Drug Crazy.

Neu(ノイ)

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一章:学園の闇

失ったもの 12

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 奥に人影が見える。
一つではなく二つ確認出来た。
二人、誰かがいるようだ。
一歩踏み込んで、物音を立てないようにドアを閉める。
無造作に散らばる備品を避けながら、奥に奥にと進んで行った。
人影の正体が解る距離まで近付き、真哉は驚きに息を詰める。
一人は探し求めていた佚だ。
もう一人、柔らかな雰囲気で微笑んでいる彼を、真哉は知っていた。
背は高いが威圧的な感じは一切受けない優しい顔立ちに、黒い髪は優等生らしく短目に纏められている。
元中等部生徒会長であり、現高等部副会長である夏目 祐輔(ナツメ ユウスケ)だ。
父親がPTA会長をしていることでも、彼は有名だった。
佚と彼に接点があったとは知らなかった。
真哉が驚愕に動けないでいる間にも、二人は何事かを話し、佚は祐輔から何かを受け取った。
佚がそれを懐に仕舞うのを見届け、祐輔は動き出す。
此処から出ていくつもりなのだろう。
真哉は咄嗟に身を隠していた。
心臓は五月蝿いぐらいに暴れている。
頭の中では、疑惑がぐるぐると回っていた。
生まれてしまった一つの仮説は、真哉には受け入れ難かった。


 遠くで扉が閉まる音が聞こえ、安堵に息を吐き出す。
佚は一人ニヤニヤと笑っていた。
気味の悪い笑みだ。
意を決して彼の元まで歩み出る。

「い、佚! 今の」
「あ? しんやあぁ、居たのかよ」
「何でお前。夏目先輩と何してたの」

佚は私服姿と言って良いのかも解らない程にちぐはぐな格好をしていた。
上はトレーナーに、下は寝間着、靴は学校指定の上履きだ。
明らかに可笑しい彼を目の当たりにして、涙が浮かぶ。
詰め寄っていくも、彼に胸倉を掴まれた。

「関係ないだろうがよ、お前には」
「佚っ、お願いだよ、麻薬なんかやめてくれ!」

至近距離で睨み合う。
どんっ、と唐突に突き飛ばされる。
よろけて固いコンクリートの床に尻餅を着いてしまった。
上から見下ろしてくる佚を見上げると、彼はケタケタ笑いつつ真哉の足を跨ぐようにしてしゃがみ込んだ。

「真哉あ、良かったなあ。俺は今すっげぇ気分いいんだよお。今日は優しくしてやるよお」

この時になって、いつもの乱暴な感じとは少し違うことに気が付いた。
もうキメているのだろうか、焦点が定まっていない。
息も荒いようだった。
暴力を振るわれるのとも違った恐怖に全身が震え出す。
しかし、今更逃げようとしても、もう遅かった。
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