私プロゲーマーに成ります!~FPS女子の軌跡~

紫隈嘉威(Σ・Χ)

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二章

大学生活の終わり

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「卒論に苦労してたので助かりました」
「そうだったんだね」

 そんな会話を繰り広げる横で、卒論に苦労する啓がいる。

「俺も混ぜてくれよ・・・」
「ちょっと無理かなぁ。でも、手伝うよ。来月のテストプレイ以外、オフシーズンは練習だけで、大学卒業に向けて招待も断る方針だからね」
「そっか、助かるよ」

 クリステルの苦労と啓の苦労は方向性が違う。
 クリステルは洋二郎のアドバイスをもらってはいたのだが、未だにテーマが決まっていなかった。
 啓は妹の事もあれば美優希の事もあるので、テーマは早々に決まっているが、書き直しの繰り返しで、一向に終わりが見えないでいる。本人が元から小論文を苦手にして、そのままにしているので自業自得でしかない。
 卒論を手伝いつつ、翌月、洋二郎が司法修習の為いなくなり、美優希たちはアメリカに飛んだ。IPEX2の招待テストプレイである。
 別に驚くことは何もなかった。
 ゲームエンジン変更による最適化によって、表示可能ポリゴン数が増え、モデリングがより精細に、つまり高級感が増した。増した高級感分重くなっておらず、プレイヤーのPCにスペック的余裕がかなり残されている。
 しかし、それだけである。
 無論、新規追加分の武器やキャラクター、マップのワクワク感はあった。失敗と言う程調整ができていないと言うわけでもない。それでも、招待選手からもう少し弱体化する必要性がある意見が多数飛び出した。
 とは言え、結局はそれだけだ。

「すいません。ジャストライフゲーミングのミュウさんですね?」
「ええそうです」

 野々華がキャラクターコントロールを試して、その様子を眺めていた美優希に声をかけてきたのは、開発のe-sports部門の社員だ。

「開幕リーグの件でお話があります。あちらの方へよろしいですか?」
「分かりました」

 クリステルを連れて部屋の隅に呼ばれて話を聞くと、初開催になるので、来年の開幕リーグはどうしても出てほしいと言うお願いだった。

「招待は送ります。現役の世界大会王者を呼ばないと言うわけにも参りません。プロモーションもありますが、賞金と別に・・・」
「ご心配されなくても、エントリー予定です」

 美優希はわざと言葉を遮った。
 以前、出場の問い合わせをしたのが悪かったらしい。相当心配していたようだ。プロとして、ゲームタイトルに人気がなければ辛いだけだ。母数の多さこそが発展を望むに必要な事であるのは分かっている。
 また、女性にとって最も悩ましい事柄が妊娠だ。出産の前後約二週間は入院し、直前直後も思ったように動けるわけではない。
 開幕リーグは十四週連続の週末の休日に行う。無条件で二日分、十試合、最悪は四日二十試合分のポイントを落とすことになり、それで済むならまだましだ。
 八月から十月の本戦も大会日程は一週間となるので、重なれば出場もできないと言う事になる。
 しかも、予定通りに事が進むとは限らない。大会ストレス、その他のストレス、体質から早産、最悪は死産すらありうる世界である。
 だから、美優希は問い合わせをしたのである。ただのプロ選手だと思うなよ、と、MBA以外に真意はここにあった。

「ですが、再来年以降は確約できません。婚約者もおりますし、結婚や子供の事もありますから」
「そう言った理由ならそちらを是非とも優先されてください」
「ありがとうございます」

 言質は取った。そもそも、声をかけて来なければ美優希から話をするつもりでいた。美優希はボイスレコーダーを止めて、クリステルと一緒に輝と野々華の下へ戻り、二人に声を掛ける。

「キャラコン(キャラクターコントロールの略)はどう?」
「今までできてたことは一通りできるよ。あ、でも、タップストレイフ(空中での方向転換)は完全に削除されてる」
「合わせてパッド(ゲームパッドの略)のエイムアシストも完全に消えてるね」
「ちょっと荒れるかもね」

 キーボード・マウスとゲームパッドの操作系統の違いはかなり重篤である。
 ボタンの数はキーボードが圧倒的に多く、ゲームパッドでは難しい一発操作ができる。これに関しては、設定をゲームパッドに寄せる事で簡単に解決する。
 キャラ操作も、ゲームパッドのスティック操作のアナログ入力に閾値を設けて、動く動かないの二択にしてしまえばそれでいい。何なら十字キー(POVキー、またはハットスイッチ)を使えばいいだけの事だ。
 大きな問題はエイムにかかる、マウスとゲームパッドのスティックでは、そのピックアップに大きな乖離があることだ。
 マウスの動きがそのままエイムになるのに対し、スティックは倒した量がエイムの速さとなる。どちらもアナログであるからこそ、これが問題になる。
 マウスの可動域は限られているが、スティックは倒し続ければ動き続けられる。求めるエイムの速さをマウスはすぐに引き出せるが、スティックはその入力値になるまでのタイムラグがあり、マウスの速さを超えられない。現状はこの解決策がないのだ。
 だったら初めからできるようにするな、と言うのは最もだ。
 マルチプラットフォームを目指して作られたゲーム、売れなければどうしようもないので、販路拡大の為、その操作系統が持つ弱点を補完する形でリリースされた。
 エイムアシストを入れて、タイムラグの問題を消したのだが、特定条件下でエイムアシストによって居場所が分かると言う、ウォールハックの問題もある。
 それぞれで同じような操作ができるように、これまで開発を進めてきて、壁を乗り越えたのだろう。
 開発曰く、閾値曲線を弧からS字に変えたとのことだが、よく分かっていない。

「コンシューマー機でやるならまだしも、プロはエイムアシスト使わずに戦えているんだから、PCでやるなら当然の話よね」

 因みに、プロ同士のタイマンで、操作系統の違いによる勝敗は五分だ。これは、今回、開発がランダムに選んだプロによって、合計百戦ほどこなして出した結果である。
 テストプレイは恙無く進み、お土産を携えて帰国した。
 プロの口からタップストレイフとエイムアシストが完全消去されたことが拡散し、荒れはした。
 しかし、それらありきで練習するのが悪い、と全プロに窘められ、プロ同士のタイマン百戦の動画が拡散されて黙ったのだった。
 IPEXではそんなことが起こっていたのだが、美優希は割とそれどころではなかった。
 優里が正式にジャストライフゲーミングの世界制覇、美優希の事を言及し、テレビ業界が我先にと美優希に取材を申し込んできた。
 編集の手が入る事を嫌った一義によって、生放送以外の出演を会社として禁止、美優希も優里が一緒でないと頑なに出演を断った。

「ごめんね、お母さん」
「いいのよ。テレビ慣れなんてしない方がいいわ。あなたなら大丈夫だろうけど、私のようにならないようにね」
「うん」

 東京都内を行ったり来たり、忙しくて練習時間が減った事を気にかけて、年始以降の取材は軒並み断った。そもそも、一月から二月は短期の語学留学の予定だったのである。
 逃げるように留学した先はイギリス、ビジネス英語検定のリンガスキルビジネスを本場で取るのが目的で、卒業旅行も兼ねている。なので、啓は勿論の事、輝と野々華、クリステルも一緒だ。
 留学先の大学で、イギリスの選手と鉢合わせをした。
 その髭が特徴的なShibシブ、煙幕と爆撃を駆使し、立ち回りとキャラクターコントロール、エイムも相まって彼を落とすのが至難の業だと言われて注目を浴びる選手だ。立ち位置として同じことをする野々華と、尊敬し合う選手でもある。
 もし野々華とShibが組んだら、IPEX界隈ではシンプルに強い、と恐れられている。

「は?二十二?」
「えっと、たぶん、髭の所為でそうは見えないよ?」
「マジ?」
「うん。だいぶ老けて見える」

 Shibは落ち込んでしまうが、結局剃らなかった。
 これをきっかけに、美優希たちの歓迎パーティーや練習会を行い、コラボ配信をする等、充実した毎日を過ごした。
 リンガスキルビジネスに置いて、クリステルと野々華は最高のC1判定を、美優希は次点のB2、輝と啓はB1判定をもらって帰国、最も充実した留学となった。
 卒業式もそうなのだが、それよりも美優希たちを悩ませたのが引っ越しだった。特に、洋二郎の司法修習が地方になってしまい、クリステルとは遠距離恋愛になり、準備は一人で行う必要がある。
 しかし、問題はそのことではない。寧ろ、練習時間を圧迫している事だ。開幕リーグが迫っているので、どうしても焦ってしまう事だ。
 引っ越し先は、クリステルは実家に帰り、野々華は拓哉のマンションへ、輝と美優希は社宅最上階の役員向けへ引っ越す事は、だいぶ前から決まっていたので、それは助かっている。
 その為、一度帰ってきた美優希と輝に、内見もかねて一義は部屋の説明をする。勿論そこには彼氏もいる。

「ねぇ、うちの同じくらい広くない?」
「ガレージを抜けばほぼ同じだったはずだ。503号室は501号室のミラーで、八畳間三つに、四畳のサービスルームが三つ、三畳のお風呂、約十八畳のLDKだ」
「サービスルームって何ですか?」

 聞いてきたのは信也だ。信也は建築関係のデザインも勉強していたが、かじっただけなので知らない単語だ。

「503号室で言えば、ウォークインクローゼットとランドリールーム、書斎だな。寝室とかの要件を満たせないが、収納には大きい部屋の総称だ。書斎は主寝室を経由しないとアクセス不可だから、仕事、お前たちだと配信は集中してやれる。西日がきついのは欠点だな」
「地味に欠点だけど、明るいからいいかな。なんだ、二重窓じゃん。カーテンでどうにかなるね」

 日差しさえ遮れば、二重窓は普通の窓より外の影響を受けづらくなる。

「あ、ウォークインクローゼットってランドリールームと繋がってるんだ。社宅を参考に家を建てたってこういう事なんだね。あれ?書斎は?」
「パソコン部屋が書斎だよ。近くで遊んでくれてた方が安心だからな。」
「あー、確かに分かるかも」

 美春の相手を良くしていたので、その点はよくわかるようだ。
 一行は隣の部屋に移動する。

「502は去年退職した小林元専務が住んでいたから、少し特殊だ」
「四畳半の和室とプレイルーム?」
「小林元専務の奥さんはピアニストで、息子さんはバイオリニスト、娘さんはマリンバを主にする打楽器奏者だ。で、その奥さんはとある老舗旅館の次女で、和室が忘れられないらしくな」

 その小林元専務は奥さんの実家近くに家を建ててセカンドライフを満喫している。

「じゃぁ、プレイルームは楽器の練習用なんだね」
「ああ。だから特殊防音加工になってるし、そもそも、このマンション自体、防音性能高いから、プレイルームを書斎にしていいかもな」
「和室ってなんで少し上がってるんですか?」
「和室の真ん中の畳を外してみな」

 啓と信也が半畳の畳を外すと、そこには厚い布張りの堀が現れる。

「和室の押し入れに九十九十の、天板が別になってるローデスクが入ってる」
「掘りごたつかぁ、いいなぁ」
「セットして座って見ていいですか?」
「いいよ」

 実際に座った四人は、テンションがすっかり上がっている。

「炬燵どうしようとか言ってたけど、これがいいな。座椅子あれば完璧だし、リビングは普通のソファでいいじゃん」
「確かに、これは悩むなぁ」
「畳をはがせば床下収納になってるが、定期的に畳を新しくないといけないから、それは欠点だな」
「そうか、そんな欠点もあるのか」
「ふふ、悩め悩め」

 下手すると一生住むことになるかもしれない部屋だ。家を建てるのと同様、悔いのないようにしたいものである。
 で、502号室に輝が、503号室には美優希が住むことになった。

「普通に豪華な平屋じゃない・・・」

 引っ越しの日、輝の母、涼子が手伝いに来てドン引きしている。

「そうなの?」
「分譲マンションなら下手すると一億はくだらないわよ?家賃いくらなの?」
「十万」
「安い・・・社員価格よね?」
「うん。外部なら二十万以上は取るって言ったかな?」
「まぁ、そうよね。じゃぁ、最初から損するつもりでこの社宅は立ててたのね」

 一義から言わせれば、頑張ってくれたお礼と投資なのだ。
 それこそ、再婚せずに美優希成長して家を出たら、大家として自分が住むつもりの部屋が一階にあり、一時期は503号室をオーナーズルームとして使う気もあった。今では、一階の部屋は管理人が住む部屋となっているが。

「高い投資だこと・・・」
「でも、社員さんは助かってるんでしょ?」
「それは間違いないわね」

 で、翌日に改めて一義は涼子にお礼を言われたのだが、一義は何を言っているんだとばかりの顔で困り果てていた。


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