私プロゲーマーに成ります!~FPS女子の軌跡~

紫隈嘉威(Σ・Χ)

文字の大きさ
72 / 76
四章

引退したと言う事

しおりを挟む


 『【IPEX】検証、IGL(インゲームリーダー:司令塔)を欠くとどうなるのか【軽い言語縛りあり】』と、ほぼ美優希が提案したままで配信、もう梨々華は関係ないので仕方がないだろう。
 しかも、土曜の昼間から配信を始めており、長時間企画にする気満々である。
 二人の配信を家族で眺め、二戦目も終わろうとする頃に、雄太の発言に驚かされた。

「ママ?」
「なーに?」
「くみちゃんのママと、まやのちゃんとさやのちゃんのママって、こんなにへただった?」

 単純に、動きが噛み合ってないだけなのだが、三歳半の子がこれを感じ取っている、と言うのが驚きである。

「下手になったんじゃないんだよ?」
「そうなの?」
「そうだよ。ママがいないから実力が発揮できなくなってるの」
「ママがいないとダメなの?」
「ママじゃなくてもね、ある程度指示を出せる人がいれば、二人ならすんなり勝てるはず。でも大丈夫、次から変わるよ」

 首を傾げた雄太は、美優希に『ほら』と言われて、画面を見つめた。
 三戦目の初め、輝は自信が持つ天才性を遺憾無く発揮した。
 まるで美優希かクリステルでも乗り移ったのかのように、的確な指示を飛ばし、蹂躙が開始された。野々華にしても経験だけは豊富なのだ。それを言葉にするだけ。
 三戦目が輝の指示によってチャンピオンを取ると、四戦目は野々華の指示によってチャンピオンを取った。
 まさしく蹂躙、ワンサイドゲーム、一歩後ろから見ていた輝と一歩前から体感していた野々華、指示の内容は美優希から言わせれば、まだつたない。クリステルとて同意見だろう。
 その拙さがなくなるのが早いのが輝、感覚だけで出しているのが丸分かりだが、二人はもうプロではないので、そこを考える必要はどこにもない。

「ほら、強かったでしょ?」
「すごーい」

 無論、チャンピオンを取れなかった試合もあった。それが、IGLとしての経験のなさからくる、感覚的指示と拙さである。
 二人が出した結論はIGL、と言うより、本気でやるなら美優希は必要、だった。
 互いに、指示は的確だった。
 しかし、判断が遅い。技術で圧倒できるが、ワンテンポの差が片方のデスを招いて苦しくなり、必然的にフォーカスされて負けてしまうのである。
 そして、美優希が、IGLが見ている世界と、自分たちが見ている世界に大きな乖離がある。
 IGLは、もしかすると技術的に下かもしれない。
 しかし、タイマンをした時、IGLに勝てない可能性が高い。それを今から証明しようと。

「マジで言ってんの」
「美優希、頑張れ」
「まぁ、いいわ」

 ほどなく、輝から連絡が入り、美優希は音声のみで参加、IGLとしての真骨頂を見せてやろう、と豪語した。
 何気にチームメイト同士のタイマンは初めてだ。理由は、一義から禁止されていたからで、数字としても体感としても序列が生まれやすく、不和を生みやすいからである。
 結果から言うと、美優希が勝った。
 野々華は得意のキャラコンを封じられて負け、輝のエイムが輝く前、すべて美優希に先打ちされて負けたのである。
 何度やっても結果は同じかと言うと、そうではない。
 まれに輝と野々華が勝てる場面が出てくるが、戦績で言えば美優希が勝利を七割掻っ攫ったのである。

「元インゲームリーダーから言わせると、十年以上一緒に戦ってるんだから、当然、癖も知ってるわけ、引退して一年も時間たってないんだから、勝てない方がおかしい。さて、この話はおしまい。リターンマッチ待ってるから、やる時は事前に声かけてねー。ばいばーい」

 通話を切って特大級の溜息を付き、はしゃぐ雄太を抱っこしてあげる。

「ママつよーい、さいきょー」
「ふふん、ありがとゆうたー」

 頬刷りしてあげるとキャッキャと喜ぶ雄太、啓にも頭を撫でられてご満悦である。
 視聴を止めて、美優希は夕食の準備をし、啓と雄太はテラスに設置したブランコで遊んでいる。

「やっぱさ、プロってすごいよね」
「そうね」

 土日、夕食を作る時間になると、必ず美春がやって来て、お手伝いをするか、雄太の遊び相手になってくれる。

「あなたもそう言われるように頑張りなさい」
「うん」
「でも、頑張り続ける必要はないからね。辛いときはちゃんと休養を取る事、それで壊れてしまったら元の子もないから」
「うん」

 嬉しそうに頷く美春、そんな美春の頭を撫でて、夕食の準備を続けた。
 夕食、食べる時になると美春は実家に帰り、美春は実家で夕食を食べる。以前は歩きだと少し億劫になる距離だったが、車がギリギリ擦れ違える程度の道路を挟んでいるだけなので、普通に帰ってしまう。
 夕食後は配信の為に出社するので、荷物の為に帰るのなら、夕食は別にするようになったのである。
 寂しくはあるが、順調に姉離れしているので、美優希は我慢している。
 夕食後、雄太と一緒に配信、最近のモーションキャプチャは当時では考えられない程進んだ。
 一人当たりに一つのウェブカメラが必要ではあるが、画角から外れなければ、指先まで正確にキャプチャしてくれる。
 このおかげで、雄太を抱っこして配信する事ができる。妊娠中なのでは抱っこではなく隣に座っているだけだが。
 それこそ、今でも偶にやるのだが、最初の方の配信は、雄太がモーションキャプチャで遊ぶ様子をよく配信していた。
 そんな美優希の配信は、まず初めに、今日公開された会社の記事を読む。それが終わると雑談なり、ゲームなりとなる。
 雄太がいる時は、素材制作部が発刊している電子絵本を読んだり、英語等の勉強を教えたり、知育ゲームをしたりする。著作権に関しては、自社の物しか使用しておらず、美優希をCBO、最高ブランド責任者に指名して利用を許可している。そう言う意味では、輝と野々華にとって、美優希は二人目の上司と言う事になる。
 コラボ企画の時も雄太は隣に居たりする。と言うのも、コラボ相手は女性が多く、雄太の人気は何も視聴者だけではないのだ。
 それこそ、ヴァーチャル配信者の間では、子供の成長を見守る会が立ち上がって、美優希と同じような親となった者や、子供好きが集まって、配信企画や意見交換が行われる。
 健康の為、雄太が配信に参加できるのは二十一時まで、その頃にはうとうとしだすので、啓が連れて行ってお風呂に入れてから寝かせ、寝かせ付けると啓が配信に参加する。
 配信を行う書斎はリビングに直結していながら、寝室にも直結している。見守りカメラで雄太の様子を映しながら、二十三時前後まで配信を続けるのだ。

「雄太を抱っこできないのが寂しい・・・」
「そのおなかじゃぁ、なぁ」

 現在四月で、予定日七月では仕方がない。

「あとさ、来月からの開幕リーグでなくていいんだなぁって考えると、すっごい虚無感あるんだよね」
「もしかして、練習もなくて落ち着かないからほぼ毎日配信してる感じ?」
「たぶんそうだと思う・・・私ってこんな未練がましい女だったの・・・」
「いやいや、当たり前だったのが突然なくなったからそうなるんだよ。未練がましいのではなく、ルーティーンとして落ち着かなくなってるんじゃない?」
「そうなのかなあ」

 コメント欄の意見も割れてしまっている。

「マネジメント業務が終了した時さ、すっぱり仕事辞めたけど、落ち着かないんだよなぁ。美優希のスケジュールどうなってるか、俺から聞くじゃん?一般的にはこれが正常だけど、引退するまで俺が管理してたわけだから、今までと逆なわけよ」
「あー、今はクリスがやってくれてるね」
「美優希の秘書だからね。それでさ、自分でも気持ち悪いけどさ、美優希これ見て」
「ん・・・うっわ」

 配信には映してないが、啓が見せたのは表計算ソフト、そこには美優希のスケジュールが書かれている。

「聞いた分はこうやってつけてるのよ。現役時代はほんとしんどかったけど、俺としては配信をすっぱり止めなくて良かったかなぁ、って思ってるぐらい」
「なるほどねー」
「それに、止めてたら、今頃ストレスヤバかったんじゃない?未練だろうが何だろうが」
「続けてこれだから、それは間違いないなぁ。案外天職なのかもね」

 『じゃぁ、収益化しないとね』などと飛び交っているが、美優希はしないの一点張りである。

「ねぇ、啓?」
「ん?」
「管理まで行かなくていいけど、スケジュール記録続けてくんない?」
「なんでまた」
「ん・・・なんか、ね。あった方がいいと思ってるのよね。クリスを信用してないんじゃなくて、体調管理に必要かなぁって」

 啓は首を傾げた。

「二人目がお腹の中にいるのもあるけど、さ、ほら」

 美優希はカメラの画角外で、親指を人差し指と中指の間に通すように拳を作って、啓に合図をして見せた。

「あー、俺は良いけど?求められて悪い気はしないし」
「負担になってない?」
「別に?寧ろさ、一人でやるくらいなら呼んでくださいって感じ。それに、負担になってないか、は俺が聞きたいぐらいなんだが?」
「全然、毎日でも・・・毎日がいいくらい。雄太がいるからそうはいかないけど」
「それはな」

 何の話をしているのか、コメント欄がクエスチョンマークで埋め尽くされているように、一切伝わっていない。

「それ以外のストレス発散法見つけないといけないな」
「そうなんだよね。配信も楽しいんだけどさ、会社での立場あるから迂闊なこと言えなくて、結局気を使ってるし」
「カラオケは?この書斎は完全防音に近いだろ?」
「ありありのあり・・・あ、エンジョイサウンドが家庭用出してたよね」
「あったな。まだやってんのか?」

 美優希はブラウザを開いてすぐに検索を掛ける。
 エンジョイサウンドはカラオケ産業における二大巨頭の一つで、カラオケ屋に行くとほぼどちらかしかない。

「サブスクリプションのブラウザベースでやってる。登録しよ」
「DEMはサブスクリプションのPCアプリあるよ」
「そっちも登録する。URLちょうだい」

 啓がふとコメント欄を見ると、カラオケ配信の渇望する声で埋め尽くされている。

「あー、みんな知らないんだ。カラオケ配信って、著作権が放棄されているか、JSRAC未登録じゃないと、何がどうあっても、ダメなんだよ」
「そうだね。私ら配信者が使用してる楽曲とか効果音って、著作権フリー、著作権保有者許可済み、オリジナルじゃないといけないんだよ」
「一時期さ、歌ってみたとか、演奏してみた系はほぼ消えたじゃん?それに、美優希はそれなりの立場を持ってるからさ、『リクエストあったので歌います』とはいかないのよ」
「これさ、前も言ったよね。現役時代に会社からお知らせかQ&Aで公開してるから、引退したので好き勝手やりますなんてできないよ。私これでも、取締役兼副社長だからね?」

 話を逸らす為に、身分を明かし、見事にコメントは役職の話で持ち切りになった。

「あ、いい流れだし、MBAの件も話したら?」
「そうだね。MBAは再来年、アメリカに取りに行くよ。ちょうど二人目が二歳になるからさ。日本人学校もあるし、啓はこうしてるけど、英語ペラペラだから、全然任せられるし」
「俺もリンガスキルビジネスB1持ってるし、マネージャー時代は普通に英語でやり取りしてたよ。仕事辞めたのって、美優希が仕事に専念できるように、俺が家庭を守る為だから。お、やるか?」

 啓に対して『ヒモ』という揶揄が飛んだ。

「それを言えるってことは、結婚してる皆は家事を分担できてるんだよな?」
「そうそう、それに、啓って飲食店の厨房経験もあってさ、なんなら管理栄養士の資格持ってるからね?啓のお祖父さんってパティシエで、両親は飲食店経営者だし。私が家事するのって休みの日の食事と、子供のおやつ作るぐらいだから、趣味みたいなもん。ってか趣味」
「で、家事全部が俺の仕事なわけ。子育ては分担だけど、家政婦雇ってないし、ルームツアーやったから広さは知ってるでしょ?掃除ロボット入れてるけど、結構大変なんだからな?」
「家政婦雇うぐらいなら啓にやってもらう感じよね。住み込みで働いてもらうなら、三十万じゃ効かないし。あと、啓は本出したし、まだ出す予定あるからね?舐めてかかったらだめだよ?」

 題名は『アスリートの夫』で、エッセイではあるが、だいぶ硬い本で、素材制作部によって漫画化もしている。
 ぐうの音も出ない啓の努力に、見事にコメント欄は謝罪で埋め尽くされたのだった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...