遅刻勇者は異世界を行く 俺の特典が貯金箱なんだけどどうしろと?

黒月天星

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第六章 積もった金の使い時はいつか

閑話 ある奴隷少女の追憶 その十一

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 突如現れたヒースだったけど、何故かボンボーンと喧嘩になりそうだったのでトキヒサが仲裁に入る。

『なっ!? 何をするんだ!?』
『言い訳無用だこの野郎! セプトっ! 一発コイツにかましてやれ。他の人達の分も含めてな』
『分かった。皆の分。まとめて』

 私は魔力を影に注ぎ込み影造形を発動する。

 トキヒサ、私、エプリやシーメ達、一応ツグミに、他にもヒースを探している沢山のヒト達。思いつくヒトの数だけ影は枝分かれし、一つ一つがそれぞれ剣や槍や大槌等の形をとってヒースに向けられる。

 あとトキヒサに教えてもらったハリセンという武器も出てきた。これは多分トキヒサの分だと思う。

『あんまりやりすぎないでねセプトちゃん。流石にそれ全部当たったらヒース様でもケガするから』
『ま、待て! 早まるな。話せば分か……うわあああっ!?』

 流石にマズいと思ったのかヒースは逃げようとしたけど、影はジリジリと間を詰めて伸び、一斉にヒースに襲い掛かった。ゴメン。トキヒサの命令だから。

 だけど、結局まともに当たったのはハリセンだけだった。少し悔しい。




『この度は誠に申し訳ありませんでした』
『私も、ごめんなさい』
『知らぬこととは言え私も色々言っちゃったからね。すみませんでした』

 その後、ボンボーンに謝ってどうにか許してもらえることになった。

 シーメも加護で連絡を入れて、あとはヒースを連れて帰るだけ。そう思ったのだけど、話はそれで終わらなかった。

『……悪いがまだ帰るつもりは無い。探しものがあるんでな。それが済むまで待て。……あと毎回言っているが気安く呼ぶんじゃない。名前に様かさんを付けろ』

 ヒースはそのままボンボーンに尋ねて何か当りを付けているようだった。

『……それで結局何を探してるんだ? せめてそれくらい話してくれてもいいだろ? 皆を心配させた分ってことでさ』
『お前に話す義理があると』
『お願い。教えて?』
『…………分かった。話すからじっと見つめないでくれ』

 私が聞くと、何故かヒースは少し後退りながらも普通に話してくれる。私は嫌われているのかもしれないけど、トキヒサのためなら嫌われてもどうということもない。




 ヒースの口から語られたのは、私にはよく分からない話だった。

 今から二か月ほど前に起きた、ヒースが調査隊の副隊長を退くことになった事件。富裕層ばかりを狙う大規模な連続押し込み強盗。

 その手口は、強盗の後トンネルを掘らせてそれで逃げるというもの。奴隷達の作業環境は劣悪で、どれだけ犠牲になったか今も正確には分かっていないという。

 それを聞き、私は少しだけその奴隷達の事を思い自分の首輪を撫でる。その奴隷達は主人に恵まれなかったのだろう。或いはそれ以外の何かに。

 奴隷は主人に仕えるモノだけど、基本的に自分で主人を選べない。僅かとはいえそれが出来て、そして主人にも恵まれた私はおそらく幸せなんだろう。

 話を戻すと、ヒースは部隊を引き連れてトンネルを逆に辿り組織の本拠地へ乗り込んだ。だけど組織の首魁の罠でトンネルは崩落。部隊に死者は出なかったけど、組織のヒトや多くの奴隷達が死んだという。

 ヒースはその責任を取って副隊長を一時的に退き、それからは逃げた組織の首魁を追って情報を集めていた。

 そして、ボンボーン達が居た倉庫の中にまだ残ったトンネルがある可能性が高く、それを使おうとする奴を待ち伏せているということらしかった。

『じゃあこれまで講義を抜け出していたのは』
『場所を探し、候補の場所で張り込む為だ。これまでの事件発生は全て夜。だから現行犯で捕らえるなら夜に動くしかなかった』

 そして連絡した以上もうすぐ迎えが来る。そうなったら素直に引継ぎに応じると言うヒースに、

『……分かった。じゃあそれまではこっちも張り込みに付き合うよ。相手が何人で来るかは知らないけど、そんなに多くはないだろうしな。それにエプリ達もこっちに向かってるし』
『私も付き合いますよ~っ! どうせお姉ちゃんもソーメも来るまでまだ間があるし、町の平和を守るのが『華のノービスシスターズ』の仕事ですから』

 一緒にここで待つつもりのトキヒサとシーメ。もしここにその組織の誰かが来るなら、早く離れた方が安全かもしれない。……ただ、迎えが向かっていることを考えると、ここで待って合流した方が安全かも。結局、

『私も、付き合う』

 主人の意に沿うのが奴隷の役割。トキヒサが残るというのなら私も残る。

 そうして私達はここで迎えを待ちながら、ヒースに付き合って張り込みをすることになった。




 その後、急に事態は動いた。張り込んでいた建物から、さっきまで話していたボンボーンが同じくさっきの二人を連れて外に飛び出してきたんだ。建物の中にはまだ誰か居る。その誰かがやったみたい。

 トキヒサはすぐに飛び出そうとしたけど、ヒースが相手の出方を窺いたいと引き留める。

『……分かった。だけどこれ以上ヤバいことになったら飛び出すぞ。セプト。掩護を頼めるか?』
『大丈夫。出来る』

 張り込んでいるので明かりは控えめだけど、それでも僅かな月や星の光で出来た影に魔力を送り込み、私はいつでも動けるように構える。

 そして、ボンボーンの後に建物の中から出てきたのは、

『やれやれ。先ほどの取引のように有意義な時間はおくれそうにないな』

 白い仮面を被り、妙な声をした謎の男だった。その姿を見た瞬間、待つと言ったはずのヒース自身が怖い顔で飛び出していく。そのまま切りかかるけれど、それは男の後ろから出てきた別の淀んだ眼をした双剣使いに阻まれた。

『ようやく見つけたぞ。その仮面、その言葉遣い。あの時から何度夢に見たことかっ! 今日こそはお前を捕縛し、あの時の罪を償わせてやるっ!』

 どうやらあの仮面の男がヒースの探していた相手のようだった。

『セプトはここに隠れながら掩護を頼む。俺はヒースを助けに行く。……シーメは』
『…………よし。緊急事態をお姉ちゃんとソーメに伝えたから、もう少しで到着するよ! 私はボンボーンさん達を見てくる。手当も必要だし、気を失ってちゃ危ないから叩き起こさないと』

 明らかに戦いになる雰囲気に、トキヒサは咄嗟に私に指示を飛ばす。本来ならトキヒサこそ安全第一でこの場に残ってほしいのだけど、先に行くと言われたら奴隷としては従わざるを得ない。

『分かった! じゃあ皆、時間を稼ぎながら怪我しないよう命大事にで行くぞ!』

 そう言ってヒースの後を追ったトキヒサを援護すべく、私は魔力をさらに細かく制御し始めた。




『大丈夫? ボンボーンさん。痛い所はない?』
『ああ。悪いな。俺はもう大丈夫だ』

 私がここで待機していると、シーメがボンボーン達を連れてきて治療し始めた。と言っても倒れていた二人は私が影造形で引っ張ってきたのだけど。

 トキヒサの援護が第一だけど、近くで倒れていたら邪魔になるかもしれないと言われたら仕方ない。

『……よし。じゃああの野郎に仕返しに行くとするか。ありがとよ嬢ちゃん。この礼はいずれまたな!』
『あっ!? ちょっと! 出来ればもう少し安静に……行っちゃったよまったくもう』

 傷が大体治るや否や、戦いの場に向けて走っていくボンボーン。どうやらあの仮面の男を狙っているみたい。

『ところで、治療に集中してて分からなかったけど今どんな状況?』
『少し、悪いかも』

 ヒースは見る限りでは明らかに劣勢だった。

 一対一なら多分ヒースが優勢だったと思う。だけど相手は二人。仮面の男の土魔法に体勢を崩され、その隙にもう一人のネーダというヒトに少しずつ押されていく。

 そして隙を突かれて致命的な一撃を受けそうになった時、

『諦めんなこのバカっ! 金よ。弾けろっ!』

 トキヒサの金属性で相手の目をくらまし、その一瞬をついて割って入ることで何とか防ぐことが出来た。そこにボンボーンが合流し、三対二で向かい合う。

 私も行きたかったけれど、私のやることはここから皆(特にトキヒサ)の援護なので我慢する。今もトキヒサが失敗してたら影で攻撃を防げるよう伸ばしていた。

 直接相手を攻撃することも出来たけど……何故だろう? あの仮面の男からは何だか嫌な感じがしてちょっと躊躇った。

『お前達……どうして?』
『どうしてもこうしても無いっての! お前何いきなり突っ込んでんだっ! 途切れ途切れに聞いただけだけど、あの仮面をつけた奴がヒースの追っていた奴だってことはなんとなく分かる。だからって一人で行くなよ! 付き合うってさっき言っただろうがっ!』

 トキヒサのこういう所は私にはよく分からない。だけど、トキヒサには独自の価値観やルールみたいなものがあってそれを守ろうとする。それこそ、ただの奴隷で敵だった私を命を懸けて助けたりとか。

 だから今回の事も、きっとそういうことなのだろう。なら私は奴隷としてそれを助けるだけ。

『ふん。……付き合ったことを後悔するなよ。それと……先ほどはありがとう。助かった』

 トキヒサに聞こえないよう後の方はそっぽを向いてヒースはそう言っていたけど、私の方には普通に聞こえている。トキヒサにも聞かせてあげれば良いのに。

『あ~らら! ヒース様ったら素直じゃないんだから! それじゃこっちは他の二人を治療しよっか! セプトちゃんはもうちょっと付き合ってね』

 ……シーメにも聞こえていたらしい。意外と皆に聞こえてるね。




 その後数の上ではトキヒサ達が有利になり、普通に行ったらこのまま勝てるはずだった。私も特に援護する必要もなく。……だけど、

『うるっせえなどいつもこいつも。お前らは黙って俺に刻まれてたら良いんだよぉ。この新しく手に入れた剣の試し切りになぁっ!』

 ネーダが服から取り出した二本の赤と青の短剣。それを見た時何か寒気のようなものを感じた。使っている本人よりももしかしたら危ないかもしれない。そう思えた。

 そして、その予感は正しかった。

『……レッドムーン! ブルーム―ン!』

 その言葉と共に、赤い短剣からは強烈な炎が、青い短剣からは強烈な氷の粒がそれぞれ噴き出してヒースを襲ったのだ。

 なんとか躱すヒースだけど、ネーダは炎と氷で距離を取って攻撃してきて中々近づけない。

『シーメ。まだ?』
『もう少し……よっし! これで大丈夫。さあ起きた起きたっ!』

 シーメは治療の終わった二人の頬を叩いて強引に叩き起こす。二人は怪我が治って気が付くと、そのまま何か喚きながら逃げていってしまった。まあ近くに居ても邪魔だしこれで良いのかも。

『卑怯者め。こっちに来て剣で戦ったらどうだ?』
『はっ! わざわざ相手の間合いに入るバカが居るかよ!』

 いけないっ! 私が少し目を離したすきに、ヒースの挑発も聞かずにネーダは一緒に居たトキヒサまで攻撃してきた。ヒースと一緒に瓦礫に隠れるトキヒサ。しかし、

『ヒャ~ハッハッハ! オラオラ。さっさと出てきて丸焼きになんな! それかこのまま隠れて蒸し焼きかぁ?』

 ネーダは二人を燻りだすために、周囲に剣の力で火を放ったのだ。仮面の男とそれを追っていったボンボーンも近くには居ない。自分はもう一つの剣から出る冷気で護られ、このままじゃ焼け死ぬのはトキヒサとヒースだけ。

『助けに行かなきゃ!』
『いや、セプトちゃんはここで待ってて! ここは私が……マズっ!?』

 シーメが何かを見た様に叫ぶ。その視線の先には、剣の先から一抱えもある火球を幾つも放って嗤うネーダの姿。あんなのが一つでも当たったらトキヒサ達もただでは済まない。

 それを見て私の足は自然とトキヒサ達に向かって走り出していた。ほぼ同時にシーメも。

 ゴメントキヒサ。命令を破るのは奴隷失格だけど、ここからじゃ影で迎撃するのは届かないからそっち行くね。
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