逆ハーレムを作ったけど、護衛騎士が婿候補をことごとく蹴散らしていく件【R18】

冬見 六花

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21 真っ黒い安堵

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 この暗さの中を歩いて、どれほどの時間が経っただろう。


 考えても答えなど返ってこないが、なにかしら頭を働かせていないと恐怖に打ち負けて引き返したくなる。
 障害物がないか、前に壁がないかと手を伸ばしながら少しずつ進んでいるせいで、長い時間をかけてほんの僅かしか進んでいないのだろう。
 人間は本能的に闇を恐れ嫌っていると聞いたことがあるし、それはそうだろうと理解もしていたが、まさかその恐怖を肌で感じる日が来ようとは思わなかった。
 
 テオドア様が目印に持っていけと言ったこの紐がなかったら、とっくに気が狂っていたに違いない。
「いつでも戻れる」という逃げ道があるだけで、だいぶ心が保たれる。まあ戻ったところでどうにもできないのだけれど。

 どこからか空気が入ってきているおかげで酸欠にはならないが、おかげでひどく寒い。
 ガウンの下は心許ないナイトドレスだから、いくらガウンを手繰り寄せても足元から冷気が撫でてくる。
 革靴を履いた足は、寒さとサイズが合わないせいであちこちが痛かったが、そんな痛みも通り過ぎてとっくに感覚がない。だけどこれで靴もなかったらと思うと、恐ろしいから考えたくない。

 足もひどいが手のほうがひどい。
 この真っ暗闇の中、文字通り手探りで進んでいることと、キンキンに冷たい壁をずっと触っているせいで指が痛い。暗闇で見えづらいのと見たくないので詳細は知らないが、恐らく何本かの指の爪は根本から折れている。

 でもやはり、痛みよりも一切光のない暗闇がただひたすらに恐ろしい。
 
 もしかして、出口なんてないのかもしれない。
 そんな弱気が絶えず襲ってくる。暗闇というのは恐怖だけでなく、人間をどこまでも落とし込むものなのかもしれない。
 それでもただひたすらに遅々として進むのは、自分が助かりたいというよりも、助けたい人がいるからなのだろう。
 一人じゃないということは、とても偉大なことだ。

 ときに震えるほど恐怖し、ときに激しく落ち込み、ときに自分を励ましながら、永遠とも思えるほどの暗闇をゆっくりと進んでいったとき、――――その時は来てしまった。

「うそ……」

 シーツの紐の長さが足りず、途絶えてしまった。
 途端に足元がおぼつかなくなるほどの恐怖が訪れ、恐怖で目頭が熱くなる。

 泣くな。水分がもったいない。
 もう何も飲んでいないし食べてもいない。涙一滴の水分も出すわけにはいかない。

 この先は、本当に未知になる。
 進んでしまったら、もう後には戻れなくなるかもしれない。
 今ならこの紐を辿ってテオドア様の元に帰ることはできる。

 選択肢はあるようで無い。
 今までよりもさらに遅々とスピードで、一歩を踏み出した。

 だが文字通り頼みの綱だったシーツがないだけで、恐怖が一気に倍増し、呼吸が荒くなった。

「大丈夫……外に出られる……大丈夫」

 真っ暗闇の中、無音で進むのは恐怖をどこまでも増幅させるため、ずっと独り言をつぶやいている。
 そんな誤魔化しは、とっくに通用していないが、それでも音が欲しくてぶつぶつしゃべる。

 ここまで何度か分かれ道があったが行き止まりには一度も遭遇したことはない。とすれば、この廊下はいずれもどこかしらの外に繋がっているのかもしれない。と、信じたい。
 とにかく小さなことでも前向きに考える。そうしないと絶対に気持ちが持たない。
 
 紐がなくなってからまっすぐ進むと突き当りになったため、右に曲がってまたまっすぐ進む。
 紐がない地点から曲がった回数と方向を覚えておかないといけないから、今度は「まっすぐ進んで右に曲がった」と繰り返し呟いた。

 するとここで初めて行き止まりとなった。
 しかもどこからかほんの僅かに風がわずかに入り込んでいる音がする。必死に痛む手で壁を触ってみるが、ドアノブのような引っ掛かりは一切ない。
 押してみようと両腕を伸ばしてみたが、結構重い。
 ただでさえ衰弱している体にこの重労働は堪えるが一縷の希望に縋って力いっぱい壁を押す。これがただの壁だったら、自分はもうダメかもしれないと一抹の絶望を感じながら、必死に壁を押していくと、ほんの僅かに動きその隙間から久方ぶりの光が見えた。

 期待が希望へと変わり、体重をかけて壁のような扉を僅かに開け、ようやくすり抜けられる程度の隙間が開きそこから抜け出すことができた。

「――――……っ」

 もしかしたら一生見ることができなかった空を見て、もったいないと堪えていた涙が止めどなく溢れた。

 だがここで解放に喜んでいる場合ではない。中にはテオドア様が待っている。私といたときから顔色がひどいものだったから、今はさらに危ない状況にいるだろう。
 あれから何日経っていて、ここがどこだかわからないが、とにかく助けを呼ばなければ。

 そう思って立ち上がろうとした瞬間、せっかく光の下に出れたというのに、目の前が真っ暗になった。



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