後輩の屈折した恋心と鈍感な先輩

Neu(ノイ)

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四章:別離の冬

なな

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そして、一気に息を吐き出せば、綴じていた目を開ける。
教卓側の扉に一歩づつ踏み締めながら近付いて行く。
教室の中は、予想通りに静かで、誰もいないようにも思える程だった。


 扉前で立ち止まり中を窺えば、廊下側の席に羽李はいた。
机に突っ伏している。
机上に放り出した腕の上に、片頬を預けている。
瞳は閉ざされていて、ただ突っ伏しているだけなのか、寝てしまっているのか、判断は出来なかった。
そろそろと足音を立てぬように近付いて行く。
僅かに、すぅすぅと寝息が聞こえてきた。

「先輩」

小さく呼び掛けてみるが、目の前の男はビクともしない。
本格的に寝てしまっているようだった。


 起こして連絡先を交換するべきなのだと、頭では解っていた。
ただ、幸せそうに眠る羽李を起こしてしまうのは、どうにも気が引けた。

「先輩」

もう一度呼んでも反応はない。
気持ち良さそうに眠る羽李に気持ちが昂ぶっていく。

「……羽李、さん」

すっ、と手が伸びて、羽李の髪を一房掬う。
起こすためではなく、羽李への想いを告げる代わりのように、自然と口を吐いて出た。
一度も呼んだことなどない下の名前を呼んだのは無意識だった。
切なくなり、胸が、ぎゅぅっ、と締め付けられる。
呼べば呼んだだけ、羽李への想いが溢れた。


 起こしてしまいたい。
彼の目に自分を映したい。
連絡先を聞いて、今までの誤解を解きたい。
あわよくば、想いを告げて奪ってしまいたい。


 様々な想いが入り乱れる。
何かを口にしようとして唇が開くが、結局出てきたのは吐息だけだった。
暫くの沈黙の後、寝息を立てる羽李を眺めて溜息を吐き出した。
結果的に、いつもこの人には敵わないのだ。

「……今は、お別れして差し上げます。貴方に向き合える大人になったら、捕まえに行きますから。それまでは自由に生きて下さいね」

ふっ、と笑うと眠る羽李に顔を寄せる。
髪に接吻(くちづけ)を一つ落として、神流は微笑んだ。
名残り惜しいとばかりに羽李を凝視する。

「これ、お約束の印に、頂いていきますね」

そう宣えば、器用に机の下に腕を差し入れ、羽李の学ランから第二釦をもぎ取った。

「それでは、またお会いする時までお元気で」

静かな教室に、神流の言葉だけが響く。
本来の目的は果たせなかったが、神流は満足そうにその場を後にする。
その手に釦を握り締め、何処か愉しそうに去って行くのだった。
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