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一章:キチガイ×ヘンタイ

俺を変態だと吐かすお前の方がキチガイな件 01

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【俺を変態だと吐かすお前の方がキチガイな件】


 変態という人種が世の中には存在する。
何をもって変態と定義するのか、俺にはさっぱり解らない。
それでも、一般人が到底思い付きもしないだろう思考に耽ることは、変態の部類に入るのらしい。
俺からしたら、普通の思考なのだが、世間の皆様からしたら、少しばかり可笑しいのだと言う。


 だが、俺を変態と呼ぶのは一人しかいないので、本当に俺が変態なのかは甚だ疑わしいところだ。
その一人の人間は、同じ職場の人間で、かなり変わっている。
ネイリストの彼は、常に女装姿である。
しかしながら、性同一性障害などではないらしい。
気持ちも体も男であるのに、何故か女装に女口調を使う彼を、俺はキチガイだと思っている。
気が触れているに違いないと、そう思っている。
それだから、彼は男の俺を好きだと言うのだろう。
頭のネジがごっそりと抜け落ちているに違いない。
そういうことにしておきたい俺の願望である。
彼がキチガイであるかは解らないが、俺の中の定義では、頭のイカれた野郎だ。


 俺を変態と呼ぶ彼と。
彼をキチガイと呼ぶ俺は。
仕事仲間である。
同じ職場でネイリストをやっている。


* * * * * *


 自前なのかヅラなのか、俺は知らないが、琴村 雄仁(コトムラ ユウジン)たるその男は、いつも背中の中程まで伸びた髪を、後ろで一つに纏めている。
シュシュは毎日違うものだ。
前髪は眉毛スレスレで切り揃えられていた。
化粧はナチュラルに、それでいて何処か上品にも見える。
服装は、前合わせの部分にフリルをあしらったシャツに、タイトなスカートが多かった。
パッと見は綺麗なお姉さんにも見える。
それが雄仁のパーソナリティーだ。


 最近流行りのおネエかと思いきや、そんな格好に女口調を駆使しながらも、女になりたい訳ではないらしい。
中身は立派な男だと豪語して憚らない。
確かに、俺を犯したいと所構わずに宣うのだから、そこら辺の雄よりもよっぽどオスオスしいのだろう。
俺としてはいい迷惑でしかない。


 ムウ。
雄仁は馴れ馴れしくも俺をそう呼ぶ。
同僚という区分でありながら、実は俺の方が2歳年上だ。
小筑 睦呀(サツク ムッカ)と言う名前から勝手に付けられた渾名で、職場ではムウで定着している。
年下の癖に、と苦々しく思いはするが、仕事仲間と何と無く打ち解けるキッカケになったことは事実なので、何も言えないのが現状だ。


 仕事柄、女性が多い職場である。
俺の立ち位置など、所詮は虫けら同然であった。
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