悪戯してもイイよね?

Neu(ノイ)

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悪戯してもイイよね?

悪戯してもイイよね? 03

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あんなに嫌っている行為を、深黒と楽しみたいと考えてくれている。
付き合いが長い分、嫌と言う程に参の性格は知り尽くしていた。
彼は優しい人間ではあるが、信念に反することはしない人間だ。
クリスマスには、キリスト教徒でもない人間が何故クリスマスを祝うのかと怒り、ヴァレンタインには一司祭の何たらを、と熱く語り、ハロウィンには古代ケルト人の豊作を願う想いが云々と、講説が始まる。
それだから、参と過ごしたイベントの記憶が深黒には存在しない。
深黒とて、元が根暗な性分なので、別にイベントを楽しみたいと思っている訳ではない。
それでも、貧しいながらに父から隠れひっそりと母と二人祝ったクリスマスは忘れられない想い出だ。
無職の父が母からなけなしのお金を奪い取り酒を浴びるように呑んでいた生活の中で、2月14日、母が用意してくれたチョコの甘さは今でも覚えている。
母が生きている時には、まだハロウィンは日本に広まっていなかったので、実のところハロウィンがどういったものなのかよくわかっていない。
参の話を聞いても、漠然としたイメージしか湧かず、35歳になって尚、別世界の出来事だった。

「えっ、と。その、……僕は、サン君のお話を聞くの、好きだよ。つまらないなんてことは一度もなくて。勉強になるし、学のない僕にはすごく刺激的で楽しいし。あの、あの、あの。サン君が楽しいと思うこと、しよ? とっ、とり、あえず、ご飯作る、ねっ!」

勢い良く首を左右させた深黒の首が、くたり、と傾き参を見詰める。
微かにはにかんだ深黒の手がソッと参の手を離し、部屋の奥へと進んで行く。

「君は本当に……莫迦だなあ。どうして男を煽るようなことを平気で口にするんだろうね」

遠ざかる背中に向かい呟いた参は短い髪を無駄に掻き上げ、深黒の後を追った。


* * * * * *


 二人で協力し夕飯を作り、参の講義を聞きながらの食事を終える。
柚子を浮かべた湯船を用意し、順番に入浴を済ませる。
風呂を上がり就寝するだけかと思っていた深黒に待っていたのは、カチューシャを手にする参だった。
黒いツノのようなものがついたカチューシャを掌で遊ばせる参は憮然とした表情で深黒の前に立つ。

「……次子兄さんが、これぐらいはしろと言うから貰ってきた」
「へえ。それ、どうするの?」

河東家次男の次子(ツギネ)の名に深黒は首を倒す。
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