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一章:幸せを知らない男は死にたいらしい
存在しない男 16
しおりを挟む「おやすみです、ユキさん」
腕の中で身を寄せてくるサチの首に吸い付くと「んへ?」と間抜けな声が上がる。
満たせない欲をぶつける代わりに自分の痕を青年の体に残した。
「ん、っ、ユキ、さ、ん、擽ったい」
顔を上げ、ふへへ、と笑い声を漏らすサチの頬に唇で触れる。
横向きで抱き締めた男の腹を撫ぜて笑った。
「抱き心地わりぃな。もっと肉、つけろ」
骨の浮く肋を寝間着の上から指先で辿り、額に口付ける。
お返しのように幸在の頬に唇を触れさせ、照れた顔で笑う青年の体中を舐め尽くしたくなった。
若い性を持て余しても、それでも幸在は何も知らないサチに手を出すつもりはない。
行為だけならば、無理矢理に犯されてきたのだろう。
身体を重ねる意味も知らず、愛も与えられず、ただ乱暴に性処理玩具として玩(もてあそ)ばれてきたと推察された。
だからこそ、自分の想いだけで抱いてしまうのは時期尚早だと自身に我慢を強いる。
サチから幸在を求めてこない限り、性的に触れることはしないと、少年は堅く心に誓っていた。
腕に収まる愛しい存在を感じながら眠りにと落ちた幸在の寝顔を眺め、男も視界を閉ざす。
優しく触れてくる温もりを知らないサチにとって、少年が齎す温かさは未知のものだった。
甘えることを知らなかったサチは、その温もりを必死で掴んでいた。
『死』とは遠い場所にある楽園に思えて、青年の胸の内は、様々な感情に埋め尽くされる。
「オレ、死ななくてもええんかな? ユキさんとおるの、楽しいけど。オレ、おっちゃんとこ行かんでも許されるんやろか?」
楽しい、嬉しい、それなのに、サチの心には寂寥感と罪悪感がぎっしりと詰まっている。
静かに眠る少年の首に腕を回し抱き着き、彼の鎖骨に額を押し当てた。
微かに届く、とくとく、と鳴る心音が、少しづつ青年の気持ちを落ち着かせる。
「オレ、ユキさんと生きてもええの?」
そっ、と響いた問い掛けに答えるものは何もなかった。
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