魔の騎士長様に嫁いだ少女 ~魔族の国に迷い込んだら美形魔族の妻にされました~

村雨 妖

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何故モテる?

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 初めて騎士棟に連れてこられてから3日。
 私はフォスさんに連れられ、毎日ここに通っている。フォスさんの部下の騎士さん達とは、かなり仲良くなれたと思う。

(はじめは怖かったけど、見た目に反していいヒトばっかりで話をするの楽しかったな……フォスさんと話すよりも)

 それと、この3日でフォスさんについて、さらに分かったことある。
 フォスさんは、魔族の女のヒトにひっっっっじょぉぉぉぉぉぉにおモテになられていること。
 出勤の途中に女のヒトに声をかけられ、食事に誘われるところを何度も見た。けれど、フォスさんは彼女たちの申し出に応じることはなく、やんわりと断り続けていた。
 そしてそれを横で見ていた私は、フォスさんの隣を3日も連続で歩いていたせいで、誘いを断られた女のヒト達からすごく睨まれるようになってしまった。

(という、ものすごく迷惑な話に繋がるのですよ……睨まれても、私にはどうしようもないんだけどなぁ)

「はぁぁぁぁ……」

 外を歩くたびに四方から睨まれるという余計なストレスにのしかかられるようになったことを思い出し、盛大な溜息をついた。
 すると、先ほどまで剣の打ち合いをしていたミリアがひょっこりと現れた。この3日でミリアとは呼び捨てで名前を呼ぶくらいには仲良くなれた。
 彼女は25歳。新しくできた頼りがいのある姉のようだ。
 そう考えると本当の姉、ユキ姉の事がいまどうしているかが気になってきた。

(ユキ姉の方は大丈夫だったのかな。きっと無断で街を抜け出してたのがばれて大目玉食らったんだろうな……お母さんもどうしてるんだろう。2人とも毎日私の事心配してくれてるのかな)

 離れ離れになってしまった家族の事を考えていると、ミリアが顔を覗かせてきた。
 不安が顔に出ていたのかもしれない。ミリアは心配そうな声音で話しかけてきた。

「どうしたの?」
「いろいろなことがありすぎたせいか、なんか憂鬱で……1番の原因はやっぱり、選り取り見取りのフォスさんがなんで私なんかをお嫁に貰おうなんていう暴挙に出たのかが未だに謎だってことなんだけどね。いや、理由は知ってるけどさぁ……」
「あら、贅沢なな悩みね。って言ってあげたいけど、相手が騎士長だから仕方ないか」

 ミリアは気分を変えさせようとしてくれたのだろう。冗談めかした口調だった。
 私はミリアの策の通り、私にはその口調をちょっと面白く思っていた。ミリア自身もその言い方がツボにはまったようで、2人でくすくすと笑いあった。

 それにしても、フォスさんはあんな変な人なのに、モテモテなのかが理解不能だ。
 あんなにも突拍子のないことを言うし、するしなヒトなのに本当に不思議。
 きっとそのことに気付けば、みんなのフォスさんに対する熱は急激に冷めるはずだ。そうすれば私も、毎朝女のヒト達から睨まれるなんてことはなくなるのではないだろうか。

「皆さん早くフォスさんの見た目に騙されていることに気が付いてくれないかなぁ。あんな刺さるような視線の中、ここまで来たくないよ」

 その愚痴を聞いたミリアは笑い気味に首を横に振った。

「無理無理! あのヒト、興味がない相手には普通だから」
「それは、黙っていればイケメンなのに、というやつですね」
「そうそう。人間の国にもそんな言い方あるんだ」
「うん、あるんだよ」

 1日の中で、こうしてミリアとふざけ合うのが楽しみになっていた。
 フォスさんの家に帰っても、何をさせられるわけでもなく、したいこともない。
 ただ、フォスさんに食事の準備や洗濯とか、一から十まで何もかもやってもらってるんじゃないかってくらい甘やかされているだけ。

(そういえば、世の中の夫婦っていったいどんなのなんだろう)

 物心ついたころにはすでにお父さんは亡くなっていたせいで、夫婦がどんなものなのかよくわからない。そもそも、フォスさんは何を求めてお嫁さんをもらいたいなんて思ったのかもわからない。
 本当に彼のことが全くわからない。
 そんなことを考えていたら、言葉を不意に発してしまっていた。

「はぁ。フォスさんにとっての妻って何なのかなぁ。家事をさせられるわけじゃないし」
「それ、本人に聞いてみたら? その方が話す機会もできるから、騎士長についてわかってくるかもしれないし。これから長いこと一緒にいることになるんだから、早めにあの人のことわかってた方がいいと思うよ。こじれちゃう前にさ」

 私はもうすでに、フォスさんとの関係はこじれきっている気しかしていなかった。
 フォスさんは私に気に入られようと、いろいろ努力はしてくれてはいるとは思う。けど努力の方向性がおかしいため、私の方が拒絶しているという感じだ。

(それならミリアが言うように、フォスさんの事を理解できるよう向き合うに努力を……いやいやいや! 無理やり連れて来て嫁にするとかいうヒトと仲良くなんて、普通できるわけなくない⁉)

 とは考えたものの、私には家に帰してもらえる予定は無い。この街で普通に生活を送るためにも、フォスさんに歩み寄るのが一番の策なのかもしれない。
 私は肩を落とした。
 
「そうだねぇ」

 座ってそんな話をしていると、騎士さんたちが訓練をしている向こうから誰かが歩いてきていることに気が付いた。フォスさんだ。
 その顔には何故か「不満だ」という文字が書かれているように見えた。

「なんだい、お前達。また話し込んで。仲が良すぎだろう」
「いいじゃない。フォスが無理やり連れてくるから、ナツキ、することなさそうにぼーっとしてて可哀想なんですもん。ねぇ」

(ねぇと言われても。どう返事をしていいのやら……)

 まぁ、フォスさんの味方をするいわれもないので、ミリアに話を合わせることにした。

「うん」
「ほぉら」

 ミリアは楽しそうに私のことをギュッと抱きしめてきた。
 ミリアのことは好きだし、ぎゅっとしてくれるのは素直に嬉しいのだけど、髪の蛇が気になって仕方ない。嚙まれないだろうかと。
 私は噛まれないようにちょっと首を横に傾けた。
 私たちの様子を見たフォスさんは、「はぁ」と溜息をついて言った。

「わかったわかった。もうしっかり話はできただろ。ミリア。君は練習に戻りなさい。その後街の見回りもあるだろう」
「はいはい……っあ! もしかして騎士長様は私に嫉妬されてるんですかぁ? だから早くナツキと引き離したいんだ」

 ミリアはニヤニヤとフォスさんを見ていた。
 わざわざ”騎士長様”と言っているあたり、からかっているのだろう。

「馬鹿なこと言ってないでさっさと行け」
「ふふふ。素直じゃないんだからっ。ナツキ、また後で話しようね」
「うん」

 ミリアは他の騎士さんのところへ走って行くと、適当なヒトを捕まえて打ち合いを始めた。
 私はこの場にフォスさんと取り残されてしまった。何を話せばいいんだろう。
 ふと思いついたので、帰ってくる答えのことなど考えずそれを聞いてみることにした。

「……フォスさんってミリアと仲いいですよね」

(しまった! なんかこれ、彼氏が他のヒトと話してるのを見て、嫉妬してるみたいじゃない! どうにかごまかさないと!)

 そう気が付いた途端に顔が熱くなった。

「あ、いや、その」

 私の突拍子のない発言に驚いたようで、フォスさんは一瞬目を丸くしていた。

「そうか? 誰とでもこんな感じだと思うんだがな」

 フォスさんは本当になんとも思っていないようだ。不思議そうにしている。
 けどフォスさんがそうでも、ミリアはフォスさんのことはまんざらでもなさそうなのだ。

(本当はフォスさんのことが好きで、実は私のことを使って取り入ろうとか思ってるんじゃ……って、ミリアはそういうタイプじゃないか)

「おい、変な勘繰りを入れるんじゃないぞ? あいつとは、俺がもっと下っ端の頃からの付き合いだからそう見えているんだろう。そもそもあいつには恋人がいるんだ。俺なんざ相手にすることないだろうよ」
「え⁉ そうなの⁉」
「そんな話はしないのか? 女は好きだろ? 恋バナなる話が」
「まぁ、好きではありますけど」

 衝撃の事実だった。まさかミリアに恋人がいるとは。

(ミリアも大人だし、いてもおかしくはないか……)

 フォスさんは、私がそう納得したのを察したのだろう。
「またあとでな」と頭を撫でると、騎士さんたちの訓練の場に行ってしまった。

(……憎いと思ってるのに、このヒト懐っこさのせいで心から憎めないのが恨めしい……)

 私は心臓を高鳴らながら、頭を撫でた。
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