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ある日の朝
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今日はフォスさんが非番の日。
テーブル付きの椅子に座るフォスさんは、朝からのんびりと何かの書類を見ながらコーヒーのようなものを飲んでいた。
それはコーヒーのようなのだけれど、匂いが私の知っているものと少し違う。魔の国特有のコーヒーに似た何かなのだろう。
対して私はというと、フォスさんからどうにか奪い取った食事を作るという権利を存分に有効活用して、人間の国から輸入された食材で朝食を作っているところだった。
権利を奪い取った後に、またフォスさんについて分かったことがある。
(やっぱりフォスさんって今までまともな料理という料理を作ったことがなかったみたいなんだよね。これまでずっと外食か、炒める! もしくは、茹でる! な食事だったらしいし。あのまま任せてたら食欲失せて、私の栄養状態が危なくなってた気がする)
私の作る人間の国の料理は、幸いなことにフォスさんの口に合うようで毎日モリモリ食べてくれている。
いっぱい食べてくれるし、何より「うまかった」と言ってくれるから、こちらとしても作り甲斐があるというものだ。
朝食を作り終えると、私はテーブルの上に皿を並べ始めた。
その間もフォスさんはずっと書類に目を通し続けている。いつもならすぐに気がついて手伝ってくれるというのに。
(フォスさん、何見てるんだろう? 難しい顔してるし、何か大事件でも起きたのかな?)
朝食の乗ったお皿をフォスさんの前に置いた。
「何を見てるんですか?」
声をかけると、フォスさんはこっちを見て優しく笑った。
「これか? これは仕事の報告書だ。最近、所有者のある人間がさらわれるという事件が目立って増えてきていてな。今後の対策を考えていたんだ」
「所有者のあるってことは、奴隷になってる人間ってことですか?」
「ああ、そうだ」
「目立ってるってことは誘拐された人ってけっこう多いんですよね? その人達がその後どうなるっていうのはだいたい予想付きますし、1人くらい行先見つかってないんですか?」
おそらく犯人は別の魔族に売って儲けるために誘拐しているはず。
売られ先になりそうなところを調べれば誘拐された人を見つけ出すことができて、話を聞けそうなものだ。
(まあ、フォスさんが悩んでるってことは、まだ見つかってないってことなんだろうけど)
思った通りのようで、フォスさんは困った表情をして書類に視線を落とした。
「残念ながら、さらわれた人間がどこに連れていかれているか全くわかってないんだ」
(やっぱりそうなんだ)
しかしながら、全く見つかっていないというのも不思議だ。
そんなに大規模な犯罪なら、証拠が全く見つからないはずはないだろうに。
「けど、そんなに頻繁に起きているなら、どこかで誘拐された人を見かけたとか、そういう噂が出てきそうなものですけど……見つかるまではいってなくても、どこかで知り合いが見かけたりとか、そういうちょっとした事もわからないんですか?」
「うむ、そういった報告も一切上がってきていない。おそらくは遠い他の国……他の街で売り飛ばされているのだろうな」
「そうなんですね」
正直、この話は私も人間である以上他人事で済まされる話ではない。もしもフォスさんの元から連れ去られてしまったらと思うと不安が押し寄せてくる。早く解決してほしい事件だ。
フォスさんは、「はぁ」と溜め息をついて報告書をテーブルの上に置いた。よほど騎士団もこの事件には悩まされているのだろう。
フォスさんは腕を組んでまた難しことを考えているような顔をしていた。
「魔族とそういう人間達の間には、信頼関係というものもないからな。国外で会ったとしても、互いを認識できるかどうか……おや、朝食ができていたのだな。いただこう」
フォスさんはやっと目の前に置かれたお皿に気が付いた。
先ほどまでの難しい顔が嘘のように、嬉々として箸に手を伸ばした。
上機嫌になったフォスさんに仕事の話を続けてもらうのもいただけない。
私はフォスさんの向かいの席に座った。
今日の朝食は白いご飯に、お味噌汁、焼き魚。
これはお母さんの故郷の料理だ。人間の国の中でも東方の地域料理で、私が住んでいた街で見かけることはあまりない。我が家ではスプーンやフォークやナイフじゃなく、東方の地域の風習に習って、箸を使ってご飯を食べている。
ここでも変わらない食事をしたいと思ってフォスさんに「箸が欲しいです」と頼んでみたのだけど、フォスさんは箸がどういうものか自体がわかっていなかった。魔の国には輸入されてきていないようだ。
無いのならば諦めようと思ったのだけど、フォスさんが「箸とはどんなものか」と聞いてきた。だから私は形状と使い方を伝えた。
するとフォスさんは数日後には木を購入した。はじめは何事だろうと思ったけれど、なんとフォスさんはその木からわざわざ箸を削り出して作ってくれたのだ。おまけに可愛らしい装飾まで施してくれた。
私がその箸を使って食事をするようになると、フォスさんも真似をするようになった。
最初は苦戦してポロポロと食べ物をこぼしていたけど、あっという間に上達し、今では食べる姿がしっくりきすぎるほどになっている。
たまに見とれてしまうくらい様になっていて、実を言うと今も見とれてしまっていた。
フォスさんはあっという間にお皿の上のものを平らげると、飲みかけだったコーヒーもどきを口にし、「ふう」と一息ついた。
「ナツキ」
突然真剣な顔で呼びかけられた。本当に突然すぎてなんでそんな表情で私を見てっ来るのか全く見当がつかなかった。
「えっ、なんです?」
「いいか。お前も気を付けるんだぞ。どこに危ない輩がいるかわからないんだからな」
たぶん“人間の誘拐事件”のことを言っているのだろう。
ただ所有物を取られるかもしれないという心配からなのか、それとも私個人を心配しているからなのか。
フォスさんのその言葉の真意はわからない。
(でも、どっちにしてもそんなに心配しなくてもいい気はするけど)
いつも私はフォスさんと一緒にいる。さらわれるような場面が思い当たらなかった。
「気を付けろって言われても、1人で外をうろつくわけじゃないし、フォスさんが騎士棟に連れて行くから、留守番もすることないですし、何を気を付ければいいんですか?」
そう言われて、フォスさんもはたと気がついたような顔をした。
「そうか、それもそうだな。……ふむ。いや、それでもやはり気を付けるんだ。外を歩くときは俺の側にしっかりとくっついているんだぞ。俺の隙を見てさらわれるということもあるかもしれんからな」
私にだけじゃなく、自分にも言い聞かせるように頷きながら言っていた。
正直、その言葉が私を心配してからの言葉だったとしても、心配してもらえて嬉しいというよりもある思いの方が大きく前に出ていた。
(そもそも私がここにいるのは、フォスさんが私を誘拐したようなものなんだけど、それは気づいてるのかな? 「あなたがそれを言う⁉」って盛大にツッコミたいところではあるんだけど、言ったところでフォスさん相手に通じると思えないし、やめとこ)
そう悟った私は頷きながら一言だけで返事をした。
「わかりました」
「ならよいのだ」
その話が終わるとフォスさんは黙々と朝食を食べ始めてしまった。
今日はこのままフォスさんと2人家の中で過ごさないといけない。
騎士棟に行ってる時は騎士さんたちが訓練している様子を見るのがそこそこ面白いから嫌いじゃないし、時折話しかけてくれるヒトもいるから、それほど退屈はしていない。
けれどフォスさんと2人となると何をしていいかわからないし、上手く話がかみ合わずモヤっとすることもあるため、ずっと一緒というのは困りものだった。
私のメンタルにとってはフォスさんの事を放っておくのが最善なんだろうけど、かといってそれはそれですることが無くなるため退屈になってしまう。
(うーん。今日はフォスさんの観察でもしてみようかなぁ)
そう思って悟られないように、こっそりと視線を向けた。
(やっぱり、見た目だけは好みなんだけどなぁ)
すると突然、フォスさんは「そうだ!」と私がびくっとするくらいの声を上げた。
一瞬視線がバレたかと焦った。
「ナツキ! 今日は外へ出かけよう! デートなるものをしてみようじゃないか! 互いに何か発見があるかもしれん」
フォスさんの目が好奇心旺盛な子供のように輝いてように見えた。
今の言い方。モテるくせに、これまで女のヒトとデートをしたことがないんだろうなと、そんなに勘の鋭くない私でも察してしまった。
(まあ、私もヒトのことは言えないんだけどね……それにしても、さっき誘拐の話をしたばっかりなのに)
「気をつけろって言った矢先に、それ言います?」
「いやな、俺もそう思いはしたんだが、せっかくの非番だ。きちんと街のことを案内してやりたくなったんだ。それに、衣類も俺が適当に買い与えたものばかりだろ? ナツキも好きに着飾れた方がいいんじゃないのか? いくらでも買ってやるぞ?」
「え?」
「おや? 着飾るのは嫌いかい?」
自分の着ている服を見た。
着替える服がないと八つ当たり気味に言って、買ってきてもらった無地のTシャツとズボン。最近着ている服と言えば、いつもこんな感じだ。
おしゃれが嫌でこんな格好で納得して言わけではない。ただ機会が無かったのと、顔を合わせる相手が魔族だし、フォスさんに気に入られようと努力するのも無駄だと思っていたから、あまり気にしてはいなかった。
(でもやっぱりかわいい服とかは欲しいな……それにミリアも、お金絞りとってやれみたいなこと言ってたし、ちょっとくらいいいよね?)
そう考えると答えは簡単に口から出てきた。
「わかりました。しましょう、デート!」
フォスさんの頭にある獣の耳がいつもよりぴょんと立ち上がり、ぴくぴくと動き始めた。
「よし。そうと決まればすぐに出かける準備をしようじゃないか!」
フォスさんは朝食を急いで口に運び、食べ終わるとすぐに行動を始めた。
食べ終わった皿を流しへ持って行くと、書類を机の上に置きっぱなしにしたまま、そそくさと部屋の外へと出て行った。
別の部屋から布の擦れる音が聞こえているから、外出用の服にでも着替えているんだろう。
私はというと、おしゃれできるほどの衣類や装飾品を持っていないので、このままの姿で出かけることにした。
とくに出かける準備をする必要のなかった私は、ゆっくりと朝食を食べた後、後片付けをしながらフォスさんが支度を終わらせるのを待った。
「ナツキー。すまないが、戸締りの確認しておいてくれー」
「はーい」
着替えるだけの割には結構時間がかかっている。男性は準備にそんなに時間をかけないと思っていたのだけれど、フォスさんはそんなに気合い入れた姿で出かけようとしているのだろうか。
さらに十数分が経過した。
(……戸締りもとっくの昔に終わってるのに来なんだけど……いつまで待たせるの⁉)
テーブル付きの椅子に座るフォスさんは、朝からのんびりと何かの書類を見ながらコーヒーのようなものを飲んでいた。
それはコーヒーのようなのだけれど、匂いが私の知っているものと少し違う。魔の国特有のコーヒーに似た何かなのだろう。
対して私はというと、フォスさんからどうにか奪い取った食事を作るという権利を存分に有効活用して、人間の国から輸入された食材で朝食を作っているところだった。
権利を奪い取った後に、またフォスさんについて分かったことがある。
(やっぱりフォスさんって今までまともな料理という料理を作ったことがなかったみたいなんだよね。これまでずっと外食か、炒める! もしくは、茹でる! な食事だったらしいし。あのまま任せてたら食欲失せて、私の栄養状態が危なくなってた気がする)
私の作る人間の国の料理は、幸いなことにフォスさんの口に合うようで毎日モリモリ食べてくれている。
いっぱい食べてくれるし、何より「うまかった」と言ってくれるから、こちらとしても作り甲斐があるというものだ。
朝食を作り終えると、私はテーブルの上に皿を並べ始めた。
その間もフォスさんはずっと書類に目を通し続けている。いつもならすぐに気がついて手伝ってくれるというのに。
(フォスさん、何見てるんだろう? 難しい顔してるし、何か大事件でも起きたのかな?)
朝食の乗ったお皿をフォスさんの前に置いた。
「何を見てるんですか?」
声をかけると、フォスさんはこっちを見て優しく笑った。
「これか? これは仕事の報告書だ。最近、所有者のある人間がさらわれるという事件が目立って増えてきていてな。今後の対策を考えていたんだ」
「所有者のあるってことは、奴隷になってる人間ってことですか?」
「ああ、そうだ」
「目立ってるってことは誘拐された人ってけっこう多いんですよね? その人達がその後どうなるっていうのはだいたい予想付きますし、1人くらい行先見つかってないんですか?」
おそらく犯人は別の魔族に売って儲けるために誘拐しているはず。
売られ先になりそうなところを調べれば誘拐された人を見つけ出すことができて、話を聞けそうなものだ。
(まあ、フォスさんが悩んでるってことは、まだ見つかってないってことなんだろうけど)
思った通りのようで、フォスさんは困った表情をして書類に視線を落とした。
「残念ながら、さらわれた人間がどこに連れていかれているか全くわかってないんだ」
(やっぱりそうなんだ)
しかしながら、全く見つかっていないというのも不思議だ。
そんなに大規模な犯罪なら、証拠が全く見つからないはずはないだろうに。
「けど、そんなに頻繁に起きているなら、どこかで誘拐された人を見かけたとか、そういう噂が出てきそうなものですけど……見つかるまではいってなくても、どこかで知り合いが見かけたりとか、そういうちょっとした事もわからないんですか?」
「うむ、そういった報告も一切上がってきていない。おそらくは遠い他の国……他の街で売り飛ばされているのだろうな」
「そうなんですね」
正直、この話は私も人間である以上他人事で済まされる話ではない。もしもフォスさんの元から連れ去られてしまったらと思うと不安が押し寄せてくる。早く解決してほしい事件だ。
フォスさんは、「はぁ」と溜め息をついて報告書をテーブルの上に置いた。よほど騎士団もこの事件には悩まされているのだろう。
フォスさんは腕を組んでまた難しことを考えているような顔をしていた。
「魔族とそういう人間達の間には、信頼関係というものもないからな。国外で会ったとしても、互いを認識できるかどうか……おや、朝食ができていたのだな。いただこう」
フォスさんはやっと目の前に置かれたお皿に気が付いた。
先ほどまでの難しい顔が嘘のように、嬉々として箸に手を伸ばした。
上機嫌になったフォスさんに仕事の話を続けてもらうのもいただけない。
私はフォスさんの向かいの席に座った。
今日の朝食は白いご飯に、お味噌汁、焼き魚。
これはお母さんの故郷の料理だ。人間の国の中でも東方の地域料理で、私が住んでいた街で見かけることはあまりない。我が家ではスプーンやフォークやナイフじゃなく、東方の地域の風習に習って、箸を使ってご飯を食べている。
ここでも変わらない食事をしたいと思ってフォスさんに「箸が欲しいです」と頼んでみたのだけど、フォスさんは箸がどういうものか自体がわかっていなかった。魔の国には輸入されてきていないようだ。
無いのならば諦めようと思ったのだけど、フォスさんが「箸とはどんなものか」と聞いてきた。だから私は形状と使い方を伝えた。
するとフォスさんは数日後には木を購入した。はじめは何事だろうと思ったけれど、なんとフォスさんはその木からわざわざ箸を削り出して作ってくれたのだ。おまけに可愛らしい装飾まで施してくれた。
私がその箸を使って食事をするようになると、フォスさんも真似をするようになった。
最初は苦戦してポロポロと食べ物をこぼしていたけど、あっという間に上達し、今では食べる姿がしっくりきすぎるほどになっている。
たまに見とれてしまうくらい様になっていて、実を言うと今も見とれてしまっていた。
フォスさんはあっという間にお皿の上のものを平らげると、飲みかけだったコーヒーもどきを口にし、「ふう」と一息ついた。
「ナツキ」
突然真剣な顔で呼びかけられた。本当に突然すぎてなんでそんな表情で私を見てっ来るのか全く見当がつかなかった。
「えっ、なんです?」
「いいか。お前も気を付けるんだぞ。どこに危ない輩がいるかわからないんだからな」
たぶん“人間の誘拐事件”のことを言っているのだろう。
ただ所有物を取られるかもしれないという心配からなのか、それとも私個人を心配しているからなのか。
フォスさんのその言葉の真意はわからない。
(でも、どっちにしてもそんなに心配しなくてもいい気はするけど)
いつも私はフォスさんと一緒にいる。さらわれるような場面が思い当たらなかった。
「気を付けろって言われても、1人で外をうろつくわけじゃないし、フォスさんが騎士棟に連れて行くから、留守番もすることないですし、何を気を付ければいいんですか?」
そう言われて、フォスさんもはたと気がついたような顔をした。
「そうか、それもそうだな。……ふむ。いや、それでもやはり気を付けるんだ。外を歩くときは俺の側にしっかりとくっついているんだぞ。俺の隙を見てさらわれるということもあるかもしれんからな」
私にだけじゃなく、自分にも言い聞かせるように頷きながら言っていた。
正直、その言葉が私を心配してからの言葉だったとしても、心配してもらえて嬉しいというよりもある思いの方が大きく前に出ていた。
(そもそも私がここにいるのは、フォスさんが私を誘拐したようなものなんだけど、それは気づいてるのかな? 「あなたがそれを言う⁉」って盛大にツッコミたいところではあるんだけど、言ったところでフォスさん相手に通じると思えないし、やめとこ)
そう悟った私は頷きながら一言だけで返事をした。
「わかりました」
「ならよいのだ」
その話が終わるとフォスさんは黙々と朝食を食べ始めてしまった。
今日はこのままフォスさんと2人家の中で過ごさないといけない。
騎士棟に行ってる時は騎士さんたちが訓練している様子を見るのがそこそこ面白いから嫌いじゃないし、時折話しかけてくれるヒトもいるから、それほど退屈はしていない。
けれどフォスさんと2人となると何をしていいかわからないし、上手く話がかみ合わずモヤっとすることもあるため、ずっと一緒というのは困りものだった。
私のメンタルにとってはフォスさんの事を放っておくのが最善なんだろうけど、かといってそれはそれですることが無くなるため退屈になってしまう。
(うーん。今日はフォスさんの観察でもしてみようかなぁ)
そう思って悟られないように、こっそりと視線を向けた。
(やっぱり、見た目だけは好みなんだけどなぁ)
すると突然、フォスさんは「そうだ!」と私がびくっとするくらいの声を上げた。
一瞬視線がバレたかと焦った。
「ナツキ! 今日は外へ出かけよう! デートなるものをしてみようじゃないか! 互いに何か発見があるかもしれん」
フォスさんの目が好奇心旺盛な子供のように輝いてように見えた。
今の言い方。モテるくせに、これまで女のヒトとデートをしたことがないんだろうなと、そんなに勘の鋭くない私でも察してしまった。
(まあ、私もヒトのことは言えないんだけどね……それにしても、さっき誘拐の話をしたばっかりなのに)
「気をつけろって言った矢先に、それ言います?」
「いやな、俺もそう思いはしたんだが、せっかくの非番だ。きちんと街のことを案内してやりたくなったんだ。それに、衣類も俺が適当に買い与えたものばかりだろ? ナツキも好きに着飾れた方がいいんじゃないのか? いくらでも買ってやるぞ?」
「え?」
「おや? 着飾るのは嫌いかい?」
自分の着ている服を見た。
着替える服がないと八つ当たり気味に言って、買ってきてもらった無地のTシャツとズボン。最近着ている服と言えば、いつもこんな感じだ。
おしゃれが嫌でこんな格好で納得して言わけではない。ただ機会が無かったのと、顔を合わせる相手が魔族だし、フォスさんに気に入られようと努力するのも無駄だと思っていたから、あまり気にしてはいなかった。
(でもやっぱりかわいい服とかは欲しいな……それにミリアも、お金絞りとってやれみたいなこと言ってたし、ちょっとくらいいいよね?)
そう考えると答えは簡単に口から出てきた。
「わかりました。しましょう、デート!」
フォスさんの頭にある獣の耳がいつもよりぴょんと立ち上がり、ぴくぴくと動き始めた。
「よし。そうと決まればすぐに出かける準備をしようじゃないか!」
フォスさんは朝食を急いで口に運び、食べ終わるとすぐに行動を始めた。
食べ終わった皿を流しへ持って行くと、書類を机の上に置きっぱなしにしたまま、そそくさと部屋の外へと出て行った。
別の部屋から布の擦れる音が聞こえているから、外出用の服にでも着替えているんだろう。
私はというと、おしゃれできるほどの衣類や装飾品を持っていないので、このままの姿で出かけることにした。
とくに出かける準備をする必要のなかった私は、ゆっくりと朝食を食べた後、後片付けをしながらフォスさんが支度を終わらせるのを待った。
「ナツキー。すまないが、戸締りの確認しておいてくれー」
「はーい」
着替えるだけの割には結構時間がかかっている。男性は準備にそんなに時間をかけないと思っていたのだけれど、フォスさんはそんなに気合い入れた姿で出かけようとしているのだろうか。
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