ジ・エンド

Neu(ノイ)

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一章:幸せを知らない男は死にたいらしい

閑話:ユキさんとちょきちょき 02



ぎゅううう、と幸在の首に腕を巻き付かせ震えているサチの背中を撫でると掌に、ざらざら、とした感触を受ける。
痛々しい傷痕を慈しむように指先で辿る。
体勢がキツイので太腿の上に青年を座らせ、更に体同士が密着した。
いつもより上方にある顔を下から見上げるとサチの瞳には涙が浮かんでいる。

「どうした、サチ」

そっ、と彼の目尻に舌を這わせる。
塩辛い味が口に拡がり、思わず口端が上がる。
もっと自分を頼り泣き縋れぱ良いのに、と自分勝手なことを考えつつサチの眼を見詰めた。

「オ、オレ。オレ。怖いねん。おっちゃん、もうオレの傍にいてくれへんのや。オレの救世主やったのに、おっちゃん、死んでもうた。今は、ユキさんおってくれとるけど、もしもユキさんもおらんくなったら、オレ、いやや。ユキさんとずっと一緒がええよ。死んだらいやや」

ぽたり、と雫が頬にと落ちてくる。
うえ、と泣き声を上げる男に「こんのバカ犬が」と低い声を漏らしていた。

「言っただろうが、俺はお前を手放すつもりはない。勝手に人を殺すな。大丈夫だ、俺はお前より先には死なないし、ずっと傍にいる」

きつく抱き締めた骨張った体を離し、新聞紙の敷かれた床に転がすと、驚愕した顔で見上げてくるサチと目が合う。

「俺が脱がしてやるよ」

幸在の胸の内に拡がった敗北感は、少年が感じたこともない屈辱を齎した。
事情は解らないが、未だにサチの中を埋めている男が憎たらしい。
所詮、サチにとって自分は代わりに過ぎないのだと思うと悔しくて堪らない。

「あっ、……う、っ、や、あの。オレ、自分で脱げるです」

腰に手を伸ばしウエスト部分に手を掛けると青年の手が重なった。
視線を彷徨わせ唇を震わせている様に心臓が跳ねる。
深く息を吐き出し手を離した。

「さっさと脱いで来い」

青年に背を向け額に手を当てる。
暴れ出してしまいそうな本能を理性で抑え付け、脱衣所に戻れ、と示した。
背後で新聞紙が、がさり、と音を立て青年が脱衣所に向かうまで息を詰めていた。


 脱衣所でズボンを脱ぐ間も零れてくる涙をそのままにサチは首を左右させる。
幸在はサチを残していなくならない、そう言い聞かせても漠然とした不安が青年を覆い尽くす。
モヤモヤとした行き場のないやるせなさを呑み込んだ。
脱いだジーパンと、床に放ったままのシャツを洗濯物カゴにと入れ、パンツに手を掛ける。

「オレ、ユキさんと一緒に、いたいです。おっちゃんのとこ、行きたい気持ちもまだあるんやけど。でもオレ。ユキさんと生きてもええやろか?」

幸在にちゃんと気持ちを伝えたい。
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