ジ・エンド

Neu(ノイ)

文字の大きさ
20 / 47
一章:幸せを知らない男は死にたいらしい

存在しない男 02



先手必勝と説教封じを口にしつつ部屋に案内すれば、ベッドの上のサチに気付いた零仁の口があんぐりと開いた。

「なっ、なな、っ、誰ですか、その方は!? 身元の解らぬ人間をほいほいと家に上げたりしないで下さい! ……って、まさか、貴方」

語調を荒げる男に眉を顰め、口元に人差し指を当てる。
静かにしろ、と示す幸在を唇を震わせて見ている零仁は少年の性格をよく知っていた。

「その、まさか、だ。拾った。飼うからそのつもりでいろ」

おおう、と額に片手を当てる零仁を無視して幸在は話を進める。

「死にたがって死のうとしたり、逃げようとしたら、全力で止めろ。ただし、手荒なことはするな。極力優しくしてやってくれ。傷一つ付けるな。これは、俺の犬だ」

非難がましい視線を送ってくる零仁に構わず、幸在はベッドの脇にしゃがみサチの頭を撫でた。

「犬、って。人間じゃないですか。今まで拾ってこられた動物とは訳が違うんですよ? 彼だか彼女だか知りませんがね、家族がいて帰る家があるでしょう。勝手に拾ったと言って飼っていいものではないんです、人間は」

背後に零仁が立つ気配に彼を仰ぎ見る。
23歳になる男の額には青筋が浮かんでいた。
腰に手を当て仁王立ちしている様には笑いを誘われる。

「そのぐらいの常識は俺にもある。安心しろ。飼っても問題がないから飼うんだ」

ふん、と鼻を鳴らし立ち上がる。
零仁の眼を真っ直ぐに見詰めた。

「無平と言う男について調べろ。恐らくは、定職についていない。無平に拾われた幸無し子。サチと呼んで一緒に住んでいた子供がいる。学校には通わせていない。子供に乱暴を加えている筈だ。……ああ、既に死んでいる可能性が高い。公的な書類よりも近所の噂から当たった方が確実かもしれないな」

メモを取る幼馴染に背を向け鞄を手に取る。
一度拾ったものを手放す気などないが、逃げようとするのならとことん追い詰めなくてはならない。
その為の材料が幸在には必要だった。
サチの素性などは正直どうでもいいのだ。
欲しいのは、幸在の中にある憶測の証拠である。

「それから、サチが起きたら朝食を食わせて、平仮名を教えておけ。学校に通ったことがないみたいだからな。お前の常識を押し付けるなよ。何も知らないことを責めたり呆れたりするな。優しく教えてやってくれ」

小言を聞かされるのは嫌で早々に立ち去ろうとして腕を取られた。

「貴方と言う人は、ご自身の立場を解っておいでなのですか? 飼ってどうするんです? 貴方もいつかは結婚しなくてはならないでしょう? 安存様を支えていく立場なのですから」
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年