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一章:幸せを知らない男は死にたいらしい
春の日の、拾いもの 11
二合の米を手早くとぎ、炊飯器に早炊きでセットし部屋に戻る。
視線を彷徨わせているサチの背中側に腰を降ろした。
ドライヤーのコンセントを差し込みスイッチを入れると、ブオオオオー、と盛大な音と共に温風が噴き出す。
途端にサチが「うわっ、な、っ、なな、なんなん?」と逃げようと身を横に倒していく。
ドライヤーを知らない可能性は想定内で、片腕を彼の左側面に回し、抱き込んで固定してしまう。
「髪を乾かす機械だ。少し音はうるさいが我慢しろ。ほら、大人しくして」
余程怖いのか、動きづらい状況でも構わずに腕を振り回そうとする男の耳元で囁き、温風を湿った髪に当てるも、頭を振ってイヤイヤとむずかるので、スイッチを切った。
大丈夫だ、と告げて彼が落ち着くまで両腕に閉じ込める。
怖いねん、と呟いて背中を預けてくる青年の震えが止まるまで細い体を強く抱いていた。
サチの様子が平常になった頃合いを見て「乾かすぞ」と声を掛け、ドライヤーから温風を出す。
体躯を強張らせながらも、暴れることなく身を任せているサチの髪を片手で梳き、片手に持ったドライヤーで乾かしていく。
ふわふわ、と柔い髪が靡いては宙を舞う。
キンキラ、キラキラ、と輝いて見える毛髪が空を舞う様は美しい。
「サチの髪、綺麗だな」
思ったままに言葉を発していた。
顔を上に背け幸在を窺う青年の頬が仄かに色付く。
「ユキさんの髪の方が、キレイな黒で、カッコええです」
双眸を細め、ほわり、と笑んだ顔に、ぞくり、と体中がざわついた。
奥深い場所から溢れてくる欲情は表に出ることなく幸在の内で燻っている。
今はまだ、動く時ではないのだと解っていた。
欲しくて堪らない欲求が熱い吐息となって漏れ出るのだった。
髪を乾かし終えドライヤーを洗面所に片付け、サチを部屋に残し、幸在はキッチンに向かう。
青年にとっては幸運なことに、冷蔵庫にもやしがあった。
豚肉とキャベツと人参、しめじと一緒に塩コショウで炒めていく。
二人前のもやし炒めが出来上がった頃に、先程セットした炊飯器が鳴いた。
炊けた白米を茶碗に盛り、大皿に乗せたもやし炒めと一緒に部屋まで運んでいく。
ローテーブルの上に並べるのを大人しく見ている青年に箸を渡し、幸在はサチの向かいに座った。
「好きなだけ食べていいから、遠慮はするな」
目を輝かせて箸を持つ青年が「待て」をしている犬のようで微笑ましい。
今にもヨダレを垂らしそうな雰囲気の男を促し、幸在も箸を持つ。
「ホンマに、た、っ、食べて、ええのですか? オレ、まともなご飯食えるの、いつ振りやろ?」
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