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第一章異世界に舞い降りたキチガイ

NPCには戻れない2/4

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「・・・というわけなので、このように進めていきますが、、、問題はありませんか?」

 場所は生徒会会館。
 明らかに、一般の高校生が座るには贅沢過ぎる椅子と机が並ぶ中、俺は机や椅子に気持ちから負けていた。
 手は、黄金比生徒会長の指示や議論を聞き逃さないようにメモを取ってはいるものの、頭の中は自分の冒険についてばかり考えているせいで身になっていなかった。

 「はい、そこについて、、、ああ、何か意見はあり、、、無いみたいなので、次は予算配分について話しましょう・・・」

 皆、俺と同じで何となくやる気が起きないのか、いいですよムードがぶわっと流れている。
おかげで早く会議が終わるというメリットがあるので、個人的にはうれしい。
 嬉しすぎて、考えがどうしても異世界の方にぶっ飛んでしまう。
・・・いや、どっちが現実かも最近は分からなくなってきた。
 日によっては、一日に2回門をくぐってしまうこともある。

もしかしたら、今日今必死で押さえてるタガが外れて、それ以上の数を重ねてしまうかもしれない。
アリア=レイディウスに植えられた雲の種が、腹の中でうずく。
・・・いや、これは『思いだし痛』ってやつか。

 門をくぐる度に、俺はNPCとして空から見るか、主人公として、、、サクラであるかをランダムに繰り返してる。
ただ、こっちに帰ってくるたびに、その両方の記憶が、俺に帰ってくる。
どっちが俺か分からなくすらなるこの状況だが、一つだけ言えるのは。

 俺のあそこでの主人公であった快感や記憶は俺のものであるという事だ。

 例えば、この会議の席でいきなり手を挙げて、バリバリ素晴らしい意見を言って会議を盛り上げたり
例えば、裏から仕切る渋い役
 例えば、めちゃくちゃな意見で場を揺るがすコメディ系主人公。

そう、朝日奈楓が持つ主人公だけが共感できるその感情や記憶が俺のものになるんだ。

 今日は部活で外せない用事があるらしくここにいない彼女は、今日もどことなくどよんとしていたが、もうそろそろ敏感な主要キャラの男どもが彼女を慰めはじめるだろう。
そして、彼女を復活させたものは、朝日奈楓物語の一躍、レギュラー枠に加わるってわけだ。
 NPCである俺には関係のない話だが。

とまあ、そんなこんなでアリア=レイディウスと過ごすあの異世界では2週間。
この現実では、大体一週間と2、3日かな・・・?
どうでもいい。
この会議が早く終わりさえすれば、それだけ疲れないで済むくらいしか結局考えてない。

よく、VRMMOものの小説を読んでいると、VRMMO中毒、別名『主人公中毒』というものにかかってしまう人間の描写に出会っちまう。
 現実のよわっちい自分と、ゲームの中の強い自分との落差にがっかりして、ゲームの中に何日も食事もせずに入り浸ってしまうことらしい。
 小説と現実は違うとは分かってるけれども、その心情が俺にはよく理解できる。

 「桜君、、、考え事かい?」

そんな声に思わずハッとなり、声の主を見てしまった。
 本来、ここにいるはずがない新聞君だった。
その横には、小柄でショートカットの可愛い女の子がニコニコしている。

 「あれ?新聞君、いつからそこに?」
 「・・・最初からいたよ?」

 新聞君は、やれやれと首を振った。

 「いや、文化祭実行委員会に学級長は必要ないだろ?」

 新聞君はハハハと笑いながらも、俺の肩を強い力で締め付けはじめた。
 、、、痛い。
 
 「僕の隣の山梨心陽やまなしこはるちゃんがヤンデレ過ぎる件については、君に毎日相談しているじゃないか!そして、彼女のせいで毎日この議事会に参加させられていることについても散々相談してきたじゃないか!それなのに君ったら、最近妙に上の空であーそうとかおー大変だねとしか返事くれないし!」

そういえば、そんな話も聞いた気がするが、、、最近はこっちの現実にいるときは、考え事ばっかしておざなりだからな。
ちょっと、後ろを見てみれば、山梨さんがニコッと笑いかけてきた。
ぞくっ

「ああ、、、たいへんだなー。ちょう、たいへんだなー。」
 「桜君、、、分かってくれたんだ、、、ひぃっ!後ろに冷たい金属的なナニかを押し付けられてるっ!」

かなしみのーむこーへとー辿り着けるならー僕はもうー要らないよーぬくもりもー明日もおぉぉぉぉ
 ・・・と、有名なヤンデレアニメの曲が頭の奥で流れている。
ああ、そっか、なんとなく思い出してきた。

そういや、初めての実行委員会で黄金比派の過激派の少女に命を狙われた時、助命嘆願として黄金比先輩への愛について必死に語った結果、その愛が本物か確認できるまではあなたを監視しますとかなんだかんだで、新聞君に監視が着いたとかいってたな。

そして一時でも怪しいと判断した場合は、彼女の一物が彼の命を狩るとかなんとか、、、まじ巻き込まないでほしい。

 「新聞君?黄金比先輩という心のアイドルがいるはずのあなたが、どうして男の人と親しげにみみうちしてるんですかー?どうしてなんですかー?」
 「ひぃっ、ま、待って、落ち着いて!確かに、僕たちは、お互いの命の危機には直ぐに駆けつけるぐらいには仲いいよ!でも、黄金比様ほど、僕はこいつに価値を抱いてない!」

おい、さりげなく俺を巻き込んでじゃねえよ、眼鏡。
 新聞君は必死になって、否定するが、山梨さんはいつの間にか彼の後ろに回り込んでおり、首に金属製の一物をあてがっていた。
 彼女は興奮しているのか、力をギリギリと腕に込めており指先は溜まった血で真っ赤っかに、新聞君の柔肌はそれとは反対に真っ白になっていく。

 「嘘です!嘘です!私の友達がこの前、『如峰月君の鬼畜眼鏡攻め×新聞君の誘い眼鏡受け』が最近の流行だって話してるの私聞いてるんですから!」
 「おい、ちょっと待て!いつの間にそんなおぞましい話が広まってる⁉」
 「それより、僕を助けてくろさい!頭の中でS○HOOLD○YSの曲が流れ始めてる・・・うわあああああああああああ」

カオスなその状況は、後で黄金比生徒会長にSEKKYOUされることで、終わりました。
 山梨さんはその後新聞君を山奥で刈りに、新聞君は川へ流されに行きました。

 「たく、、、お姉さまがせっかく最後の指揮を執っていますのに、何でこんなにやる気がでないんでしょう・・・黄金比派としては、今年は朝日奈派と全面戦争をしながらとはいえ、切磋琢磨していくことで最高のモノが作れるんじゃないかとワクワクしていたんですけど、、、リーダーがあの様子ですしね。みんな、しらけちゃったっていうか、、、とにかく、、、ちょっとがっかりしちゃったってのはありますね。じゃ、行きましょうか。新聞君」

 彼女が言ったそんな言葉が耳に残って、、、そして、、、俺の心には残んなかった。
 山梨小陽の望みは、朝日奈楓が復活しない限り、叶わない望みであるし、それをどうこうできる人間はいないからだ。
 朝日奈楓が何を望んでああなってるか、、、どうすりゃ悩みを解決できるか、、、なんて、それがわかりゃ、そいつが主人公ってやつだ。

 「たく、、、せっかく合唱コンクールがもうすぐ終わって、後は期末だけだって時なのになんで女の子にストーキングされてるんだろうね?元はといえば、君が僕を見捨てたことからだよね?あれ?なんで、僕山に連れていかれるの?え?黄金比様への忠誠心を深める為に一緒に滝行?はははは、、、朝の目覚ましから、寝る時のメールまで見張られて、、、最後は、、、ははははははははははははは。・・・嫌だあぁ!逝きたくないようぅ!」

 彼のそんな嘆きが耳に残って、、、離れなかった。
 、、、そして、心に超残った。
 新聞佑よ、、、生きて帰れ。
彼を助けられる、、、それを勇者っていうんだ。

 


俺は部室棟へと向かっていた。
なぜかというと、黄金比生徒会長に今日、部活の大会に向けた会議とかなんたらで参加できなかった彼女に、今日の議題録を渡してくれと頼まれたからだ。
ぶっちゃけ未だに仲直りできてないし、明日にでも誰かに頼んで渡してもらおうと思ったのだが

 「黄金比様の頼みをすぐに実行しないとは、、、死にたいんですか?」

山梨心陽さんがそうおっしゃり始めたので、すぐに実行に移しているというわけだ。
べ、別に、滝行に連れていかれるのが怖かったんじゃない。
ド○クエでもあるだろう?命を大事に。
いのち、ちょー大事。

この学校は私立で、とんでもない寄付金を毎年出してくれる方もいらっしゃる事もあり、文武共に充実した設備が整っている。
 一番の目玉は、生徒会館であるが、この部室棟も負けてはいない。
 一つ一つの部の為に、ワザワザ教室並の広さの部室を一つずつ用意されているだけでなく、バスケ部なら体育館とか、野球部ならハイテク芝生の球場一つといったトンデモ設備が備わっている。

そのせいで迷ってしまいそうな広さである一方、バスケ部の位置は分かりやすい。
ファン的な人の応援が一番うるさいところが、そこだ。
 毎年設備分の結果を叩きだす強豪であることもその理由だが、今年は特に朝日奈楓を筆頭に部全体の顔面偏差値が東大並みに高いため注目度が高い。
 特に、女子バスケ部。

 「楓!お願い!」
 「はい!」

美少女が、美少女にマーキングされていた為、美少女をかわして、美少女にパスする。
キラキラし過ぎて、直視できないわー。
俺の誰にでもできる推理によって発見された、女子バスケ部は試合中か。
どうやら、ミニゲームをやっているようでまだしばらくかかりそうだし。

仕方ないと観客席をおり、玄関近くの自動販売機でダラダラ飲み食いをすることにした。
てか、体育館にラーメンとかパンとか売ってんのって俺得すぎる。
パンと牛乳を、、、いや、牛乳はもういいやと、リンゴジュースにした。
あれはもう、トラウマである。

「あれ?如峰月?」

軽食を楽しんでいると、後ろから声をかけられた。
 振り向いてみると、、、げ。
 
白凪優子しらなぎゆうこ

ペッタンコな朝日奈・・・さんとは対照的にスタイルは良く、高い身長と強気な目つきが印象的。
練習着姿なのに身に着けてる小物一つからお洒落に感じてしまうのは彼女がかなりのお洒落番長だから。 
そして、俺が評価するならば、、、

 俺のことを超嫌ってるスタイル抜群&楓たんスキスキ美少女。
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