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第三章
ネル 周りにひかれてハブられる
しおりを挟む「え~。コホン。些細なアクシデントはありましたが、説明を再開しますよぉ」
予備をもらった後、咳払いの後ちらりとこちらを見てミツバがそう切り出した。そうジトッとした目で見ないでよ。ちょっとした失敗ってやつじゃん。
「皆さん起動には成功しましたね? ……ああ。大丈夫そうですね! じゃあまず基本性能から説明しましょうか」
そうしてミツバが話し始めたのはこのタメールの機能。
まあ簡単に言えば、時計として以外にも地図機能や通信機能に始まり、持ち主の身体機能のデータ化。邪因子の簡易測定なんかもできるし、予め対象の情報を入力しておけば近くにそれがあった時に知らせてくれたりもする。だけど、
「なんか……スマホとかと大差なくないか?」
そう。今周囲の誰かが呟いたように、スマホでも大体似たようなことは出来る。
腕時計型っていうのも普通にありそうだし、何ならサイズだってやや大きめ。これが重要物資だなんてとても。
「基本性能の説明は以上です。……おっと、大事なことを忘れる所でした。タメール君は装着者の邪因子を動力として動いています。そして」
絶対忘れたんじゃなくわざとでしょっていうニヤニヤ笑いを浮かべて、ミツバは最後にこんなことを言い放つ。
「このタメール君。今この時間をもって、停止した時点で装着者を失格としますのでそのつもりで」
「げえっ!?」
「……ちょっと? 何をそんなにうろたえてるのピーター? それに他の奴らも」
ミツバの言葉を聞いて明らかに動揺する幹部候補生達。時計が止まったら失格ってだけでなんでそんなにうろたえているんだろう?
「これはマズいですよっ!? つまりこれを着けている間、常時邪因子を活性化させている必要があるんです。飛ばし過ぎるとバテるし少なすぎても下手すると起動できない。その状態でチェックポイントを巡ってお題をクリアしてって、それはもう拷問ですよ!?」
そうかなあ? 別に活性化させ続けるだけならあたし、以前実験で丸一日飲まず食わずぶっ通しで続けたことあったよ。終わった後意識が飛んで、次に起きたの二日後だったけど。
あの時に比べたら今の方が相当邪因子は上だし、たかだか数時間くらいでしょ? そのくらい平気じゃない?
そう言ったら何故かピーターを始め周りの人が微妙にひいていた。そんな驚くことかな?
ビーっ! ビーっ!
「はいそこ。活性化が切れてますよ。アラームが鳴っている5秒間以内に上げないと失格ですからね」
どこかから聞こえてくるアラームの音に、ミツバが誰かに軽く注意を促す。その後すぐに鳴り止んだから、どうやらその誰かは慌てて邪因子を上げなおしたらしい。
だけど活性化が解けても5秒も時間があるのか。ますます余裕だね。
「それ言えるの邪因子量がバカみたいにあるネルさんだからこそですからね。あとは……ガーベラさんも余裕そうですね」
見るとガーベラは、口元に扇子を当てながら涼しい顔をしていた。
ピーターが言うには、起動に必要な最低限よりほんの少しだけ上の邪因子をキープし続けているらしい。だから他の人より消耗が少ないし、僅かに余裕を持たせているから咄嗟の対応も出来るんだとか。
むぅ。やるじゃないガーベラ。
「……ふぅ~。じゃあまたワタシが説明を引き継ごうかね。もちろん説明中も邪因子は活性化しっぱなしだからそのつもりで」
ミツバが引っ込んでまたマーサに交代する。こうなると説明はさっさと終わらせてほしいよね。
「さてと。という訳でアンタらには、邪因子を常時活性化させたまま三つのチェックポイントを巡ってゴールへ辿りついてもらうんだけど、その肝心のゴールについて説明がある。各自、建物のスクリーンに注目してほしい」
その言葉と共に、スクリーンに映る映像が変化する。これは……扉?
何の変哲もないただの扉。それがぽつんと草原らしい所に立っていた。それから数秒後に映像が切り替わり、今度はどこかの木々の間に挟まるように立っている。
その後も何秒かおきに切り替わる先には、川の畔だったり深い森の中だったり様々。だけどどれも扉が映し出されていた。
「この扉はゲートを分かりやすく視覚化したものさ。このように……ふぅ~。ゴールはこの扉の中。扉の場所も地図の中に入っている。ただし、どの扉が正解かは言わない。自分達で選びな」
早速タメールで扉を調べてみる。すると、
「……ちょっと!? この島に扉の反応が百以上あるじゃんっ!?」
「ああ。なんならこの建物の横にもあるよ。ほら」
マーサの指さす先に……あっ!? ホントだ! 扉が一つ壁に立てかけてあるっ! 奇麗な青色の扉の上には、5と番号が振られている。
「あれが正解だと思うんなら、チェックポイントを巡った後ここに戻ってあれを選べば良いさね。ああちなみに、本物を見分けるヒントも各チェックポイントに置いてある。上手く使いな。……ここまでで何か質問は?」
「あのぉ、間違った扉を選んだ場合はどうなるんですか?」
幹部候補生の誰かがそんな質問を投げる。すると、
「ペナルティがある。入ったら強制的に訓練用シミュレーション室に跳ばされて、そこで規定数の相手を倒さなきゃ戻ってこれない。どのくらいかは扉によるし、当然そこでも邪因子が切れたりしたら失格さね」
なんだ。ペナルティって言っても軽いもんじゃん。これなら最悪しらみつぶしに扉を開けるっていうやり方でも大丈夫そう。
「それと、正解とは別にこの島には、幾つか黒い扉が存在する」
今度はスクリーンに、どこだか分からないけどぼや~っとした場所が映し出された。そこにある扉は、まるで光を反射していないみたいに真っ黒だ。
「これはちょっとしたチャレンジ要素さ。入ると幹部でも場合によっては手こずるレベルの奴が居る。腕っぷしに自信があるんなら挑んでみると良い。内容如何では評価が上がるかもしれないさね。ただし……ふぅ~。どんな目に遭おうとも自己責任で」
なるほど。追加得点のチャンスってわけね。面白そうじゃない。
「あと失格者の対応だけど、失格者は速やかに最寄りのチェックポイントかこの建物に移動すること。自分で動けない場合はしばらく待機してな。位置情報を頼りに係員が回収に向かうから」
先にそう言うってことは、途中でへばる人がやっぱり多いんだろうな。まああたしはそんなことないけどさ!
「もう他に質問はないかい? ……なさそうさね。じゃあ、そろそろ試験開始といこうか」
ああやっとね。待ちくたびれたわ。あたしはさっき確認したチェックポイントの内、ひとまず一番近い所へ向かおうと足に邪因子を込め、
ビーっ! ビーっ!
その直前急にまたアラームが鳴り始めた。今度は一体誰が……って!? 鳴ってんのあたしのじゃんっ!?
そしてあたしのだけでなく、気づけば周り中から一斉にアラームが鳴り始めた。ああもううるさいっ!
「その前に……ふぅ~。もう一つだけ縛りを追加しようか。この試験中、必ず誰か別の候補生とチームを組んでもらう。今から3分以内に誰かと最低3人以上でチームを組み、チームリーダーを決めな。決められなかったらその場で失格だからね」
え~っ!? 誰かと組むの? ……まあ良いか。この次期幹部候補筆頭美少女のネル様が一声かければ、それこそ3人くらいすぐだよね!
2分後。
……おっかしいな。ピーター以外誰も組んでくんない。……どうしよう。
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