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第一章
雑用係 新型の起動実験に付き合わされる
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「モニター全て良好です!」
「接続完了! いつでも起動可能です!」
「非常用機材搬入しました!」
……なんでこうなった?
ミツバにむりやり連れてこられた俺は、兵器課の実験用の一室を外からモニターしていた。
四方を特殊合金の壁に囲まれたその部屋の中央には、デパートのマネキンのような人形が椅子に腰掛けている。あれが今回の実験の対象だ。
俺達の居る側の部屋では、兵器課の面々が慌ただしく機材のチェック等を行っている。専門的な動きなので俺にもおおよその事しか分からないが。
「『邪因子による遠隔操作、及びある程度の自立行動可能な自動人形の起動実験』……か。まったく面倒な事にまた付き合わされるのかよ」
「良いじゃないですか! 科学の発展はこうした実験の積み重ねですよ!」
ミツバの奴がまたさりげなくすり寄ってきたのでシッシと手を振って追い払う。
「ねぇねぇ。あの人形って一体なんなの?」
「よくぞ聞いてくれましたネルさん!」
ネルが不思議そうに聞いてくる中、俺から追い払われたミツバが代わりに答える。
「私達の身体に投与されている邪因子。これは生物の肉体に強く作用する物です。今回の実験では、邪因子を純粋な動力源として扱うことは出来ないかというコンセプトの下この試作人形が造られました」
「ふ~ん。……だけど人形を操るくらい、そこらの怪人でも出来る人居るよね? そこん所はどう違うの?」
怪人の中には無機物を操る事の出来る能力持ちも居る。例を挙げるなら、確か上級幹部の一人が糸を用いる事で数十人もの人の動きを同時に操ってみせた筈だ。人形を操るくらいなら出来る怪人も多く居るだろう。
しかしネルのこの疑問にミツバは分かっていないなあとばかりに指をチッチと振ってみせる。
「それは全てその怪人の固有の能力によるもの。今からやろうとしているのは、邪因子を持っていれば誰でも操作可能になる人形の開発なのですよ!」
その後もミツバの専門的な説明が続くが、ネルからすれば退屈だったのだろう。へぇ~とかほぉとかよく分かっていない相槌で誤魔化していた。ちょっと俺も補足してやるか。
「まあクソガキにも分かるように噛み砕いて言うとだ。固有の能力じゃなくても邪因子さえあれば、幹部だろうが一般戦闘員だろうが自在に動かせる人形の開発。それが今回の実験の目的らしい。動力部に邪因子から生み出されるエネルギーを溜めておいて、操縦者と同調して動く人形だ」
邪因子を活性化させることで発生するエネルギー。基本的に宿主の肉体強化に使われるそれを動力として使う訳だから、非戦闘員から少しずつエネルギーを貯蓄するなんてことも出来る。
まあ上の方の思惑としては兵器として使う事も想定しているのだろうが、純粋に労働力としても使えるだろうからまあ使い方次第という奴だ。居たら俺の仕事も大分楽になる。
「最終的には遠隔操作などしなくても、ある程度の自立行動が出来るようになる方向性の開発も目指していますよ! まあ完全な自立行動可能型にすると反乱の危険もあるので制限は付くでしょうが」
「……じゃあ例えば人形が一体居たら、毎朝食事を作ってくれたり部屋に戻った時に出迎えてくれたり、このモヤモヤの憂さ晴らしになってくれたりするの?」
なんかよく分からん例えだな? だが、
「憂さ晴らし? ……そうさな。細かい動作は結局遠隔操作になるから自分で作るのと変わらんかもしれないが、開発が進めば出迎えるくらいはあるかもな」
「そっか。……そっか! うんうん。良いじゃないその人形! 是非造ってよ!」
一応自分の中で納得したのか、ネルはちょっと微笑みながら期待した感じで画面の中の人形を見つめている。さっきからどこか不貞腐れていたから、機嫌が戻ったようで何よりだ。
「……で? その肝心の操縦者はどこだ? また前みたいにやらかさないよな?」
実はこの実験は初めてではない。俺も前の実験に立ち会ったが、あの時はとんでもない目に遭った。
あの時の操縦者はこの前俺が手伝いに行った厨房のタコ型怪人だったな。八本の腕(足?)を使えるという器用さから精密操作を必要とする人形の操縦者に抜擢されたが……まあ結果はお察しだ。
「私も人形の資料を渡されただけで操縦者まではまだ確認していないのですが……おや? あの方のようですよ!」
ミツバの声にモニターを確認する。部屋の人形に遠隔操作用の機材を身体に装着して近づいていく操縦者。それは、
「……タコ怪人じゃなくてイカ怪人じゃねえかっ!?」
「成程。タコよりイカの方が手数が多いから向いているという訳ですか」
ミツバは冷静に観察しているが……何だろう。失敗する未来しか見えない。そして実験はスタートし
案の定失敗した。やっぱりなっ!
「どういう事ですかこれは? 操作どころか起動すら出来ていないじゃないですか?」
「申し訳ありませんミツバさん。……イカ型なら大丈夫だと思ったのだけどおかしいな」
ミツバの指摘通り、そもそも人形はピクリとも動いていない。イカ型怪人はタコ型と同じようにひっくり返っているが、これは起動の為にむりやり邪因子を活性化させた結果自分が暴走しかけ、周囲の職員に鎮圧された為である。
ミツバの叱責に主任研究員も首を傾げている。イカ型なら大丈夫って発想自体がおかしくないか? 見れば他の職員も失敗したことに驚いているし、ネルに至ってはそもそもよく分かっていない。発想がおかしいと思っているのは俺だけなのか?
「主任! 解析した結果原因が判明しました。どうやら純粋に邪因子の出力が起動ラインに達していなかったようです」
「出力が? オイちょっと待て? 邪因子を持っていれば誰でも使える事をコンセプトにした人形が、何で怪人級の邪因子があっても出力が足らないなんて事になるんだ?」
俺が妙に思って今ミツバと話していた主任に詰め寄ると、
「その~……やはり最初の一体というのはロマンじゃないかケンさん! 試作品とか心がゾクゾクするじゃないか! だから、機体の限界を見極めていこうと各種機能を追加して」
「起動時点で怪人級の邪因子でも足らない大喰らいになりましたってか? 動かなきゃ本末転倒だってのっ!? ミツバからもなんとか言ってやれっ!」
「分かりましたケンさん! 一言言わせてもらいます」
俺の言葉にミツバは頷き、ゆっくりと主任に近寄っていき、
「その気持ち分かりますよ主任さん! 我々科学者の本分は限界を突き詰める事。いや、限界を打ち破る事。ロマン大いに結構。数打ちの大量生産を否定はしませんが、やはりそれとは別に至高の一点物は良いモノです!」
「おおっ! 分かってくれますかミツバさん!」
「主任!」
ガシッと手を取り合うミツバと主任。それを見て感涙する周囲の職員達。……そうだった。この支部の兵器課の奴らはこういうバカ達の集まりだった。いやまあ俺もロマンは嫌いじゃないけどな。
ネルはどこか白けた顔で奴らを見ている。コイツ効率主義っぽいからな。ロマンとかそういうのはお呼びじゃないって事だろう。
「しかし現実問題としてどうするんだ? そこらの怪人の邪因子量じゃ足らないってのは分かった。何人かを機材に並列接続して出力を底上げするか?」
「残念ながらそこまで機材に予備は……。それに元々一人用の物を並列用に造り直すとなるとそれなりに時間もかかります」
「そうだっ! ミツバさん! アナタなら出力は足りるのでは?」
何故か俺も顔を突き合わせて考えさせられる中、職員の一人が名案だとばかりにそんな事を言い出す。確かにミツバは本部兵器課課長兼幹部だ。邪因子の総量ならそこらの怪人より相当上だろう。だが、
「それが……先日私も実験中に大量の邪因子を消費してしまいまして、ここに視察に来たのはその回復時間もあっての事なんです。おそらく今の私では出力が足らないでしょう」
「そ、そんな……」
発言した職員ががっくり来ている。まあ仕方ないか。だが実験に失敗はつきものって事で、ここは一つサッと切り替えるべきだ。俺もさっさと帰って雑用係としての仕事に戻らんといかんしな。
どんよりした空気の中そう発言しようとした時、
「クスクス。あ~おかしい。兵器課は邪因子が低くても頭の良い人達の集まりだって思ってたけど、あたしの思い違いだったみたいだねっ! や~いどんより大人集団っ!」
雰囲気をぶち壊すように、或いはあざ笑うかのように場を切り裂く言葉が一つ。その言葉を発したのは、つまらなさそうにペロペロとキャンデイーを舌で弄びながら椅子に胡坐をかくクソガキ。
「ここに居るじゃない。幹部級の邪因子があって、丁度手の空いている寛大な人が。……そう! 幹部候補生にしてもうすぐ幹部になるレディ。このネル様が、ここに、居るじゃないっ!」
よっと椅子から飛び降りたクソガキは、不甲斐ない大人達に向けてそう邪気たっぷりに嗤いかけた。
「接続完了! いつでも起動可能です!」
「非常用機材搬入しました!」
……なんでこうなった?
ミツバにむりやり連れてこられた俺は、兵器課の実験用の一室を外からモニターしていた。
四方を特殊合金の壁に囲まれたその部屋の中央には、デパートのマネキンのような人形が椅子に腰掛けている。あれが今回の実験の対象だ。
俺達の居る側の部屋では、兵器課の面々が慌ただしく機材のチェック等を行っている。専門的な動きなので俺にもおおよその事しか分からないが。
「『邪因子による遠隔操作、及びある程度の自立行動可能な自動人形の起動実験』……か。まったく面倒な事にまた付き合わされるのかよ」
「良いじゃないですか! 科学の発展はこうした実験の積み重ねですよ!」
ミツバの奴がまたさりげなくすり寄ってきたのでシッシと手を振って追い払う。
「ねぇねぇ。あの人形って一体なんなの?」
「よくぞ聞いてくれましたネルさん!」
ネルが不思議そうに聞いてくる中、俺から追い払われたミツバが代わりに答える。
「私達の身体に投与されている邪因子。これは生物の肉体に強く作用する物です。今回の実験では、邪因子を純粋な動力源として扱うことは出来ないかというコンセプトの下この試作人形が造られました」
「ふ~ん。……だけど人形を操るくらい、そこらの怪人でも出来る人居るよね? そこん所はどう違うの?」
怪人の中には無機物を操る事の出来る能力持ちも居る。例を挙げるなら、確か上級幹部の一人が糸を用いる事で数十人もの人の動きを同時に操ってみせた筈だ。人形を操るくらいなら出来る怪人も多く居るだろう。
しかしネルのこの疑問にミツバは分かっていないなあとばかりに指をチッチと振ってみせる。
「それは全てその怪人の固有の能力によるもの。今からやろうとしているのは、邪因子を持っていれば誰でも操作可能になる人形の開発なのですよ!」
その後もミツバの専門的な説明が続くが、ネルからすれば退屈だったのだろう。へぇ~とかほぉとかよく分かっていない相槌で誤魔化していた。ちょっと俺も補足してやるか。
「まあクソガキにも分かるように噛み砕いて言うとだ。固有の能力じゃなくても邪因子さえあれば、幹部だろうが一般戦闘員だろうが自在に動かせる人形の開発。それが今回の実験の目的らしい。動力部に邪因子から生み出されるエネルギーを溜めておいて、操縦者と同調して動く人形だ」
邪因子を活性化させることで発生するエネルギー。基本的に宿主の肉体強化に使われるそれを動力として使う訳だから、非戦闘員から少しずつエネルギーを貯蓄するなんてことも出来る。
まあ上の方の思惑としては兵器として使う事も想定しているのだろうが、純粋に労働力としても使えるだろうからまあ使い方次第という奴だ。居たら俺の仕事も大分楽になる。
「最終的には遠隔操作などしなくても、ある程度の自立行動が出来るようになる方向性の開発も目指していますよ! まあ完全な自立行動可能型にすると反乱の危険もあるので制限は付くでしょうが」
「……じゃあ例えば人形が一体居たら、毎朝食事を作ってくれたり部屋に戻った時に出迎えてくれたり、このモヤモヤの憂さ晴らしになってくれたりするの?」
なんかよく分からん例えだな? だが、
「憂さ晴らし? ……そうさな。細かい動作は結局遠隔操作になるから自分で作るのと変わらんかもしれないが、開発が進めば出迎えるくらいはあるかもな」
「そっか。……そっか! うんうん。良いじゃないその人形! 是非造ってよ!」
一応自分の中で納得したのか、ネルはちょっと微笑みながら期待した感じで画面の中の人形を見つめている。さっきからどこか不貞腐れていたから、機嫌が戻ったようで何よりだ。
「……で? その肝心の操縦者はどこだ? また前みたいにやらかさないよな?」
実はこの実験は初めてではない。俺も前の実験に立ち会ったが、あの時はとんでもない目に遭った。
あの時の操縦者はこの前俺が手伝いに行った厨房のタコ型怪人だったな。八本の腕(足?)を使えるという器用さから精密操作を必要とする人形の操縦者に抜擢されたが……まあ結果はお察しだ。
「私も人形の資料を渡されただけで操縦者まではまだ確認していないのですが……おや? あの方のようですよ!」
ミツバの声にモニターを確認する。部屋の人形に遠隔操作用の機材を身体に装着して近づいていく操縦者。それは、
「……タコ怪人じゃなくてイカ怪人じゃねえかっ!?」
「成程。タコよりイカの方が手数が多いから向いているという訳ですか」
ミツバは冷静に観察しているが……何だろう。失敗する未来しか見えない。そして実験はスタートし
案の定失敗した。やっぱりなっ!
「どういう事ですかこれは? 操作どころか起動すら出来ていないじゃないですか?」
「申し訳ありませんミツバさん。……イカ型なら大丈夫だと思ったのだけどおかしいな」
ミツバの指摘通り、そもそも人形はピクリとも動いていない。イカ型怪人はタコ型と同じようにひっくり返っているが、これは起動の為にむりやり邪因子を活性化させた結果自分が暴走しかけ、周囲の職員に鎮圧された為である。
ミツバの叱責に主任研究員も首を傾げている。イカ型なら大丈夫って発想自体がおかしくないか? 見れば他の職員も失敗したことに驚いているし、ネルに至ってはそもそもよく分かっていない。発想がおかしいと思っているのは俺だけなのか?
「主任! 解析した結果原因が判明しました。どうやら純粋に邪因子の出力が起動ラインに達していなかったようです」
「出力が? オイちょっと待て? 邪因子を持っていれば誰でも使える事をコンセプトにした人形が、何で怪人級の邪因子があっても出力が足らないなんて事になるんだ?」
俺が妙に思って今ミツバと話していた主任に詰め寄ると、
「その~……やはり最初の一体というのはロマンじゃないかケンさん! 試作品とか心がゾクゾクするじゃないか! だから、機体の限界を見極めていこうと各種機能を追加して」
「起動時点で怪人級の邪因子でも足らない大喰らいになりましたってか? 動かなきゃ本末転倒だってのっ!? ミツバからもなんとか言ってやれっ!」
「分かりましたケンさん! 一言言わせてもらいます」
俺の言葉にミツバは頷き、ゆっくりと主任に近寄っていき、
「その気持ち分かりますよ主任さん! 我々科学者の本分は限界を突き詰める事。いや、限界を打ち破る事。ロマン大いに結構。数打ちの大量生産を否定はしませんが、やはりそれとは別に至高の一点物は良いモノです!」
「おおっ! 分かってくれますかミツバさん!」
「主任!」
ガシッと手を取り合うミツバと主任。それを見て感涙する周囲の職員達。……そうだった。この支部の兵器課の奴らはこういうバカ達の集まりだった。いやまあ俺もロマンは嫌いじゃないけどな。
ネルはどこか白けた顔で奴らを見ている。コイツ効率主義っぽいからな。ロマンとかそういうのはお呼びじゃないって事だろう。
「しかし現実問題としてどうするんだ? そこらの怪人の邪因子量じゃ足らないってのは分かった。何人かを機材に並列接続して出力を底上げするか?」
「残念ながらそこまで機材に予備は……。それに元々一人用の物を並列用に造り直すとなるとそれなりに時間もかかります」
「そうだっ! ミツバさん! アナタなら出力は足りるのでは?」
何故か俺も顔を突き合わせて考えさせられる中、職員の一人が名案だとばかりにそんな事を言い出す。確かにミツバは本部兵器課課長兼幹部だ。邪因子の総量ならそこらの怪人より相当上だろう。だが、
「それが……先日私も実験中に大量の邪因子を消費してしまいまして、ここに視察に来たのはその回復時間もあっての事なんです。おそらく今の私では出力が足らないでしょう」
「そ、そんな……」
発言した職員ががっくり来ている。まあ仕方ないか。だが実験に失敗はつきものって事で、ここは一つサッと切り替えるべきだ。俺もさっさと帰って雑用係としての仕事に戻らんといかんしな。
どんよりした空気の中そう発言しようとした時、
「クスクス。あ~おかしい。兵器課は邪因子が低くても頭の良い人達の集まりだって思ってたけど、あたしの思い違いだったみたいだねっ! や~いどんより大人集団っ!」
雰囲気をぶち壊すように、或いはあざ笑うかのように場を切り裂く言葉が一つ。その言葉を発したのは、つまらなさそうにペロペロとキャンデイーを舌で弄びながら椅子に胡坐をかくクソガキ。
「ここに居るじゃない。幹部級の邪因子があって、丁度手の空いている寛大な人が。……そう! 幹部候補生にしてもうすぐ幹部になるレディ。このネル様が、ここに、居るじゃないっ!」
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