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一章:幸せを知らない男は死にたいらしい
閑話:ユキさんとちょきちょき 07
直前まで少年の中を渦巻いていた欲望が、サチの柔らかな表情に包まれて消えていく。
まるで幸せを咀嚼しているかのような顔で、ほわほわ、と笑う青年を目にした途端、足りなかったモノが一気に全身にと注ぎ込まれた気がした。
「……だから言ってんだろ。お前は俺とずっとこうして生きていくんだよ。俺と一緒に幸せになるんだ」
それ以外の選択肢など与えたくないのだ。
幸在と過ごす未来を想い嬉しそうに笑う青年を独り占めしてしまいたい。
この男を手放すことなど、考えたくもなかった。
ジッ、と少年を見るサチは思案気に口唇を小さく開閉させた後で、悲しそうに瞼を伏せる。
彼の気持ちを曇らせるのは、青年を育ててきただろう男の『死』にあると推測は出来ても、幸在にはサチを慰める術など何もない。
独占欲と支配欲で現し世に縛り付けることしか出来ないのだ。
「それが許されるのやったら。ユキさんに甘えて生きてもええのなら。……嬉しいです。でもオレは、迷惑しか掛けられへんのです。もしも見付かってしもうたら、あの人等、ユキさんにもヒドイことするかもしれへんよ。オレ、おらん方がええのとちゃいますか? ユキさんのこと、困らせとうないです」
流れる沈黙に堪え兼ねたのか、顔を前に戻しつつ言葉を放つ青年からは悲壮さが漂ってくる。
「困らせとうないねん。それやのに、オレ。……ユキさんと離れたくないのです。おっちゃんもオレのこと待っとるのに。死ななアカンって思うのに、オレ、ユキさんと生きていたい。どないしたらええのかわからへんのです」
俯き加減で腿の上で拳を握り締める男に掛ける言葉が見付からなかった。
死ぬべきだと思いながらも、幸在と生きたいとも望むその矛盾に苦しんでいる様子の青年に、憐憫と愛しさが身の内で溢れ返る。
少年と生きる選択肢しか与えられない中で、未だに死にたがる男が哀れでもあり、それでも幸在と生きたいと訴えてくる様にどうしようもなく心が震えてしまう。
「俺のことは気にするな。生まれた時から危険とは隣合わせの人生だ。監視もついている。何かあれば家の連中が助けに来る。……お前は、俺の隣で笑っていればいい。もうお前の人生は丸ごと全部、俺のモノだ。俺の為に、生きろ。死ぬことは許さない」
馬鹿みたいに同じ台詞を繰り返し、支配することでしか愛を示せない。
傲慢な物言いしか出来ない少年に、それでもサチは嬉しそうに笑った。
「……ユキさんがええなら、オレもそれでええです。オレ、難しいことは考えても何にもわからへんから。ユキさんの言う通りにしときます」
鏡には男の笑う姿が映し出されている。
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