ジ・エンド

Neu(ノイ)

文字の大きさ
23 / 47
一章:幸せを知らない男は死にたいらしい

存在しない男 05



死にたい気持ちはなくならない。
死んでしまえば永遠に逃げられる。
けれども、幸在と過ごした時間が優しいもので、サチはどうしていいのかわからなくなっていた。
髪を撫で抱き締め、唇をくっつけてくる。
意味はわからないのに心地良い。


 だからこそ、少年が寝た後もサチは逃げなかった。
彼の腕の中にいるのが気持ち良くて大人しくされるがままにしていたのだ。
髪に掛かる寝息を擽ったいと感じながら、いつの間にか寝てしまっていた。


 逃げなかったのに幸在がいない。
即ち、自分は捨てられたのだと考えたサチに零仁の深い溜息が返される。

「あの人は、貴方を一生手放しはしませんよ。捨てるだなんて地球が滅びようが有り得ません。死ぬまで傍に置いて放す気はないそうです。厄介な男に目を付けられて、貴方も災難だ」

水を持って来ます、と部屋を出て行く零仁の背中を眺め、サチは言葉の意味を思案した。
昨日幸在は、此処にいる限りサチに危険はないと言い切った。
危険がないのなら死ななくてもいいのかもしれない。
今はまだ、少年の言葉を信じてみたかった。
もしも幸在がサチを傷付けるのなら、その時に死ねばいい。
飼われる、ということがどういう意味なのかはわからないが、サチは幸在と生きてみたかった。
死んだ男に会いに行きたい想いを押し込めて、お試しで幸在と少しの間、生活しようと決める。

「はい、飲んで下さい。朝食は食べられそうですか?」

上体を起こし戻ってきた零仁からコップを受け取った。
彼の問い掛けに答えたのは、盛大な腹の音だった。


 零仁の作ってくれた目玉焼きは、黄色い部分がトロトロで美味しくて、サチは感動に目を真ん丸くしてしまう。
白米に乗せて醤油を掛けて食べると口の中が美味しさで充足し、ほっこり、と胸がときめいた。
付け合せの千切りキャベツは矢張りシャキシャキで、しなびていないご飯を2日も続けて食べていいのだろうか、と不安に駆られる。
こんな贅沢な生活を送っていたら、オバケに食べられてしまうかもしれない。

「オ、オレ。こんな美味しいご飯、毎日食べたらオバケに食われてまう。アカン。オレ、ユキさんとおんなじご飯、食べられへん」

ぶるり、と首を一振りするサチを、零仁が怪訝な顔で見ている。
口元を片手で押さえ、若干、肩が震えていた。

「オ、オバケ、ですか? いや、オバケぐらいなら幸在さんが倒しますよ。あの人、空手の腕前だけで言えば組長よりも強いですからね。まあ、オバケに肉弾戦が通じるのかは謎ですが」

くくく、と笑っている零仁が目に着けているものを外し、目尻を拭う。
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年