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番外編 BLゲームの主人公事情(7)
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3人での食事会から、大して変わることはなく日々をオレは過ごしていた。
いまだに残る平民差別からくるやっかみや生徒会のうざったらしい絡みは日常の一部だ。
「てな、ワケで、作戦会議をしよう! アンティ!」
そして、このアマナの唐突すぎる提案にも慣れた。
いつものようにアマナの手料理を飲み込んで、真っ先に浮かんだ疑問をアマナに返す。
「えっ? アマナは不参加じゃなかったけ??」
アマナが言っている”作戦会議”というのは、夏休み前に学園で行われる”鬼ごっこ大会”のことだ。
平民を見下すくせに、こういう遊びをやりたいのか。なんて呆れてしまう。
「僕はそうなんだけど、アンティは参加するでしょ?」
「んー。まぁ、そうだけど。それがどう繋がるんだ?」
「アンティ。君は、転校してきたばっかりだから、知らないかもしれないけど……”ご褒美制度”なるものがあるんだよね」
ふふんと胸を張って、説明するアマナ。
「ご褒美制度?」
学校行事と言いつつ、貴族の坊ちゃんたちが喜ぶようなご褒美があったのか。
たしかに、周りのやつがどこか浮き立っているとは思っていたけど。
「うん。ご褒美がもらうには条件が色々あるんだけど、一番わかりやすいのは最後まで逃げ切る!んだけど…それは至難の技。とにかく、なるべく長い時間、鬼に捕まらずにいればご褒美がもらえるって覚えてもらえればオッケーだよ! ほら、なにもないと全力を出しにくいでしょ?」
でも、アマナの表情からはそういう貴族だからという嫌な感じはなかった。
純粋に、友達と遊ぶことを楽しむ子供みたいに、瞳をキラキラと輝かせている。
「鬼ごっこって子供の頃にした遊びだから、大きくなった僕らはすこし気恥ずかしいだろ? 振る舞いを重視する貴族であればあるほどカッコつけちゃうっていうか…」
そうだ。鬼ごっこが平民の遊びというワケではない。
子供の遊びに貴族も平民もないってことに気づく。
貴族は平民差別をしているって嫌悪しているくせに、オレ自身もそういう差別をしていた。
オレにやっかみを続ける奴らは一部だし、彼らの生きる世界として、やらなければいけないルールがたくさんあるのだと、この数ヶ月で知った。
「だから全学年の交流会って名目出しつつ、童心に戻るっていう貴族の子供たちのガス抜きも兼ねてるっていうか。彼らは目に見えないしきたりに縛られていることが多いからね」
アマナは不思議だ。
子供のようにキラキラしていると思えば、時々、年上みたいな表情をする。
「あ、えっと、その、つまりね。この鬼ごっこには夢と希望が詰まっているってこと!」
「ふーん。わかった」
「ちょー! もっと興味を持ってぇーー!!」
アマナは寮部屋と学園内でいるときも違う。
クンシラの影響もあって、親しく会話をする友人はいなくて、そのクルクルと表情が変わるのはこの部屋だけ。
それを引き出しているのはオレだと思うと、嬉しく思ってしまう。
「持ってるって」
「ご褒美は賞金、お金ってことはないんだけど。役員と言われる人にお願いするから、生徒会の特権に近いしいことは叶えてくれるって考えてくれればいいよ。何より、お金で買えない価値ある経験がもらえるチャンスだからね」
最後、なぜか教鞭をとる教師のように人差し指を立て、腰に手を当てたアマナ。
ちょっと意味はわからないけれど、数ヶ月で学んだ経験からアマナ的には最後の言葉が重要っぽい。
わかりやすいけど、ズレているんだよな。
そこが可愛いと思うオレもなんだろうけど。
「えー! じゃあさ、生徒会とかに行ったら、あの役員特権の学食フリーパスとか貰えるのかな!」
「ほー。僕の食事では不満なんだね。じゃあ、明日からなしだ」
「ちょ、ちょ待って! 例えばの話だってば!!」
アマナはやると言ったらやる。
オレは慌てて、味噌汁を飲む。
「今日の味噌汁はひときわ美味しいなー」
「じとーーーーー」
アマナは今日の提案に相当気合いが入っているようだ。
めずらしく圧をかけてくる。
ただ本人は不機嫌な表情を作っているつもりだろうけど、ただ拗ねているような愛らしさが勝っている。くぅ、可愛い。
「ほんと、ほんと、とにかく、そういう道徳的な?内容てか、役員に言ってOKもらえれれば、どんな願いでも良いってことでしょ?」
「その通り! それに、告白タイムでもある」
「告白タイム?」
ご褒美の話が告白に変わった。
アマナの急速な方向転換に追いつけず、思考が停止する。
「そう、なかなかお会いできない生徒会役員に直接会える機会だからな、結果はどうであれ、手紙より直接、想いを伝えたいってヤツがいるし、牽制にもなる」
「牽制?」
「両思いになれば、誰の想い人であるか分かるし、ヘタに手を出すこともないし、例えば、玉砕したとしてもだ、意識をしてもらえたりなど、他のライバルへの牽制とか? まぁ、なんにせよ、アピールになるし、鬼ごっこは、力がないものでも生き残る方法もあるから、男のロマン的な、下克上ってのも可能なんだよ」
なるほど。
この学園の役員と言われる者はほぼ上級貴族。貴族の中にも上中下と地位の違いがあり、貴族でも平民と変わらない貴族もいる。位の低い者から声をかけてはいけない、とか。
学園内では平等としても、不敬とされる行動をすることはリスクでしかない。
だからこそ、堂々と話せる機会はもらえるのは大きい。
この”鬼ごっこ大会”のご褒美だけは”お遊び”として暗黙要素が近いのだろう。自分が上位に残れるほどの実力があるという事もアピールにもなるし。
でも、ちょうどいいかもしれない。
あれからクンシラの行動は相変わらずで、まどろっこしいのは本当に面倒だ。
「へー。なるほど」
「言っとくけど、正当防衛とか以外の暴力沙汰は禁止事項だからね!」
「わかってるてば。で、アマナの作戦ってなに?」
オレとアマナの目的は違っていても、目指すべきことは同じだ。
「へへ。僕を讃えるがいいよ! 転校生である君は他の学生比べたら情報で負けている。そこで、僕が、情報を与えて、みんなと同じくらい、いや、同室のよしみで、そこそこの情報を与えてあげる! 是非とも、上位目指してくれたまえ!」
「アマナ、ありがとうー! でも、オレが上位に入ったところで、得ある?」
オレの質問にアマナはびくりと体を揺らした。
わかりやすい。表情も平静というより、固まっているに近い。
本当に上級貴族と関わりがある人間とは思えない。
「まーなんだ。あれだ、自慢できるし? それに、ちょーとだけ、ク…」
「ク?」
ここまで来ればわかる。
どんな時でも、アマナが真っ先に考えるのはクンシラのことだ。
「あー。クンシラのこと考えてるだろ」
「へっ!? あ、まぁ、ちょっとだけ、な?」
どうせ、このオレの発言もアマナは違った風に受け取っているんだろうな。
「なるほど。うん。まぁ、とりあえず、できる限り頑張るよ!」
「お! ほんと!? 頑張ってね! 応援してるから!」
アマナは表情をぱぁっ明るくする。
どうやら、アマナの希望通りの答えだったみたいだ。
でも、それもクンシラのための行動の結果だと思うと、しゃくで意地悪したくなった。
「あーでも。もしもさ。頑張った結果。上位に入れなかったら立ち直れないかもしれないし。それに、途中で挫けちゃうかもー」
「嘘でしょ!?」
アマナにも伝わるぐらい、わかりやすく大きなため息を吐く。
「あーあ。アマナからなんかご褒美があればなぁ。もっと頑張れるんだろうし、途中で挫けないかもー」
元気なく言えば、アマナは「え、僕から?」と戸惑いをこぼしながらオレに提案してくれた。
「・・・僕のできる範囲なら応えてあげるけど?」
「ほんとか!? オレ、最後まで頑張れる!!」
意味がわかっていないだろうアマナの言葉でも、いまのオレに取っては十分だ。
「ふっふっふ……主人公を王道イベントに誘導できた。この作戦、うまくいく予感しかないぞ!」
いまだに残る平民差別からくるやっかみや生徒会のうざったらしい絡みは日常の一部だ。
「てな、ワケで、作戦会議をしよう! アンティ!」
そして、このアマナの唐突すぎる提案にも慣れた。
いつものようにアマナの手料理を飲み込んで、真っ先に浮かんだ疑問をアマナに返す。
「えっ? アマナは不参加じゃなかったけ??」
アマナが言っている”作戦会議”というのは、夏休み前に学園で行われる”鬼ごっこ大会”のことだ。
平民を見下すくせに、こういう遊びをやりたいのか。なんて呆れてしまう。
「僕はそうなんだけど、アンティは参加するでしょ?」
「んー。まぁ、そうだけど。それがどう繋がるんだ?」
「アンティ。君は、転校してきたばっかりだから、知らないかもしれないけど……”ご褒美制度”なるものがあるんだよね」
ふふんと胸を張って、説明するアマナ。
「ご褒美制度?」
学校行事と言いつつ、貴族の坊ちゃんたちが喜ぶようなご褒美があったのか。
たしかに、周りのやつがどこか浮き立っているとは思っていたけど。
「うん。ご褒美がもらうには条件が色々あるんだけど、一番わかりやすいのは最後まで逃げ切る!んだけど…それは至難の技。とにかく、なるべく長い時間、鬼に捕まらずにいればご褒美がもらえるって覚えてもらえればオッケーだよ! ほら、なにもないと全力を出しにくいでしょ?」
でも、アマナの表情からはそういう貴族だからという嫌な感じはなかった。
純粋に、友達と遊ぶことを楽しむ子供みたいに、瞳をキラキラと輝かせている。
「鬼ごっこって子供の頃にした遊びだから、大きくなった僕らはすこし気恥ずかしいだろ? 振る舞いを重視する貴族であればあるほどカッコつけちゃうっていうか…」
そうだ。鬼ごっこが平民の遊びというワケではない。
子供の遊びに貴族も平民もないってことに気づく。
貴族は平民差別をしているって嫌悪しているくせに、オレ自身もそういう差別をしていた。
オレにやっかみを続ける奴らは一部だし、彼らの生きる世界として、やらなければいけないルールがたくさんあるのだと、この数ヶ月で知った。
「だから全学年の交流会って名目出しつつ、童心に戻るっていう貴族の子供たちのガス抜きも兼ねてるっていうか。彼らは目に見えないしきたりに縛られていることが多いからね」
アマナは不思議だ。
子供のようにキラキラしていると思えば、時々、年上みたいな表情をする。
「あ、えっと、その、つまりね。この鬼ごっこには夢と希望が詰まっているってこと!」
「ふーん。わかった」
「ちょー! もっと興味を持ってぇーー!!」
アマナは寮部屋と学園内でいるときも違う。
クンシラの影響もあって、親しく会話をする友人はいなくて、そのクルクルと表情が変わるのはこの部屋だけ。
それを引き出しているのはオレだと思うと、嬉しく思ってしまう。
「持ってるって」
「ご褒美は賞金、お金ってことはないんだけど。役員と言われる人にお願いするから、生徒会の特権に近いしいことは叶えてくれるって考えてくれればいいよ。何より、お金で買えない価値ある経験がもらえるチャンスだからね」
最後、なぜか教鞭をとる教師のように人差し指を立て、腰に手を当てたアマナ。
ちょっと意味はわからないけれど、数ヶ月で学んだ経験からアマナ的には最後の言葉が重要っぽい。
わかりやすいけど、ズレているんだよな。
そこが可愛いと思うオレもなんだろうけど。
「えー! じゃあさ、生徒会とかに行ったら、あの役員特権の学食フリーパスとか貰えるのかな!」
「ほー。僕の食事では不満なんだね。じゃあ、明日からなしだ」
「ちょ、ちょ待って! 例えばの話だってば!!」
アマナはやると言ったらやる。
オレは慌てて、味噌汁を飲む。
「今日の味噌汁はひときわ美味しいなー」
「じとーーーーー」
アマナは今日の提案に相当気合いが入っているようだ。
めずらしく圧をかけてくる。
ただ本人は不機嫌な表情を作っているつもりだろうけど、ただ拗ねているような愛らしさが勝っている。くぅ、可愛い。
「ほんと、ほんと、とにかく、そういう道徳的な?内容てか、役員に言ってOKもらえれれば、どんな願いでも良いってことでしょ?」
「その通り! それに、告白タイムでもある」
「告白タイム?」
ご褒美の話が告白に変わった。
アマナの急速な方向転換に追いつけず、思考が停止する。
「そう、なかなかお会いできない生徒会役員に直接会える機会だからな、結果はどうであれ、手紙より直接、想いを伝えたいってヤツがいるし、牽制にもなる」
「牽制?」
「両思いになれば、誰の想い人であるか分かるし、ヘタに手を出すこともないし、例えば、玉砕したとしてもだ、意識をしてもらえたりなど、他のライバルへの牽制とか? まぁ、なんにせよ、アピールになるし、鬼ごっこは、力がないものでも生き残る方法もあるから、男のロマン的な、下克上ってのも可能なんだよ」
なるほど。
この学園の役員と言われる者はほぼ上級貴族。貴族の中にも上中下と地位の違いがあり、貴族でも平民と変わらない貴族もいる。位の低い者から声をかけてはいけない、とか。
学園内では平等としても、不敬とされる行動をすることはリスクでしかない。
だからこそ、堂々と話せる機会はもらえるのは大きい。
この”鬼ごっこ大会”のご褒美だけは”お遊び”として暗黙要素が近いのだろう。自分が上位に残れるほどの実力があるという事もアピールにもなるし。
でも、ちょうどいいかもしれない。
あれからクンシラの行動は相変わらずで、まどろっこしいのは本当に面倒だ。
「へー。なるほど」
「言っとくけど、正当防衛とか以外の暴力沙汰は禁止事項だからね!」
「わかってるてば。で、アマナの作戦ってなに?」
オレとアマナの目的は違っていても、目指すべきことは同じだ。
「へへ。僕を讃えるがいいよ! 転校生である君は他の学生比べたら情報で負けている。そこで、僕が、情報を与えて、みんなと同じくらい、いや、同室のよしみで、そこそこの情報を与えてあげる! 是非とも、上位目指してくれたまえ!」
「アマナ、ありがとうー! でも、オレが上位に入ったところで、得ある?」
オレの質問にアマナはびくりと体を揺らした。
わかりやすい。表情も平静というより、固まっているに近い。
本当に上級貴族と関わりがある人間とは思えない。
「まーなんだ。あれだ、自慢できるし? それに、ちょーとだけ、ク…」
「ク?」
ここまで来ればわかる。
どんな時でも、アマナが真っ先に考えるのはクンシラのことだ。
「あー。クンシラのこと考えてるだろ」
「へっ!? あ、まぁ、ちょっとだけ、な?」
どうせ、このオレの発言もアマナは違った風に受け取っているんだろうな。
「なるほど。うん。まぁ、とりあえず、できる限り頑張るよ!」
「お! ほんと!? 頑張ってね! 応援してるから!」
アマナは表情をぱぁっ明るくする。
どうやら、アマナの希望通りの答えだったみたいだ。
でも、それもクンシラのための行動の結果だと思うと、しゃくで意地悪したくなった。
「あーでも。もしもさ。頑張った結果。上位に入れなかったら立ち直れないかもしれないし。それに、途中で挫けちゃうかもー」
「嘘でしょ!?」
アマナにも伝わるぐらい、わかりやすく大きなため息を吐く。
「あーあ。アマナからなんかご褒美があればなぁ。もっと頑張れるんだろうし、途中で挫けないかもー」
元気なく言えば、アマナは「え、僕から?」と戸惑いをこぼしながらオレに提案してくれた。
「・・・僕のできる範囲なら応えてあげるけど?」
「ほんとか!? オレ、最後まで頑張れる!!」
意味がわかっていないだろうアマナの言葉でも、いまのオレに取っては十分だ。
「ふっふっふ……主人公を王道イベントに誘導できた。この作戦、うまくいく予感しかないぞ!」
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