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一章:隣人さん

大人になりたい子供 05

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そう、と頷く薫は面白くなさそうに唇を尖らせ頭を掻いた。
店の入口に身体を向ける彼の横顔を無意識に眺めてしまう。

「春風君。今は仕事だろうから我慢するけど。仕事が終わったら、お客様としてじゃなく一人の人間として接して欲しいな」

ふわり、と僕に微笑み掛けた薫は返事も聞かずに店内へと入って行った。


 彼の台詞に胸を掴まれ、ざわついている。
昔から家族のことで揶揄され傷付いてきた。
それ故に僕は、他人との深い関わりを避けている。
しかしながら、それは恐らく、僕と関係を築こうと思ってくれた人に対して失礼なことでもあったのだ。
自己を守ることにばかり頭が働き、周りのことが目に入っていなかった。
今更ながらに気付かされた事実に暫く動きを止めていたが、仕事中であることを思い出し、緩慢な動きでゴミ箱に近付いていく。
一杯になっているゴミ袋を替えて店内に戻った。
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