逆ハーレムを作ったけど、護衛騎士が婿候補をことごとく蹴散らしていく件【R18】

冬見 六花

文字の大きさ
16 / 54

 私なんかが

しおりを挟む




「あ、あの……すみません。僕なんかまで殿下の後宮に入ってしまって……」

 手慰めしながら俯い絞り出すように言ったその言葉が気に食わず、思わず双眸を細めた。
 だがそれをすぐに消して、王女然とした笑みを浮かべた。

「私、こう見えて毎日庭園の周りを走っているの」

 脈絡ない話に驚いたのか、テオドア様が呆けた顔で固まった。

「最近は騎士に倣って器具を使って体作りもしているのよ」
「ユリアーネ殿下が、ですか……?」
「えぇ。何事もまず体が資本でしょう? がそんなことを言うのは、おかしいかしら?」

 私の見た目はいかにも「深窓の令嬢」という雰囲気なことを自覚している。
 だが実際、私の性格は苛烈なほうだ。
 
 体を鍛え始めたのは、母が倒れたことがきっかけだ。
 元々母の体が弱いことを知ってはいたけれど、それでもいざ母が倒れたとき、この国の柱が揺らいだように思えた。
 母は回復には向かっているが、今も公務はできない状態にいる。でも”女王がいる”ということ、それだけで原動力や抑止力になっていることが多い。

 だが、女王という一本柱ではダメなのだ。
 王配である父が奔走してくれているが、どうしても敵が多い。ならば私がもう一つの柱に早急にならねばならない。その新しい柱さえも弱い体でいるのは断じて許されない。だから私は体を鍛え始めた。
 護衛である過保護なヴォルフはあまり気乗りしないようだが、健康のためと押し切り、今は見守ってくれている。
 
「私は自分の容姿と性格が合っていないことを悪いと思っていないわ。ユタバイト公爵とドミニク様が言う『青』を瞳しか持っていないことだって、何も不満に思っていない」
「……っ」
「生まれる前から自分の容姿を決められる人なんていないわ。だって粘土のように捏ねて色付けしているわけではないもの。そうでしょう?」

 青を持たない彼は、青を厭い、そして羨んでいる。だがそれはいずれもいらないものだ。
 それなのに彼がその不要なものに圧し潰されそうになっているのは、ユタバイト家の呪いであり洗脳だ。
 可哀想だとは思う。だがそれを脱却したいのならそれ相応の行動をすればいい。彼はそれをしていない、若しくはできていない。
 できていないというのなら、手を差し伸べることはできる。
 だがその手を取るかどうかは彼自身。
 馬を水辺に連れていけても、水を飲ますことはできないのだ。
 
「テオドア様はご自身がお持ちなものに目を向けるべきだと私は思うわ。私はそれを尊いものと思っているの。あなたのないものねだりは心が摩耗するだけで、まったくの無意味なことよ」
「僕が持っているもの……?」
「人のことには気付けても、自身のことには鈍感なのね。それならまずはそれに気付くよりも、自分に自信を持つべきと私は思うの。何に自信を持てばいいのかわからないのなら、私に肯定されたことに自信を持てばいいわ」

 そこまで話した後、顔には出さずに「しまった……!」と後悔した。
 これは後宮入りの顔合わせであって説教の場ではない。それなのに「僕なんか」という言葉に苛立って長々と話してしまった。

 自信なんて根拠がなくとも持てばいい。
 テオドア様は自分に厳しすぎる。もっと自信というもののハードルを下げるべきだ。

 不幸比べはしたくないが、私はもっと辛い境遇だった人を知っている。
 だからその人の前で、――――ヴォルフの前で「僕なんか」と言ってほしくなかった。それだけだ。

 振り返って定位置である私の後ろにいるヴォルフに、恐る恐る目をやった。
 だが、気分を害した様子は一切ない。

 むしろ無表情だが私と目が合ったことを喜んでいるように見えた。

 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?

玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。 ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。 これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。 そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ! そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――? おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!? ※小説家になろう・カクヨムにも掲載

【短編完結】元聖女は聖騎士の執着から逃げられない 聖女を辞めた夜、幼馴染の聖騎士に初めてを奪われました

えびのおすし
恋愛
瘴気を祓う任務を終え、聖女の務めから解放されたミヤ。 同じく役目を終えた聖女たちと最後の女子会を開くことに。 聖女セレフィーナが王子との婚約を決めたと知り、彼女たちはお互いの新たな門出を祝い合う。 ミヤには、ずっと心に秘めていた想いがあった。 相手は、幼馴染であり専属聖騎士だったカイル。 けれど、その気持ちを告げるつもりはなかった。 女子会を終え、自室へ戻ったミヤを待っていたのはカイルだった。 いつも通り無邪気に振る舞うミヤに、彼は思いがけない熱を向けてくる。 ――きっとこれが、カイルと過ごす最後の夜になる。 彼の真意が分からないまま、ミヤはカイルを受け入れた。 元聖女と幼馴染聖騎士の、鈍感すれ違いラブ。

ハードモードな異世界で生き抜いてたら敵国の将軍に捕まったのですが

影原
恋愛
異世界転移しても誰にも助けられることなく、厳しい生活を送っていたルリ。ある日、治癒師の力に目覚めたら、聖堂に連れていかれ、さらには金にがめつい師によって、戦場に派遣されてしまう。 ああ、神様、お助けください! なんて信じていない神様に祈りを捧げながら兵士を治療していたら、あれこれあって敵国の将軍に捕まっちゃった話。 敵国の将軍×異世界転移してハードモードな日々を送る女 ------------------- 続以降のあらすじ。 同じ日本から来たらしい聖女。そんな聖女と一緒に帰れるかもしれない、そんな希望を抱いたら、木っ端みじんに希望が砕け散り、予定調和的に囲い込まれるハードモード異世界話です。 前半は主人公視点、後半はダーリオ視点。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

処理中です...