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三章:恋心抱く秋

よん

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羽李を好きであると認識して初めて、これが恋なのだと自覚した。

「あ、でもさ。羽李は鈍感だし、普通に女の子が好きだから、あんまり苛めたら駄目だよ?」

慌てたように宣う史壱に返答は返さなかった。
神流の口元に浮かぶ笑みが、史壱には恐ろしく思える。

「では、もう暗くなってきましたし、僕はこれで。委員長も気を付けて帰って下さいね」

踵を返して部屋から出て行く神流を見送り、史壱は溜息を吐き出した。

「羽李も大変だな」

苦笑混じりに呟くも、脳裏には遠藤の顔が浮かんできて、また溜息が零れる。
去年のサッカー部主将と付き合い始めてから二年目。
親友だと思っていた遠藤に告白されたのが一年前。
大学生になった彼と、高校生の史壱とでは擦れ違いも多かった。
何よりも、彼は遊び人なのだ。
まだ高校に籍を置いていた時から浮気は耐えなかった。
その度に傷付いた。
何故だか解らないが、2人の関係に感付いた遠藤からは言い寄られる始末である。
今もそれは変わらない。
史壱は晴れない顔で戸締まりを済ませ帰路に着くのだった。




 自分の気持ちに自覚を持ってからも、神流は羽李に意地悪であるのをやめられずにいた。
寧ろ、酷くなっている。
バカにしたい訳ではないのに、口が勝手に動いてしまうのだ。
神流にとって、羽李が初恋とも言えた。
そのため、緊張してしまい、それを紛らわすためか、意地悪になってしまうようだった。
只でさえ、受験で三年生が委員会から引退する日が近付いていると言うのに、神流は焦っていた。
たった一つの接点が委員会なのだ。
その委員会でも会えなくなれば、このまま会わずに終わってしまう。
その現実は嫌と言う程に解っていて、それでも神流にはどうにも出来なかった。
仲は悪くなっていく一方である。
羽李に会えない日も多かった。
受験でバタバタしているのだと、史壱から聞いてはいた。
けれども、寂しいと想う気持ちには蓋は出来ない。


 そうして短い秋は過ぎていくのだったーー。
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