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一章:幸せを知らない男は死にたいらしい
存在しない男 02
先手必勝と説教封じを口にしつつ部屋に案内すれば、ベッドの上のサチに気付いた零仁の口があんぐりと開いた。
「なっ、なな、っ、誰ですか、その方は!? 身元の解らぬ人間をほいほいと家に上げたりしないで下さい! ……って、まさか、貴方」
語調を荒げる男に眉を顰め、口元に人差し指を当てる。
静かにしろ、と示す幸在を唇を震わせて見ている零仁は少年の性格をよく知っていた。
「その、まさか、だ。拾った。飼うからそのつもりでいろ」
おおう、と額に片手を当てる零仁を無視して幸在は話を進める。
「死にたがって死のうとしたり、逃げようとしたら、全力で止めろ。ただし、手荒なことはするな。極力優しくしてやってくれ。傷一つ付けるな。これは、俺の犬だ」
非難がましい視線を送ってくる零仁に構わず、幸在はベッドの脇にしゃがみサチの頭を撫でた。
「犬、って。人間じゃないですか。今まで拾ってこられた動物とは訳が違うんですよ? 彼だか彼女だか知りませんがね、家族がいて帰る家があるでしょう。勝手に拾ったと言って飼っていいものではないんです、人間は」
背後に零仁が立つ気配に彼を仰ぎ見る。
23歳になる男の額には青筋が浮かんでいた。
腰に手を当て仁王立ちしている様には笑いを誘われる。
「そのぐらいの常識は俺にもある。安心しろ。飼っても問題がないから飼うんだ」
ふん、と鼻を鳴らし立ち上がる。
零仁の眼を真っ直ぐに見詰めた。
「無平と言う男について調べろ。恐らくは、定職についていない。無平に拾われた幸無し子。サチと呼んで一緒に住んでいた子供がいる。学校には通わせていない。子供に乱暴を加えている筈だ。……ああ、既に死んでいる可能性が高い。公的な書類よりも近所の噂から当たった方が確実かもしれないな」
メモを取る幼馴染に背を向け鞄を手に取る。
一度拾ったものを手放す気などないが、逃げようとするのならとことん追い詰めなくてはならない。
その為の材料が幸在には必要だった。
サチの素性などは正直どうでもいいのだ。
欲しいのは、幸在の中にある憶測の証拠である。
「それから、サチが起きたら朝食を食わせて、平仮名を教えておけ。学校に通ったことがないみたいだからな。お前の常識を押し付けるなよ。何も知らないことを責めたり呆れたりするな。優しく教えてやってくれ」
小言を聞かされるのは嫌で早々に立ち去ろうとして腕を取られた。
「貴方と言う人は、ご自身の立場を解っておいでなのですか? 飼ってどうするんです? 貴方もいつかは結婚しなくてはならないでしょう? 安存様を支えていく立場なのですから」
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