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一章:幸せを知らない男は死にたいらしい
閑話:ユキさんとちょきちょき 03
ふと湧いた欲求のままに浴室にと言葉を放つ。
顔を見るのは気恥ずかしくて洗濯機を見詰めていた。
片足から下着を抜き、よろけながらも、もう片足からも抜き去っていく。
脱いだパンツをカゴに入れていると、背後に気配を感じ振り向いた。
無表情の少年に見下ろされていた。
「なあ、サチ。俺と生きる以外の選択肢なんかはじめからないだろ? 俺の為に生きろ。お前はもう、俺のモノだよ」
ひたり、と額に唇が押し当てられる。
思いの外、熱く感じられる他人の皮膚は恐ろしい筈なのに、幸在のものだと思うと嬉しかった。
「あ、あんまり、見ぃひんで下さい」
全裸の自分は綺麗なものではない。
寧ろ、醜悪な見た目だ。
汚い引き攣れた痕を見られたいとは思わない。
「俺は見たいと思ったものしか見ない。お前の身体は、傷だらけでもキレイだよ。どんな痕が残っても損なわれたりしない美しさだ。俺の前では気にしなくていい」
んぐ、と苦しくて変な声が漏れる。
胸に何かが詰まっては込み上げてくるものは何だろうか。
サチの知るちっぽけな語彙で言い表わせる想いなど多くはないが、なんと形容しても言葉にした途端にどれもが違うものになってしまうような、そんなものだった。
「キ、キレイ、とか……っ、言ったら、アカンよ。オレ、オレ、っっ、き、汚い。汚いって、言われ、た。ユキさんだけです。オレの身体、キレイだとか、好きだとか、そんなん言うんは、ユキさんしかおらんです」
ぎゅう、と幸在に抱き着き、鎖骨に額を擦り付ける。
ぼたぼた、と床に落ちていく雫で視界が歪んだ。
「俺がどう思おうが俺の勝手だろ。他人がサチをどう評価したところで、俺の想いは変わらねぇよ。その傷ごと全部、俺はサチが好きなんだ。つか、俺だけでいいだろ。他の人間に体をホイホイ見せんじゃねぇぞ、バカ犬」
体を離された、と思った時には腰に腕が回され、足が宙に浮いていた。
驚いて幸在の首にしがみつくと、そのまま浴室に運ばれ椅子に座らされる。
「髪切るから、目ぇ瞑っとけ」
言われた通りに、ぎゅむ、と瞼を閉ざした。
ほわほわ、とした髪を撫で付けられた後、前髪が引っ張られていく。
「動くなよ」
ざきざき、と言う音と共に振動が伝わってくる。
切られた髪が、はらり、はらり、と落ちては顔に張り付いてくる。
時折、幸在の指が払ってくれるが、それでもこそばゆかった。
「目ぇ開けてもいいぞ」
前髪を切り終わった幸在の手が丁寧に髪を払い除けていく。
ゆっくりと目を開けると、少年の満足気な顔と出会う。
頬に手が添えられ、幸在を見遣れば彼の口端が持ち上がる。
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