9 / 9
禁 忌
しおりを挟むこれは友人の祖母であるミチさんの話。
ミチさんが生まれ育った山あいの小さな村には、決して犯してはいけない禁忌があった。
『村の入り口から続く道沿いに家を建ててはいけない』
『禁所ごんしょにある物は木の1本、花の1輪、葉の1枚、石の1つも持ち出してはいけない』
というものだった。
通りに面した家には「厄」が入り込みやすく、家人に良くない事が起こると言われていたため。
また『禁所』と呼ばれる場所は「山の神様の住まう場所」と信じられており、非常に気難しいこの神様は自分のモノを奪われるのを嫌うため、良質な木材が採れる事が分かっていても伐り出す事は固く禁じられていた。
ある時、高齢の村長が亡くなり、都会の大学で学んだという長男が跡を継いだ。
都会で学問を修めた事が自慢の長男は、村に伝わるこれらの禁忌を鼻で笑って歯牙にも掛けなかった。
それでも父親が存命の間は大人しくしていたのだが、前村長が亡くなってしまうとすぐに、人々が守ってきた禁所ごんしょから木材を伐り出し、見せつけるように通り沿いに大きな屋敷を建て始めたのだ。
何人もがやめるように諫言したが、新村長は「この近代化の世の中に山の神もクソもあるものか。当てられるバチがあるなら当ててみろ」と豪語し、人々を追い返してしまった。
しかし大きな屋敷が出来上がった途端、生まれて間もない村長の娘が急死する。
死因は乳幼児特有の突然死だったのだろうが、村人達は『禁所を犯したからだ』『禁忌を破ったからだ』と噂し合った。
表立って口にする者はいなかったが、狭い村内の事、その噂が村長の家族の耳に入らないはずもない。
幼い子供を亡くしたショックと村人との確執からくる心労で、今度は妻が心を病んでしまった。
虚ろな表情で、また泣き喚きながら村中を徘徊する妻の姿を何人もが目にした。
そんな妻の様子に「恥晒し」と腹を立てた村長は、屋敷内の一室に妻を閉じ込めてしまった。
だが今度は村長の母親が原因不明の高熱を発し、七日七夜苦しみ抜いて亡くなった。
使用人達は気味悪がって次々と辞めていき、とうとう広い屋敷には村長と妻の2人だけになってしまった。
不穏な空気の中で、村人全員が息を詰めて生活している。
やがて村長自身も精神に変調をきたしたらしく、意味不明の叫びをあげながら犬や猫、果ては子供達までも棒を手に追い回すようになっていった。
この頃には村の中でも葬儀が立て続けに起きるようになっていた。
先週はあの家、一昨日はこの家、今日はあそこの家……と言った具合だ。
大人達はどうしたものかと額を寄せあって相談を重ねたが、良い案が浮かぶはずもない。
当時12歳だったミチさんや幼い弟妹、村の子供達は、大人の話に首を突っ込む事を禁じられていたが、それでも緊張を孕んだ空気は理解できたそうだ。
そんな中、村長の妻が自ら命を断った。
屋敷を抜け出し、村境の道祖神脇にそびえる楠の枝に縄をかけ、首を括ったのだ。
ここに至って、ミチさんの祖父母は決心を固めた。
ミチさんの両親に「この村はもうだめだ。禁忌を犯した以上、災厄は村全体に及ぶだろう。お前達だけでも村を出て暮らすように」と告げたそうだ。
一緒に村を出ようと説得する両親に「村長を止められなかった自分達にも責任はある。自分達はこの村の結末を見届ける義務もある。だが、お前達は子供の事を第一に考えなくてはいけない」と譲らなかった。
ミチさん一家は最低限の家財道具だけを持ち出すと、逃げるようにして村を後にした。
同じようにして村を去る家族も数軒あったそうだ。
その後、祖父母が亡くなるまでに数回手紙のやり取りがあったが、文末には必ず「絶対に村には帰ってこないように」と書き記されていた。
やがて祖父が亡くなり、間を置かず、後を追うようにして祖母も他界した。
しかし一家は、葬式に帰る事も出来なかったという。
事態が良くなる兆しは見えず、住民達は1軒、また1軒と村を去っていった。
残ったのは身寄りのない高齢の世帯が数戸のみ。
それも数年前には絶えてしまい、村は廃村となる事が決定した。
村長の交代から10年と経たずに、地図上から村は消えてしまったのである。
たった1人の男が「禁忌」を破ってしまったせいで。
禁じられるからには何かしらの理由があり、それを犯してしまったが故に振りかかる災厄には慈悲も温情もない。
そこに人間側の都合は一切考慮されない。
だからこそ「禁忌」とされるのだ。
了
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
悪役令嬢は手加減無しに復讐する
田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。
理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。
婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
