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三章:恋心抱く秋

いち

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【恋心抱く秋】


 まだ暑さの厳しい9月。
夏休みも終わり、新学期が始まった。


 あの日、先輩である夏木 羽李(ナツキ ウリ)に対する誤解も溶け、彼と過ごすことを苦に感じなくはなった。
その後も緑化委員の当番で決まっていた日は、一緒に活動を共にしたのだが、思いの外、楽しんでいる自分がいた。
それであれ、宮原 神流(ミヤハラ カンナ)は、羽李に対する態度を変えることが出来ずにいる。
最初あれだけ嫌っていたのだ。
どう接したら良いのか解らずに、季節は残暑から秋へと移り変わっていった。


 10月も半ばに入り、肌寒さが目立つようになってきた。
委員会で会う羽李は、受験のためか忙しそうに窺える。
サッカー部ではレギュラーにも入っていた彼のことだ。
スポーツ推薦で大学を受けるのかと思っていたが、どうやら一般推薦での受験になるようだ。
小論文が難しいと、同級生にこぼしている。


 羽李は友人が多いようで、委員会での同級生は勿論のこと、他にも声を掛けられている場面をよく目にした。
その中でも、緑化委員の委員長である宅福 史壱(ヤカネ フミイチ)と、サッカー部主将の遠藤 修斗(エンドウ シュウト)とは、特に仲が良かった。
3人で歩いている姿を廊下で見掛けることも多かったし、遠藤が委員会が終わるのを待っている場面にも出くわすことが多々とある。
それが、神流はどうにも面白くなかった。
委員長は神流も知る人物だ。
羽李と絡んでいても特段気にもならない。
だが、遠藤が羽李に絡むと、不思議と胸が痛む。
チリチリとして落ち着かないのだ。
どうにも彼等はスキンシップが激しい。
体と体を密着させている様を見てしまうと、すぐにでも引き剥がしてしまいたくなるのだ。


 こんな感情を他人に抱いたことがない神流にとっては、未知の出来事である。
羽李への感情の変化に神流自身着いていけていなかった。
出来ることと言えば、意地悪な台詞を投げ掛けることだけで、嫌いでもないのに羽李との関係は仲が良いものとは言えないものとなっている。
何故、同性の羽李のことばかり気に掛かるのか、答えが出ないままで月日は巡っていった。


 11月に突入すると、途端に寒さも厳しくなり、木々も赤や黄色に色付き始める。
紅葉の見どころにニュースも食い付き始めた頃だった。
それは起きたのだ。


 その日は週に一度の委員会で、当然神流も出席していた。
羽李もいたが、数週間後には受験が控えているとのことで、顔が死んでいた。
珍しく大人しい羽李に誰も話し掛けようとはしなかった。
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