを見てブライトも、神族にしては珍しく少しだけ気を使って優しく話しかけた。
『あ~……お前さん何があったか覚えてるか?』
「覚え……えっと、確か神族様の指が光って、そこから何か飛んできた辺りで記憶が……でも、何かさっきまで夢を見ていたような気がします。その……もう一人のワタシと神族様が戦う夢。何か喋ったような気もするんですけれど……すみません。思い出せないです」
恐縮するユーノだったが、その様子を見てブライトは嘘は言っていないと判断する。どうやら勇者の面が出ている時は、ヒトの面は夢という形で視点を共有しているらしいと。ただ夢である以上、起きたら所々忘れてしまうのだと。
(さて。コイツをどうしたもんか。最も穏便に終わるのは、それこそ勇者が言ったように適当に聖都を見せて回って、ついでに手土産でも持たせて送り返す事。なにやら世界の側の不満が相当溜まっているようだが、肝心の勇者がしばらく目覚めるつもりがないならまだ猶予がある。……だが)
『……それだけじゃあつまらないよなぁ』
「えっ!? その、いったい何が」
『気にすんな。こっちの話だこっちの! それと、さっき言った言葉は撤回しよう。ひとまずお前さんを消す事はなしだ。OK?』
「それはその……ありがとうございます?」
ブライトは久方ぶりに面白い玩具が手に入ったとばかりに愉悦に顔を綻ばせながら、困惑するユーノの肩に手を置く。
『それでだな。これからのお前さんの処遇についてだが』
満面の笑みを浮かべながらブライトが語る言葉の続きを聞いて、ユーノの頭の中はますます疑問符で埋め尽くされる。それは、
『お前さんにはヒトのまま勇者になってもらう。拒否権は無しだ。精々もう一人のお前さんに負けないよう頑張りな!』
それは一つ間違えば世界との軋轢が酷くなり、勇者とも完全に敵対しかねない一手。だが、その程度の事ではブライトは止まらない。
勇者としてのユーノは一つ勘違いをしていた。自分の存在はブライトにとっては抑止力になるのではなく、
(さ~て。天然物歴代最強の勇者に対し、人工ならぬ神工の勇者ってとこか。手元に置いてどこまで伸びるか見物するとしよう。最悪ヒトの面が擦り減っても、怒り狂って向かってくる勇者と喧嘩するのもまた一興。どちらにせよしばらく楽しめる良い暇潰しが出来たぜ!)
失敗したら自分が酷い目に遭うという、ゲームの程よいスリルに過ぎないのだと。
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