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4.彼女の婚約者(2)
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「撫子」
「……っ!」
撫子は大和からそんな風に名を呼ばれたことがないのかもしれない。驚き、怯えたように肩をすくめた。大和の方も一見平静を装っているけれど、どこか顔を歪ませているようにも見えた。
それでようやく撫子は告げる決心をしたようだ。
「えっと、その……私にとって大和兄様は本当のお兄様のような方です。だからこそ、そんな方と夫婦になる事なんて考えられなくて……その……お兄様は、私がお兄様を好きじゃないから結婚を決めたみたいですし……」
「……知っていたのか」
「はい……」
俯く撫子を見て、大和は嘆息を漏らした。
その時弥生は直感した。こんなしこりの残るような出来事がなければ、自分が起こさなければ、互いに恋焦がれるような思いを持てずとも、2人なりの理想的な夫婦というものを見つけられていたのではないだろうかと。
けれど起こしてしまった出来事は、どうあっても消えはしない。弥生は余計な事をしてしまったのだと、己の行動を深く後悔した。
それを裏付けるように、大和は怒る事なく、呆れる事もなく、ただ撫子を優しく諭し始めた。
「俺もお前が恋や恋愛に憧れているのは知っている。だとしても、これはお前の好き嫌いでどうにかなる話ではないんだぞ?」
「……」
「この婚姻はお前の家のためでもあるんだ。次期当主であるお前の兄が任に失敗し、管桜の権威が失墜した。多額の負債も負った。今管桜に権威を落とされては困るため、お前が狐族の長であり柳之宮の当主である俺と婚姻を結ぶことになった。わかるな?」
「はい……」
撫子は口数少なく、縮こまってしまっていた。自分が起こしてしまった事態をずいぶんと後悔しているのだろう。
大和はさらに追い打ちをかけるように話を続けた。
「それとな、たとえお前が願い出た事であっても、この事態を招いたのはそいつ自身の判断と行動のせいでもある。その責は取らせなければならない」
「そんな……」
「自覚しろ、撫子。お前の愚かな言動が周りを巻き込むことになるのだと。それにお前が今回のことを計画したのなら、お前にも二度と同じ過ちを犯さないよう、罰を与えねばならない。今回の騒動、お前が思っているより大事になっているんだ。そうだな。1カ月ほど客間に籠って写経を。風呂と厠に行く以外出てはならない。食事も質素なものにする。今回はそれで許そう」
「……はい。お兄様」
おそらくずいぶんと譲歩した罰だ。
やってはならないとわかった上で行動に移したのだから、見つかってしまった以上、潔く罰を受けるべきだろう。弥生自身は撫子の願いを聞いた時点でその覚悟はできていた。撫子も助けを求めた時点で、逃げ切れる可能性が低い事は覚悟していたはずだ。
それでも小さく縮こまっている少女の姿を見て、弥生はどうにかしてあげられないだろうかと思ってしまった。
「……っ!」
撫子は大和からそんな風に名を呼ばれたことがないのかもしれない。驚き、怯えたように肩をすくめた。大和の方も一見平静を装っているけれど、どこか顔を歪ませているようにも見えた。
それでようやく撫子は告げる決心をしたようだ。
「えっと、その……私にとって大和兄様は本当のお兄様のような方です。だからこそ、そんな方と夫婦になる事なんて考えられなくて……その……お兄様は、私がお兄様を好きじゃないから結婚を決めたみたいですし……」
「……知っていたのか」
「はい……」
俯く撫子を見て、大和は嘆息を漏らした。
その時弥生は直感した。こんなしこりの残るような出来事がなければ、自分が起こさなければ、互いに恋焦がれるような思いを持てずとも、2人なりの理想的な夫婦というものを見つけられていたのではないだろうかと。
けれど起こしてしまった出来事は、どうあっても消えはしない。弥生は余計な事をしてしまったのだと、己の行動を深く後悔した。
それを裏付けるように、大和は怒る事なく、呆れる事もなく、ただ撫子を優しく諭し始めた。
「俺もお前が恋や恋愛に憧れているのは知っている。だとしても、これはお前の好き嫌いでどうにかなる話ではないんだぞ?」
「……」
「この婚姻はお前の家のためでもあるんだ。次期当主であるお前の兄が任に失敗し、管桜の権威が失墜した。多額の負債も負った。今管桜に権威を落とされては困るため、お前が狐族の長であり柳之宮の当主である俺と婚姻を結ぶことになった。わかるな?」
「はい……」
撫子は口数少なく、縮こまってしまっていた。自分が起こしてしまった事態をずいぶんと後悔しているのだろう。
大和はさらに追い打ちをかけるように話を続けた。
「それとな、たとえお前が願い出た事であっても、この事態を招いたのはそいつ自身の判断と行動のせいでもある。その責は取らせなければならない」
「そんな……」
「自覚しろ、撫子。お前の愚かな言動が周りを巻き込むことになるのだと。それにお前が今回のことを計画したのなら、お前にも二度と同じ過ちを犯さないよう、罰を与えねばならない。今回の騒動、お前が思っているより大事になっているんだ。そうだな。1カ月ほど客間に籠って写経を。風呂と厠に行く以外出てはならない。食事も質素なものにする。今回はそれで許そう」
「……はい。お兄様」
おそらくずいぶんと譲歩した罰だ。
やってはならないとわかった上で行動に移したのだから、見つかってしまった以上、潔く罰を受けるべきだろう。弥生自身は撫子の願いを聞いた時点でその覚悟はできていた。撫子も助けを求めた時点で、逃げ切れる可能性が低い事は覚悟していたはずだ。
それでも小さく縮こまっている少女の姿を見て、弥生はどうにかしてあげられないだろうかと思ってしまった。
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