第六監獄の看守長は、あんまり死なない天使らしい

白夢

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07 よいこの宝石

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「じゃあ、看守さまはご主人さまね。ご主人さまは、奴隷に優しくするんだよ。王子さまだから」

 と、427は楽しそうに言う。
 俺と仲良くなったつもりでいるのだろうか。あまり怯えられても面倒だから、懐くならそうしてもらった方が都合がいいのは確かだが。

「ご主人様なのか王子様なのか、はっきりしろ。奴隷に優しくするご主人様なんか存在しないだろ」
「王子様だからいいの!」

「……分かったよ、おままごとだからな、はいはい。じゃあ奴隷に優しくすればいいんだな。優しく……具体的に何すればいい?」

「えっと、抱っこするの」
「抱っこ? 奴隷を抱っこするご主人様なんかいるわけないだろ」
「抱っこ!」
「分かった分かった……」

 なんだこいつ、気持ち悪い。
 いい加減にしろと怒鳴るほどではないが、うんざりはする。

 しかも427はロールプレイに興じるような素振りはなく、抱き上げられただけで、極めて満足そうにしている。
 恐らく抱っこが主目的で、おままごとのくだりはどうでもよかったのだろう。

 大体抱っこって、427は齢十三になるはずだ。
 見た目も幼いから、そっちに精神がひっぱられているのだろうか。


「おい、もういいだろ」
「もっともっと!」
「はぁ……? 子供じゃないんだから……」
「子供でしょ? 看守さま、子供って言ってました」
「子供だけどな、そんなに幼くないだろ。抱っことかお前……」
「看守さま、抱っこ、上手! 好き!」
「はぁ……?」

 なんでカタコトなんだよ。とか思いながら、仕方なく抱っこを継続する。
 高い高いと体を持ち上げてみたり、揺らしてみたり。

 いくら小柄とはいえ、さすがに赤ん坊ほど小さくないので、腕が怠い。

「はぁ……もういいだろ」
「うんっ、嬉しい……看守様好き」
「ああそう」

 こいつに好かれても嬉しくもなんともないが、嫌われるよりはマシなので、適当に返事をしておく。

 427はおろされても俺にベタベタしていて、遠くに走っていく様子がない。


「ほら、遊んで来い。俺は待ってるから」
「看守様も一緒がいい!」
「何をそんなにすることがあるんだよ……」
「滑り台、滑り台する! 看守様一緒にすべろ!」
「一人でやれよ……」
「一人じゃつまんないの! ストレスになっちゃうよ!」
「は?」

 確実に余計な知恵をつけつつある427に、仕方なく一緒に階段を登り、背後から密着するように抱きしめて滑り降りる。

「……」

 位置エネルギーが減った、という以上の感想が思い浮かばない。
 何が楽しいのだろうか。やはり子供の考えていることは分からない。

「もう一回、もう一回!」
「えぇ……」

 露骨に嫌そうにしてみるが、427ははしゃいでもう一度階段を登り手招きしてくる。
 言われた通りに、もう一度同じことを繰り返す。

「楽しい!」
「はぁ……?」
「もっかい、もう一回する!」
「……分かったよ」

 もう一度やりたいならもう一度やらせるのが俺の仕事なので、もう一度繰り返す。

「お前……こういうのはもっと小さい時に卒業しとけよ。赤ちゃん返りか?」
「公園なんて初めて来たから、楽しいです!」
「初めて……って、来たことないのか」
「看守さまは何回もきたんですか?」
「あぁ、職場だし……お前、親とかと来なかったのか」
「うん」

「じゃあ家の中にいるのか?」
「お家でお仕事するんだよ!」
「お仕事?」
「うん、牛さんとかお馬さんのお世話をするの!」
「あぁ……家業の手伝いか。動物が好きなんだな」
「うんっ! ずーっと一緒なんだよ! 夜も一緒におやすみするの!」
「へー」

 動物好きそうな顔をしているし、やっぱり動物好きなのか。子供って本当に動物好きだよな。


「その動物は何、ペット? 家畜?」
「お肉になるんです」
「ああ家畜ね」
「僕と一緒」
「ああ一緒……一緒? は?」

「看守様看守様、あれはどうやって遊ぶんですか?」
「あれは雲梯うんていだ。ほら、足下が痛そうだろ、ぶら下がらせて足に重りを……いや、待て。家畜とお前が一緒って、どういう意味だ?」

「ヴァンピールは家畜でしょ、ね、看守さま、やってもいいですか?」
「駄目だ。足がダメになる。ヴァンピールが家畜?」
「違うんですか?」
「なんで家畜なんだ。ミルクでも採れるのか?」

「……看守さま、知らないの?」
「は?」
「看守さま、宝石、すき?」
「宝石?」
「んにゃ」
「宝石と何の関係がある?」
「ヴァンピールは宝石を産みます」
「宝石を産む? なんの話だ? ちゃんと説明しろ」
「んにゃ。……ふー、ふー……えいっ」

 変な掛け声を上げたかと思うと、止める間もなく427は雲梯によじ登り、ポンと弾みをつけて飛び降りた。
 当然、その体は棘だらけの地面に叩きつけられる。

「おい!」

 大丈夫か、と声をかける。
 当然のように427は怪我をしていた。

「ふぇ」

 と半泣きだ。何だお前。自分でやったんだろうが。


「おい何してるんだ427、急に!」
「うぅ、これ……」

 擦りむいた膝、そこから血が滲んでいる。
 いや、血が滲んで……滲んで?


「……おい、なんだこれは」

 その血は真っ赤だった。
 ルビーみたいに透き通って赤かった。

 それはぷっくりと表面張力に従って膨らんで、重力に従って垂れ下がって、歪な形になって、そしてしばらくして、コロンと地面に転がった。


「緋色の宝石。看守様にあげます」

 ニコニコしながら、427はそう言った。傷は癒えていた。
 受け取った宝石は真っ赤で、日の光を受けて輝いていた。


「ヴァンピールは宝石を産むんです。その血は空気に触れると、鉱石みたいに固まるの」
「……初耳だな。今までヴァンプを何人も殺したが」
「全部が宝石になるんじゃないよ」
「それはお前だけじゃなくて、どんなヴァンピールもそうなのか?」

「分かんない。でも死んだらだめ。だからお願いしたんです。ヴァンピールは殺すんじゃなくて、生かして拷問してくださいって。そうしたら、綺麗な宝石がたっくさんできるから。僕らは生きる意味のない、ただの害虫だけど、そうして人間様のお役に立てるんです」


 宝石は綺麗だった。

 真っ赤に輝き、透き通って複雑に光を反射して、そうしてポタポタ滴るみたいに光が落ちた。


「看守様、僕は人間の皆さまのために、たくさん痛くて苦しい気持ちになりたいです。そうしたらもっともっと、綺麗な宝石を作れるから」

 427は、俺を覗き込んでにっこり笑った。

「ねぇ、僕、良い子でしょ?」

 と、彼は笑ってそう言った。
 俺は彼の頭に手を置いて、「その通りだ」と撫でてやった。
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