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一章:偵察
神沼さん家の事情 16
しおりを挟む「あー、おけ。今から向かうわ。GPSのデータ、整理したから夜ぐらいに取りに来るように成屋さんに伝えておいてくれる?」
がしがしと髪を掻き乱しながら、息を吐き出していく。
脳を覚醒させるように深呼吸を繰り返した。
「ああ終わったんだね? ありがとう、アツシくん。伝えておくよ。何か動きがあったら必ず報告してね。勝手に判断しないように。もしヘマったら、解っているよね?」
電話越しに聞こえてくる、ふふ、という笑みが恐ろしい。
お仕置きコースだから、と低い声が耳元で囁いた。
「あー、そうね。そうだよね。じゅんじゅんだもの。解ってるよ、ヘマはしないって」
気を引き締めるように真剣な顔になる淳志の上体が持ち上げられ、布団の上で胡座を掻いて座る。
「まあ、期待はしていないから、ヘマするならしたで構わないけど。久し振りにお兄ちゃんのおちんぽ捩じ込んでみる?」
含み笑いと共に放たれた言葉に、ぶはっ、と噴き出してしまった。
「ちょっ、それだけは勘弁! ぜってぇヘマなんかしないし! マジでやめて、頼むから」
必死で頼み込む淳志の瞳は涙ぐんでいる。
長兄から受けた地獄のような躾は、思い出すだけで体が恐怖で震えてしまう。
「はは、冗談だよ。今はアツシくんのこと虐めてあげる時間もないし、ね。残念だなあ」
「時間があってもやめて下さい、兄さん。俺、死にたくない。五体満足でいたい。売られたくない。ちゃんと言うこと聞くからお願いします」
明るい調子で宣う純に、安堵しながらもまだ震えの止まらない声で淳志は懇願の言葉を発した。
いつ気が変わって躾と言う名の陵辱が始まるか解らない。
純の手によって人以下に成り下がり、飽きられて捨てられた人間を何人も見てきた。
彼等、彼女等の末路は悲惨なものだ。
奴隷や肉便器として売られていくのならまだマシである。
それ以下の存在として闇社会からも消えていく。
既に表社会からは抹殺されている存在だ。
どうなろうとも事件にもならない。
そんな恐ろしい世界であり、長兄はその世界で幼い頃から生きているのだ。
純の頭のネジがごっそり抜け落ちているのも頷ける程に闇社会は恐ろしい。
「大丈夫だよ? 流石にアツシくんのことは売ったりしないから」
「いや、他のも否定してよ、お願いだから! 俺、兄さんが怖い」
ガタガタと止まらない震えを抑えようと片手でもう片方の腕を掴むも、効果は殆どなかった。
「知っているよ。アツシくんは全部顔に出るもの。でも、本当に安心して。アツシくんが可愛い忠犬でいる限りは大事にするし」
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