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6.狐に下った猫(1)
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額に描かれた鉄臭い紋は消えても、生暖かいものをつけられた不快感はそう簡単には消えはしない。残った感触が気になり指でなぞっていると、大和が思い出したかのように口を開いた。
「ところでお前、猫又だったよな?」
「ん? そうだけど」
「尾の数は?」
弥生は首を傾げた。
大和は妖力を感じ取る能力に長けている。手を抜いていた事を見抜いた事も含めると、尾の数まではわからずとも今の手合わせで弥生がどの程度の妖力を扱える妖怪なのか既に把握できているのではないだろうか。ならば今さらわざわざ聞く必要などないはずだ。
「……尾の数? 僕のかい?」
「そう言っている。手合わせの時に探った感じだと3、いやその前の大規模な幻術での消費を考えると4尾か? そう思っていたのだが、今思うとどうにも何かが引っ掛かる。お前、幻術以前にどこかで大掛かりな術を使っていたんじゃないか? 正直に答えろ」
弥生は純粋に驚いた。頭だけでなく感覚も勘も鋭いとは。まさか妖力の残る尾の数を正確に言い当てられるとは思っていなかったのだ。しかも、たしかに元の性から男の体へと変貌を遂げる際にずいぶんと妖力を消費している。普通はわかるわけがない。
「そんな事までわかるんだ。すごいな」
「やはり、5尾以上だったか」
「うん」
「それは良い拾い物をした」
大和が悦に浸るのも無理はない。
妖怪の中には、同じ系統ごとの妖怪で集まって暮らす者達がいる。人間界で動物と言われる生き物に近いしい耳や尾を持つ獣妖怪と呼ばれる妖怪の多くにも、その習慣は根付いている。そしてその集団の上には、彼らを庇護している大妖を当主とする一族、もしくは同じ種族の妖怪が集まってできた家門がいくつも存在している。
各家門にはそれぞれ地位があり、その地位は当主の尾の数、またそこに属する5尾以上の妖怪の数が大きく影響する。そしてそこに御家の働きが影響して多少上下する。
ただ、5尾以上の大妖を配下に引き入れるのは、なかなかに困難を極める。
現状、5尾以上の妖怪が2人以上の御家は、弥生が知る限り3つで、どこも2人だ。そもそも尾を5尾まで増やすことができた獣妖怪の数自体が少なく、過酷な状況を潜り抜けてきた兵ばかりで各々自尊心が高く、己を当主とした家門を打ち立て、名を上げたがる。そんな自尊心の塊のような妖怪が他の妖怪の下に付くことはごく稀。故に隷属とはいえ、そんな兵が配下として名を連ねる事になれば御家の箔が付き、その御家の格は跳ね上がるのだ。
そして争いを起こさないよう家門同士で決めた規則が、大妖が大妖を従える事を余計に困難にさせている。名立たる家門に属する妖怪は隷属させてはならないという決まりだ。他家に大きな損害を与えた賠償のために隷属の契りを交わすといった例外も作られてはいるが、今までその例外が当てはまった事例はない。
故に自分の家門に5尾以上の力の者を引き入れるには、弥生のように己の家門を持たず、フラフラと放浪している変わり者を探すしかないのだ。
「ところでお前、猫又だったよな?」
「ん? そうだけど」
「尾の数は?」
弥生は首を傾げた。
大和は妖力を感じ取る能力に長けている。手を抜いていた事を見抜いた事も含めると、尾の数まではわからずとも今の手合わせで弥生がどの程度の妖力を扱える妖怪なのか既に把握できているのではないだろうか。ならば今さらわざわざ聞く必要などないはずだ。
「……尾の数? 僕のかい?」
「そう言っている。手合わせの時に探った感じだと3、いやその前の大規模な幻術での消費を考えると4尾か? そう思っていたのだが、今思うとどうにも何かが引っ掛かる。お前、幻術以前にどこかで大掛かりな術を使っていたんじゃないか? 正直に答えろ」
弥生は純粋に驚いた。頭だけでなく感覚も勘も鋭いとは。まさか妖力の残る尾の数を正確に言い当てられるとは思っていなかったのだ。しかも、たしかに元の性から男の体へと変貌を遂げる際にずいぶんと妖力を消費している。普通はわかるわけがない。
「そんな事までわかるんだ。すごいな」
「やはり、5尾以上だったか」
「うん」
「それは良い拾い物をした」
大和が悦に浸るのも無理はない。
妖怪の中には、同じ系統ごとの妖怪で集まって暮らす者達がいる。人間界で動物と言われる生き物に近いしい耳や尾を持つ獣妖怪と呼ばれる妖怪の多くにも、その習慣は根付いている。そしてその集団の上には、彼らを庇護している大妖を当主とする一族、もしくは同じ種族の妖怪が集まってできた家門がいくつも存在している。
各家門にはそれぞれ地位があり、その地位は当主の尾の数、またそこに属する5尾以上の妖怪の数が大きく影響する。そしてそこに御家の働きが影響して多少上下する。
ただ、5尾以上の大妖を配下に引き入れるのは、なかなかに困難を極める。
現状、5尾以上の妖怪が2人以上の御家は、弥生が知る限り3つで、どこも2人だ。そもそも尾を5尾まで増やすことができた獣妖怪の数自体が少なく、過酷な状況を潜り抜けてきた兵ばかりで各々自尊心が高く、己を当主とした家門を打ち立て、名を上げたがる。そんな自尊心の塊のような妖怪が他の妖怪の下に付くことはごく稀。故に隷属とはいえ、そんな兵が配下として名を連ねる事になれば御家の箔が付き、その御家の格は跳ね上がるのだ。
そして争いを起こさないよう家門同士で決めた規則が、大妖が大妖を従える事を余計に困難にさせている。名立たる家門に属する妖怪は隷属させてはならないという決まりだ。他家に大きな損害を与えた賠償のために隷属の契りを交わすといった例外も作られてはいるが、今までその例外が当てはまった事例はない。
故に自分の家門に5尾以上の力の者を引き入れるには、弥生のように己の家門を持たず、フラフラと放浪している変わり者を探すしかないのだ。
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