悪の組織の雑用係 悪いなクソガキ。忙しくて分からせている暇はねぇ

黒月天星

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第三章

雑用係 クソガキ達の崖登りを見守る

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 さて。幹部昇進試験だが、初日の筆記、体力テストはともかく二日目の内容は毎年変わる。

 例えば去年はチーム戦であるというのは同じだったが、一定以下の人数になるまで演習場の中でサバイバルをするというものだった。

 だがおおよその傾向で言うと、何人かで協力する必要があるものや初日よりも実戦的かつ総合的な能力を見られるものが多い。


『ふっ……ふっ……はぁ』
『せいっ! こらぁピーター! ペースが落ちてるよっ!』
『いやこれが普通なんですって!? ペース配分を考えないとこの後がキツく……おわぁっ!?』

 フワッ!

『大丈夫ですかリーダーさんっ!? 私が髪で支えている内に早く掴まってっ!』
『あ、ありがとうございますガーベラさん』


 ネル達は山岳エリアの関門。崖登りに挑戦していた。

 あくまで崖上に到達しなくてはならないのはリーダーであるピーターのみ。しかしネルが先に登って安全を確保しつつ、ガーベラが地上から髪を伸ばして時折バランスを崩すピーターを支えるという布陣で少しずつ進んでいた。

 この崖は単純な高さもさることながら、全体の地質がやや脆い。なので力を入れすぎると岩は簡単に砕けてしまうし、逆に力を入れなさすぎると身体を支えられない。おまけに途中一息付けそうな出っ張りもほとんどない。

 実際今もピーターは四肢だけ部分変身して消耗を抑えつつ進んでいたのだが、うっかり掴んだ岩を砕いてしまいバランスを崩していた。下からガーベラ嬢が支えて事なきを得たが。

「ふぅ。危ない危ない。どうにか無事みたいだねピーター君。だけどナイスフォローだよハニー!」

 下手なアクション映画よりハラハラする展開に、レイもほっと一息。いくら地上には転落時に怪我を防ぐ仕掛けがあるとしても、それでも危険なことに違いはない。

「しかしこれは中々難しいな。体力勝負に見せかけて、実際は邪因子の持久力と細かな出力調整を試される課題か」

 もちろん飛行能力持ちであの風を強引に突破できるだけのパワーがあるならそれでも良いし、坂道を遠回りする選択肢もある。

 だがそこまでの飛行能力持ちはほとんどいないし、坂道は坂道で時間がかかる上罠だらけ。やはりメインルートはこの崖だ。




 そして、ネル達はどうにかこうにか突き進み、いよいよ崖上付近。つまりは暴風及びボール射出ゾーンにさしかかる。

『うっ!? 風が強いっ!? 気を抜くと飛ばされそうだっ!? こうなったら……変身っ!』

 吹き飛ばされそうな暴風の中、ピーターは全身をトカゲのような怪人体に変え、そのざらついた肌でピッタリ岩肌に張り付く。そう来たか。確かにあれなら四肢だけよりも安定する。だが、

『ふんっ! やぁっ! ピーターっ!? 大丈夫っ!?』
『何とかっ! でも、あんまり長くはキツイかもですっ!』

 片腕で全身を上手く支えながら、もう片方で上から降ってくるボールを弾きつつピーターを心配するネル。

 実際怪人化は邪因子の消費が大きいので、吹き飛ばされこそしないがこのままでは厳しい。おまけにタメールに流れている分も考えるとますます不利になる。

『こうなったら…………はああっ!』

 何かを思い立ったかのように、ネルは片腕に邪因子を集中させ、

『う~りゃりゃりゃりゃぁっ!』


 


 当然その間ボールはネルを襲い、次から次へとぶつかるが防ぐこともなく掘り進める。

『……っ! そういう事ですか! 援護しますわライバル!』

 しかしそこで何かに気づいたガーベラが髪を伸ばし、ピーターの支えに一部残してそれ以外をボールを弾くことに使う。そして、

『りゃりゃりゃ……出来たっ! ピーターっ! 掴まってっ!』
『はいっ! ネルさん!』


 ネルはに滑り込み、そのままピーターの手を掴んで引っ張り上げた。


 いやそんなのありか? 休憩スペースがないからって自分で作るとか!

『はぁ……はぁ。ちょっと休憩しよ』
『そうですね……ふぅ』

 流石に少し疲れたのかネルは壁に寄りかかって休み、ピーターも怪人化を解いて座り込む。タメールに流れる邪因子の消費自体は止まらないが、体力の回復は出来るからな。そのまま少し休んでいると、

『……ネルさん。すみません』
『すみませんって何が?』
『ネルさんだけならこのくらいの課題なんでもないのに、足引っ張っちゃって』

 ピーターが神妙な顔をして頭を下げた。確かにさっき、ネルは穴を掘ることに集中してボールを食らいまくっていたからな。ネルはそれを見て、

『な~に辛気臭い顔してんのよ』
『ぴぎゃっ!?』

 笑いながら軽く指でピーターの額を弾いた。まあ本人的には本当に軽くなのだろうが、ピーターは思ったより痛かったのか目に涙が浮かんでいる。

『仕方ないとはいえアンタがリーダーなんでしょ? リーダーが倒れたらあたしもアウトなんだから、手を貸すのは当たり前じゃない。それに自分の下僕一人助けられないでどうするのかって話よ』
『……ネルさん』

 まだ下僕扱いは変わっていなかったらしい。だが多少歪んではいるものの、チームメイトを助けるという発想がちゃんと出てくるようになっただけ成長か?

 ピピっ! ピピっ!

『こちらガーベラですわ。地上から観察した限りですが、どうやら降ってくるボールには規則性らしいものがあるようです。収まるタイミングをこちらでお知らせしますので、それまで少しお待ちくださいませ』
『了解。……そんじゃ、ちょっと待つとしましょうか!』
『ではボクはその間、吹いてくる風の方に何か規則性がないか視てみますね』

 さあ。目的地はもうすぐだ。がんばれよお前ら。




「雑用係よ。お前ならこの課題、どう攻略する?」

 ネル達の奮闘を見ていると、ふと首領様がそんなことを尋ねてきた。突然だな。

「どうも何も、普通に崖を登りますよ。坂道は時間がかかりすぎますし、罠の解体も大変ですしね」
「ふむ。存外普通の答えだな。つまらぬ」
「詰まる所、普通とは大半にとって一番理に適ったやり方ってことですからね。その人だけしかできない奇策があるなら話は別ですが。……レイだってそうだろ?」

 私に振るなよって顔でレイがこっちを見る。俺だけに首領様の相手をさせる気かこの野郎。

「私なら……そうだね。誰か力の強そうな人を探して、自身の存在を薄めつつその人に掴まっていくかな。認識阻害の消耗よりも、崖を登る方が疲れそうだから」

 レイのやり方はズルくはあるが悪い手ではない。自分の能力を活かして崖上に到達するという面だけ見れば寧ろ正しい。

「俺にはレイのような特殊能力はありませんからね。真っ当に崖を登るだけですよ。……ちなみに首領様でしたらどのように……いえ。考えるまでもありませんね」

 なにせ首領様ならあのくらいの崖ジャンプするだけで飛び乗れそうだ。坂道を走るにしても、落とし穴とかとりもちで止まるとも思えない。

 すると首領様は少しだけ考え込んで、


「……そうだな。私なら


 今なんて言ったこの人?

「飛び上がって崖上に行くにしても、坂道を進むにしてもだ。それは要するになわけだ。こういうものは、いかに自分の得意分野に持ち込みつつ相手の想定外の所を突けるかで決まる。その点で言ったら今のネルの行動は悪くない。……まあ、それよりもだ」

 首領様はニンマリと笑ってこう締めた。

「たかだか目的地が崖の上にある程度で私を動かそうなどと片腹痛い。こっちに来るが良い。……ふっ」

 あのぉ。その場合下手すると設置された機械とか係員の詰所がヤバいので、もうちょっと控えてもらえると助かります。
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