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一章:幸せを知らない男は死にたいらしい
春の日の、拾いもの 01
1.プロローグ
【春の日の、拾いもの】
死ぬ気なんだろうな、と暢気に墜ちていくのを眺めるつもりでいた筈が、何故か手を伸ばしていた。
思えばこの時点で捕まってしまったのだろう。
薄汚い身形のまだ年若い青年の、世を儚んだ憂い顔にありとあらゆる欲望を刺激されていた。
少年は何不自由のない人生を謳歌していた。
指定暴力団などという反社会的組織の次男坊に生まれ、人生をイージーモードで生きて今年で18年になろうとしている。
跡取りでもなく煩わしいのは一緒に住まう幼馴染の男だけだった。
将来は若の右腕となり組の繁栄のため、うんたらかんぬん、とやる気もなく日々を過ごす少年に説教をする幼馴染は、少年の祖父の舎弟の孫という、とても微妙な立ち位置の兄と同い年の男だ。
何もかもが面倒になってしまったのは、中学の卒業が近付いてきた二月も終盤のこと。
解り切っていたことではあるが、次男というのは、長男に何かあった時の保険に過ぎないのだと思い知ってしまった。
兄が撃たれ入院しただけであっても、それまで気楽に構えていた少年の胸に言い知れぬ恐怖を与えたのだ。
不安や焦燥、恐れやプレッシャー、言葉にすれば陳腐な感情に塗れることが、少年には堪えられなかった。
それ故に、少年は家と距離を置くことを選択した。
上手いこと理由を言い繕い、両親を説得し、中学を卒業した日に、少年は一人暮らしを始めたのだ。
実家から遠く離れはしないが、丁度いい距離感だった。
1DKの間取りのオートロック式のマンションに越して、そろそろ三年が経とうとしている。
四月には三年生に進級する少年は、夕飯の買い出しに出掛けていた。
桜の蕾がちらほらと開き、薄桃色の可憐な様を誇らしげに晒すのだ。
見るつもりはなくとも目に飛び込んで来る。
そんなに愛でて欲しいのか、と口端が上がっていく。
スーパーは大通りを挟んだ道路の向かい側にあり、日が落ちて暗くなっていく中、少年は歩道橋の階段を上がる。
桜の枝が歩道橋に掛かり、すぐ頭上で揺れていた。
散った花弁が髪や服にとつくのを享受しながら最上段まで上がり切る。
かんかん、と不自然な物音が聞こえ、視線を前にいる不審な人物に移しつつ前に進んで行く。
ボロボロの薄汚い長袖のTシャツに擦り切れたジーパンを穿いた、まだ20代前半――20歳ぐらい――の青年だった。
ボサボサの明るい茶髪が風に靡き、少年の鼻に異臭を運んでくる。
通り過ぎる際に青年を睨もうとして、少年は目を見張った。
がたん、と音を立て青年は片足を手摺に乗せている。
ぐっ、と腕に力を入れ体躯を持ち上げると、反対の足も手摺に掛かる。
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