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一章:好きです、先輩
プロローグ 01
しおりを挟む人は弱さを隠す為に仮面を被る。
誰も見ないで、と本音を全て覆い偽りの自分を作りあげるのだ。
虚しいなどと感じることもなく、自分を演じるだけの人生。
人間は役者だ。
何処に本心があるのか、親しい人にも解りはしない。
自分自身でさえ察することの出来ぬものを他人に解れと言うのは無理な話なのだ。
期待をするだけ無駄なのに、何故だろう、解って欲しいと思うのは。
【プロローグ】
言葉が口を出ていかない。
驚き過ぎて息をするのすら忘れ去る。
何故、どうして、WHY?
思い付く限りの疑問詞を思い浮かべてみるが、やはり音にすることは出来なかった。
「すんません、驚かせて。でも俺、本気っすから」
伏し目がちに此方を窺いながら、芯のある強い口調で物申したのは後輩の三田村 安月(ミタムラ アツキ)だ。
「や、いきなり何言い出すんだ、テメェは。ホンキとか言われて信じられると思うんか? つか、信じたくねぇよ、俺は」
やっと使い物になった喉を駆使して文句を垂れる。
相手は堪えた様子もなく真剣な顔で首を振る。
「そりゃ、そうっすけど。もう、隠しておける自信ないんで、覚悟……して下さい」
「はっ!? 覚悟とか何様のつもりじゃ」
「ふふ、俺様ですよ。絶対、俺のこと好きになってもらうんで」
「ふん、出来るもんならやってみろや」
顔上げた安月の顔が愉しそうなのが癪に障る。
ソッポを向いて強気な態度で返した。
「はい、頑張ります」
爽やかな笑みで彼は手元のジョッキを煽る。
中には生ビールが入っている。
従順でガタイの良い、それでいてどことなく可愛らしい後輩に告白を受けた先輩の府末 彰治(フマツ ショウジ)も焼酎の入ったグラスをグイッと傾けた。
喉を通る液体が躯を熱くさせる。
此処は良く二人で立ち寄る個人経営のヒッソリとした居酒屋だ。
仕事帰りに寄るのが二人の日課となっている。
今日も例に漏れず、他愛ない話題で盛り上がりながら居酒屋に来たのだが、酒を飲み進めて幾等かした頃合に安月が爆弾発言を漏らしたのだった。
安月曰く、「俺、先輩のこと愛しちゃってるんです。あ、LIKEでなくLOVEですから」だそうだ。
そして、話は先にと飛ぶのである。
彰治が熱くなった顔にコップを当て、ボーと事の発端を思い返しているとすぐ目の前に安月の顔があった。
「うわっ、何してんだ!」
「え、何もしてないっすよ? ただ府末さんの凛々しいお顔に見惚れてただけで……」
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