みおそてぃす

Neu(ノイ)

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一章:偵察

神沼さん家の事情 10

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探偵が不安に思うのも仕方が無い。
純の要求はヤケに細かくてネチネチしている。
ダメ出しも多い。
純の気分を害せば、生命までは取られないにしても、それ以上の苦痛と屈辱が齎されるかもしれないのだ。
誰であれ純に恐怖するのは当然なのだ。
それだから司破は、長兄程ではなくとも頭がおかしいのだと淳志は思う。
鬱陶しさは感じているだろうし、怒らせれば厄介な人間だという認識は、勿論司破とて持っていることは解っている。
しかし、司破は純を恐れてはいないのだ。
大切なものなど存在しない司破に、恐怖などある訳もない。
長兄は頭のネジが何本も外れた気違いだが、次兄は感情の回路がごっそりと抜け落ちたサイボーグだ。
そのサイボーグに感情の回路を植え付けた人間、それが明紫亜という一人の子供なのである。


 地元を出るまでの間に司破との接点はない。
一昨日が高校の入学式だったと言う。
入学式が終わってすぐに、明紫亜は司破を訪ねに職員室を訪れていることが解っている。
純が誑(たぶら)かした女教師からの情報である。
詰まり、一昨日の時点で二人はもう知り合いである可能性が高い。
資料によれば、明紫亜が東京に来たのは、一週間前だ。
だが、この一週間、明紫亜は下宿先から殆ど外には出ていないようだった。
司破と明紫亜がどうやって知り合ったのかが全く見えてこない。

「まあ、取り敢えずは大丈夫っしょ。それよりも、この育児放棄の時のトラウマで、人に触られると嘔吐するってあるけど。噂の域を出ない話で確認取るの難しいと思うけどさ、多分、兄さん知りたがると思うから。調査続けてくれる? なんだったら、豆屶さんに手伝って貰えるように頼もっか?」

結局、下調べに穴があれば甚振られるのは、情報屋だけではなく、淳志も同じなのだ。
明紫亜の育った背景は何となくだが掴めた。
其処は純も満足するだろうと思える。
だが、一番純が興味を持つだろう箇所の情報が薄い。
それは探偵も解っているのだろう、神妙な顔で「勿論です」と呟く。
溜息を二人して吐き出した。

「豆屶さんが手伝って下さるなら、心強いですが。可能ですかね?」

淳志の提案に真顔で見詰められ、頬を掻いた。
豆屶はあれでいて情報収集が得意なのだ。
どんな人脈があるのかは知らないが、情報屋も一目置く程の手腕である。

「確認して連絡しますわ。取り敢えず、調査継続ってことでよろしくです。此方でも何か解れば連絡するんで。コレ、今回の分の謝礼ね」

淳志は茶封筒を探偵に手渡した。
中には札束が入っている。
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