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一章:幸せを知らない男は死にたいらしい
閑話:ユキさんとちょきちょき 04
さわさわ、と肉の薄い頬を撫でている少年を見詰めていた。
ふと少年の顔が近付いてきて額と重なる。
唇が触れた箇所は、じんわり、と温(ぬく)い。
幸在から示される親愛はサチをほっこりとさせる。
口を付ける行為にどういう意味があるのかは知らないが、好きを伝える手段なのは察していた。
サチの幼い「好き」には、好ましいという意味しかないのだから、幸在が口付けてくる本当の理由など知る由もない。
ただ相手から示される「好き」が嬉しくて、ほんわり、と笑うサチの頬を少年の手が抓る。
「後ろの髪も切るから向き変えて」
ぶっきらぼうに告げる幸在に促され、座る向きを変えていく。
遮るものが無くなった視界の端に映る少年は、何かに堪えるように眉間を寄せていた。
キョトンとした顔の青年に溜息を吐き出した幸在は首を左右に揺らす。
少年の欲望も我慢も、何一つ理解しないで無邪気に笑う無垢な男が腹立たしい。
愛おしく想えば想う程に息が詰まる。
外には出せない想いを身の内に閉じ込めるしかない状況は、若い幸在には辛かった。
「明日の朝飯は何がいい? 目玉焼き、気に入ったか?」
ともすれば今にも口付けてしまいたい欲望を紛らわせようと他愛無い問を掛ける。
じょき、じょき、と髪の束を切る振動を手に受けながら、少しづつ柔らかな髪を切っていく。
「はい。美味しかったです。でもオレ。毎日豪華なご飯は貰えへんです。その、お米と味噌汁さえ貰えたら、それだけで十分や」
目玉焼きを豪華だと宣う男がいじらしく、胸の奥が言い切れないやるせなさに包まれた。
「目玉焼きぐらいじゃ、オバケは来ないぞ。大丈夫だから栄養のあるものを食べろ」
もっと甘やかしてしまいたい欲は、裏を返すなら甘えて欲しいと言うことなのだろう。
放っておけば死んでしまいそうな青年が愛しくて、それでも表現の仕方が解らずに、ぶっきらぼうに告げることしか出来ない。
「ユキさんもトロトロの作れるん? オレ、オレ、っ! 作り方、覚えます。そうしたら、毎日ユキさんに作りますね」
興奮気味に拳を握ったり開いたりしながら上下に振るサチの顔には嬉しそうな笑みが浮かんでいる。
普段、昂ぶることのない感情が一気に溢れ、どうにもならなかった。
鋏を浴槽の縁に置き、青年を背後から抱き締める。
細い身体が戸惑いがちに、びくり、と揺れるのが愛らしい。
「ユ、キ……さ」
「……毎日は流石に飽きる。だから、他にも美味しいものを教える。一緒に作って、二人で食べよう」
今すぐに押し倒してしまいたい。
ぐちゃぐちゃになって訳も解らない程に混ざりたい。
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