あうとれいじ

Neu(ノイ)

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一章:覚醒した悪魔

エスの目覚め 05

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純は三條の股間から足を離し、手術台に近寄った。

「ふふ、まだ少ししか虐めてないでしょ? 五体満足なんだから、褒めてよ。あ、豆屶。着替えて来るから、ソレ拘束しておいてね?」

グラスに注がれた冷茶を飲み干し、純は首を傾けて儚げに口端を小さく上げる。
しかしながら、その口から紡がれるのは物騒な言葉で、三條はガタガタと震え出す。
飲み干したグラスを手術台の上に無造作に置くと、豆屶の肩を叩いた。
三條を顎で指し示し、純は襖に足を向ける。
御意に、と背中に掛かる言葉に笑みを深めた純が、何かを思い出したかのように振り返った。

「そうそう、豆屶。つまみ食い、しても構わないからね? 先生、この男、ゲイなんですけどね、ノンケとかタチのケツにぶち込むのが大好きなんですよ。でかチンの癖に慣らすなんて優しいこと、してくれない鬼畜ですから、お尻には気を付けて下さいね? じゃあ、豆屶、宜しく頼んだよ」

にんまり、と心底愉しそうな笑みを三條に残し、青褪めた顔で「うわああ」と叫び、逃げようと暴れる彼を尻目に部屋を出た。
待ってくれ、と悲痛に響く三條の声に、満たされていくのを実感する。
ふふ、と堪え切れない笑みを溢しながら、躍る足取りで階段を上がっていく。
一階に辿り着き、自室に向かう途中の廊下で、母と出会(でくわ)した。
着物姿にツバの深い帽子を被り、着物の袖口からは腕カバーが覗いている。
若干お間抜けに見えるが、彼女の美しい肌を守る為ならば、それも許されるのだろう。

「庭の手入れは順調ですか、母上殿?」

綺麗な着物には土の汚れが付着しており、庭弄りの最中に何か忘れ物を思い出し、取りに戻って来たのだと推測出来た。
着物で庭弄りをするのは、汚れてしまう着物が勿体無いとは思うが、昔からの彩菜のスタイルである。
どうせクリーニングに出すのだから構わないのだと彼女は言う。
着物でないと落ち着かないらしく、純は彩菜の洋装姿を数える程しか見たことがない。

「ええ、いつも通り滞りありませんわ。それよりも純さん。玩具で遊ぶのは問題ありませんが、興奮し過ぎて殺さないようにお気を付けなさい。動物とは違うのです。後処理も大変なのですよ? お解りですね? 組長の迷惑になるようなことは、くれぐれもなさらないで下さいまし」

小幅で歩いていた彼女は、純の前で、ピタリと歩みを止めた。
冷たい眼差しが純に向く。
だが、純は知っていた。
彼女は冷たく見えるだけで、その実、とても優しい人である。
その優しさは、家族にしか向けられることはないのだが、純にとってはそれで十分だった。
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