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一章:隣人さん

大人になりたい子供 01

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【大人になりたい子供】


 わかっているんだ。
子供でも大人でもない。
中途半端な年齢。
それを大人は思春期と呼んだり、青春と揶揄してみせる。
その時期を駆け抜けている僕等にとっては、一瞬一瞬が輝いていて、快感で、苦痛でもあり、試練だらけの毎日だ。
手探りで生きている僕等は、まだまだ未熟である。


 そんなことは承知した上で、大人になろうと焦ってしまう。
焦ったところで大人になれないことは重々わかっていても、早く大人になりたかった。
その反面、まだ子供でいたいという甘えも同時に抱いてはいるのだから、やはり大人になどなれないのだろう。




 大学に進学して3ヶ月程が経ち、一人暮しにも慣れてきた頃合いで、僕はアルバイトを始めた。
コンビニ店員の仕事だ。
一般的に初めてのバイトはコンビニが選ばれやすいようだが、簡単そうに見えて案外やることは多い。
覚えることも多岐に渡っていた。
レジ操作は勿論のこと、店内調理を謳うおかず(唐揚げ等の所謂揚げ物系)の作成、チケットや様々なメディアに対応した機械の操作、コピー機の案内、コーヒーの提供、清掃、商品の納品、発注、レジ点検、精算。
勿論のこと、新人で全てを任されることはない。
それであれ、安易な気持ちで選んだことを悔やむ程には、先輩の仕事量は多く感じるのだ。
確かに、昨今に於いて、消費者のコンビニに対する要求は些か無茶ぶりだとも思えるぐらいに大きくなっているのかもしれない。
とは言え、僕も仕事を始めるまではコンビニで何でも出来ると勘違いしていた人間だ。
出来ることに限りはあって当然だろう。
働くようになって考え方も変わった。
少しは大人に近付けたのだろうか、と自問しては落ち込む。
そう考える時点でまだまだ子供なのだ。




 バイトをしながらの大学生活にも慣れてきて、気持ちにも金銭的にも余裕が垣間見えるようになった9月のことだ。
夏休みが終わる数日前だった。
その日、僕は初めて隣人と遭遇した。




 バイト上がりはいつも夜の22時を越える。
シフトによっては、0時を回る時すらあった。
仕事終わりの気怠い体に鞭打って夕飯にありつき、さてお風呂にでも入ろうかという23時近くに、其れは訪れた。
来訪者を告げる甲高い音。
チャイムが鳴り響く。
こんな時間に訪れる人間に心当たりもなく、首を傾げてしまう。
間髪を空けずに二度三度と心臓に悪い高音が立て続けに鳴り、恐怖を抱きつつも玄関に向かった。
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