BEAR AND BEAR

Neu(ノイ)

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一章:山のクマさん♪

クマさんと下宿先 06

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直ぐに離れたソレに志那の頭は何が起きたのか瞬時には理解出来ないでいる。
何度も両目を瞬かせ、見えなくなっていた二良の顔を視界に留めた時、遅れて状況を把握した。

「なっ、っ、なっ、なに」

唇を両の手で覆い、目の前の大男を睨み付ける。
真っ赤に染まった顔で睨んでも効果などないに等しいのだが、当の本人は解っていない。

「初めてか?」

初々しい志那の反応に二良の顔も弛んでいく。
確認する言葉が二良の口を飛び出していた。

「っさい! 帰る! っ、も、帰る!」

笑っている二良を目に馬鹿にされたと思ったのか志那の腕が振り回される。
泣き出してしまいそうな顔で背を向ける志那を背後から抱き締めて二良は「悪かった」と耳元で囁いた。

「悪い志那。嬉しかったんだ。機嫌なおせよ」
「や、やだ、っ! なん、で、ジロさん、キ、キス、なんて、すんだ、ヨ? おれ、男、だし。駄目ダ」

ガタガタと体躯を震わせている志那の手を握り締めた。
抵抗をみせる彼の肩を掴み向かい合わせにすると、二良は志那の双眸を覗き込む。

「好きな子にキスしたいと思うのは、駄目なことか? なあ、志那。ずっと前からお前のことが好きなんだ。先輩には成人するまで手ぇ出すなって釘刺されたが。今のは可愛いお前が悪い」

真剣な眼差しに貫かれ、志那の頭は一杯一杯になる。
彼が何を言っているのか理解出来なかった。

「なっ、なんっ、俺、……かっ、可愛く、なんか、ねぇデス」

カッ、と顔中が熱くなる。
頬に朱がさしていく。
そんなみっともない顔を見られるのが嫌で顔を下向きに背け、二良の手を振り解こうと身体を揺らす。
彼の逞しい腕が背中に回り強く抱き込まれてしまう。
放せ、と掌で厚い胸板を押すもビクともしない。

「好きだ。男同士でもそんなこと関係ないと思えるぐらい、お前が好きなんだよ、志那」

耳元で囁かれる低音が脳をクラクラとさせる。
意味も解らずに泣きたくなったのは、純粋に向けられる「好き」という言葉に慣れないからなのか。
嬉しいと想ってしまったことへの背徳感なのか。
考えることが酷く恐ろしい。

「やだ、やだ、やだ、っ! 放せヨ! 俺、わかんな、い」

ぶんぶん、と勢い良く首を左右させ、二良の胸を叩いた。
泣きたくないのに目頭が熱くなり、気付けば頬が濡れていく。
自分の気持ち一つ解らずに駄々を捏ねる仕草を取るしか出来ないことが悔しくて堪らない。
彼を拒否したい訳ではないのに、拒絶する態度しか取れない己が矮小に思えた。


 拳を叩き付けて二良の胸板に額を押し当てる。
声を上げて縋り付きたかった。
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