狐に娶られる猫~昔の夫を忘れられない猫は大妖狐に魅入られる~

村雨 妖

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4.彼女の婚約者(4)

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(ここらが潮時なのかな。僕はどこに行こうと、何をしようと、こうして君を側に感じられればそれいいんだ。君だって目の前で女の子が困ってたら手を差し伸べるだろう? あの子、とってもいい子だよ。いい加減止めてあげないと、これから夫婦になろうってのに、早々に離縁するとか言い出しかねない。もしくはこの場で婚約破棄するとか言い出すか)

 狐の念は強い。逃げられない婚姻目前でそんな事を言わせてしまっては、撫子の夢が一生叶わなくなるかもしれないと思った弥生は何でもない風を装って口角を上げた。自分の自由と引き換えなど割に合わないけれど、今の姿の弥生の行動指針は“女性には優しく”なのだ。

「それでかまわないよ」
「やっ、弥彦様⁉」

 撫子は困惑の声を上げた。
 対して大和は面白い見世物でも見ているかのように笑っている。実際あの男にとって、今の弥生など見世物程度の価値しかないのだろう。

「ほう。やけに自信ありげだな。俺に勝てるとでも?」
「自信なんかないさ。むしろ今の僕じゃ、100%君に勝てるわけがない。ただ、してしまった事の尻ぬぐいは、自分でしないとって思っただけだよ」
「その潔さ気に入ったぞ。お前も男だ。二言はないだろうな?」
「ああ。ただ、僕が勝った時と負けた時の条件が釣り合っていないように感じるから、僕が負けた時、1つだけお願いしたいことがあるんだけど、いいかな?」
「内容によるが、まあ、とりあえず聞いてやろう。何を望む」
「彼女との婚姻が破棄できない事だというのなら、せめて彼女を愛する努力をしてあげてほしい。君にとっては違うのかもしれないけど、彼女にとって婚姻を結ぶという事は、愛しい妖怪と美しい日々を重ねていくための誓いであり、憧れでもあるんだ。それだけでいい。約束してくれないかな?」

 自分のこれからの自由が全て犠牲になるというのなら、せめてこれくらいは叶えてもらわなければ、本当に割りに合わない。そう思った弥生は真剣なまなざしで大和に告げた。
 ただ、それの何が気に障ったのかはわからないが、大和の眉間に不快そうな皺が寄った。

「そんな事…………わかった。約束しよう」

 その表情が拒絶しようとしたからなのかはよくわからない。けれど約束は交わされた。
 これで心配事はなくなった。どうせ旅も、何をしていいかわからなくなった弥生が、大切な人と最期を迎えるまでの暇つぶしでしかないのだ。
 そう思っていたはずなのに、弥生の顔は無意識に切なげな笑みを浮かべていたのだった。
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