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一章:幸せを知らない男は死にたいらしい
春の日の、拾いもの 04
しおりを挟む「やあっ! いや、っ、っっ、もっ、入れんといて! 入れたらいやや! 入ってくんなあ! ナカ出したらアカンねん! やっ、煙草やめぇ! 切るのいややあぁあぁっ、っ、っ! もっ、もっ、熱いの、いや、や。イイ子するさかいに堪忍してや、っ」
耳を切り裂くような劈(つんざ)く悲鳴がこだまし、幸在の顔が歪む。
取り乱して暴れる男を押さえ付け、破った布切れを肌から剥がし、肌を露にさせる。
ああ、と無意識に漏らしていた。
肌が露出すると目に入ったのは、煙草を押し付けて出来る所謂根性焼きと、鋭利な刃物で傷付けたと思われる傷痕――ちゃんとした処置をしていないのだろう、皮膚が歪に引き攣れている――に、赤く爛れた火傷痕が上半身を覆い尽している様だった。
青年の叫びと合わせて考えるならば、犯されながら付けられた傷だと推測出来た。
ぐっ、と腕を掴みガリガリの体躯を抱き締める。
腕を振り回し、足を振り上げ、暴れようとする細い肉体を離さずに背中を撫ぜる。
「悪かった。犯すなんて嘘だ。安心しろ。何もしない。鶏ガラに誰が欲情すんだよ? 俺は骨に突っ込む趣味はない。大丈夫だ。綺麗にするだけだから」
何度も背中を上下する掌には、皮と骨の感触しか伝わってこない。
耳元で「大丈夫だ」と何度も囁くと、青年の抵抗が止んでいく。
「じ、自分で、洗えます。身体、見られとうないねん。……し、下も、汚いんよ。あんちゃんも、気分悪いやろ? 見ぃひんで下さい」
震える声を無視し腕に閉じ込めたまま、下肢に手を伸ばす。
自分のものは自分で綺麗にしないと気が済まない性分なのだ。
「もっとふくよかになれ。綺麗に筋肉をつけて、少しだけ脂肪を添えたら、抱き心地のいい身体になる。毎日抱いて寝るんだ。ご主人様のために身体作りに励めよ?」
何を言われているのかまるで解っていないキョトンとした瞳を向けてきた青年に、それ以上、何を言うでもなく無言で下穿きを脱がしにかかる。
釦を片手で外し、ジッパーを下げていくと「いやや、いやや」と首を振り、手で邪魔をしてくる。
男の制止に気を留めることなく、ウエスト部分に手を掛け下着ごと脱がしてしまう。
「それから、俺は幸在だ。変な呼び方すんな」
足首から抜き去った厚めの生地のジーパンは、水を吸って重くなっていた。
浴槽の中に投げ捨てサチを睨めば彼は口の中で「ゆ、き、あ、り?」と転がして、難しい顔をする。
眉間に寄った皺を人差し指で撫でてみるも、指が汚れたのでお湯で流した。
「呼びにくいやんな。ユキさん、でもええですか?」
下から機嫌を窺う双眸を向けられる。
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