狐に娶られる猫~昔の夫を忘れられない猫は大妖狐に魅入られる~

村雨 妖

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3.狐の追手(4)

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 大丈夫だと思う理由を聞きたかったけれど、こんな表情をされては聞いていいのか躊躇われる。
 弥生が理由を聞けずにいると、撫子は感情を押し殺して問いを投げかけてきた。

「それで、弥彦様は?」
「えーっと、僕かい? 僕は猫又。ただの旅妖怪さ。それで? 君は本当にこれからどうするつもりなのかな? 連れ出した手前、できる限りの事はするけど」

 弥生が尋ねると、撫子は自分の望みを口に出すことを一瞬躊躇したようだったけれど、再び意を決したようにして口を開いた。

「あの、弥彦さん。私、弥彦様にお願いがあるんです」

 弥生は嫌な気配を察した。なんとなく彼女が望んでいる事がわかってしまったからだ。

「聞くだけなら聞いてあげるよ」
「あの、私を弥彦様の旅に連れて行ってください! お願いします!」

 予想通りだった。
 撫子は深々と頭を下げ、体をビクビクと震わせてる。ずいぶんと勇気を奮った事だろう。
 けれど弥生の返答は最初から決まっていた。

「ダメ」
「なんでですか‼」
「僕がこれ以上君という危険を背負いこむ理由がない」
「私にはあります! ついて行きたい理由! 弥彦様、私、連れ出していただいたあの瞬間から、あなた様の事をお、お、お慕いいたしております‼」

 撫子は頬を染め、真剣な目で弥生の事を見つめていた。どうやら心は決まっているようだ。

「うーん、気持ちは嬉しいけど、僕は訳ありだから、恋愛とかそういうのはちょっと……」
「もう奥さんはいらっしゃらないんでしょう?」
「いや、いたのは奥さんではないんだけど……」

 撫子に圧され、ごにょごにょと答えたのが火に油を注いでしまったらしい。ここぞとばかりに、撫子は身を乗り出してきた。

「なんですか‼ はっきり言ってください!」
「えーっと……」

 その時、近くに何者かの気配を感じた。
 気をつけてはいたけれど、今の一瞬を突き接近されたようだ。それにしても、この数秒でここまで近づかれた事には驚きだった。

(手練れか)

 弥生は気配の主から撫子を自分の背で庇うように立ちはだかった。

「弥彦様?」
「追手かもしれない」
「え? もうですか?」

 気配の主は気取られた事など気にする様子もなく、着実に2人の元へ近づいていている。
 待ち構える2人に緊張が走った。
 そしてその妖怪は堂々と弥生と撫子の前に現れた。

「撫子、迎えに来たぞ」
「大和……兄様……」

 兄様。
 つまり今弥生たちの目の前にいるのは、撫子の婚約者本人だ。
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