堕天使は天使となって生きる ~若き天使の子育て論~

紫隈嘉威(Σ・Χ)

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第三章 天使と双子

二節 今後

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 セレとイムを保護してから一週間、二人の奴隷教育の産物は抜けつつあり、徐々に笑顔を見せてくれるようになっていた。
 しかし、本当の意味で懐いてくれているわけではなく、頼る人がいないから頼ってくれているような状態だ。はしゃごうにもルシフェルとラジエラの顔色を窺っているような。
 今後この二人をどうするのか、その詳細までは聞いていないので、現状を維持しないと後で大変なことになるので割り切って接している。
 息切れが早いようだが走れる程度には回復しているので、転移で天の神殿へ帰ることを考えていると来訪者があった。イネスである。
 部屋に招き入れるとイネスを見た二人が怯えたような表情になり、寝具の陰に隠れてしまった。ラジエラは二人の傍によって器用に抱き上げ寝具に座ってあやしている。
 仕方ないにせよ、イネスは二人の様子にがっかりしている。人慣れする前にあんなことになったのは理解しているが、普段との差が余りにもある為に受け入れがたいのだ。

「あの二人にかかれば、聖女様も形無しですね」
「かなりショックです」

 二人には悪いが、外でできる話を持ってきたとは思えないので、部屋の窓辺に設置してある椅子に座って話をする。

「ご存知かもしれませんが、ジーノの証言に沿って犯罪組織を丸ごと釣り上げることに成功しました。お二人を攫った実行犯と同一でした。エイナウディ共和国内での犯罪でしたので、共和国側から共和国法で裁きたいという要請が入っています」

 ルシフェル個人からすると勝手にしてくれて構わないのだが、種族としてはそうもいかない上に、普通新参者に発言権はない。

「私一人の一存で決めることはできませんね。私は二人を保護することを依頼されてここにいますが、犯人を捕まえろとも裁けとも言われてはいません」
「どういたしましょうか?」

 聞かれても答えは一つしかないのだが、確認だろう。

「しばらくは投獄しておいてください。天族で何か決定があれば、私でなくとも誰かが伝えるでしょう」
「かしこまりました。それから、エイナウディ共和国のプレスティ大統領から、面会要望が教会経由で来ています。今回の件に関する謝罪と共和国の対応を直接お伝えしたいとのことです」

 それに意味があるのは共和国側だけであって、天族には何の利点もない。

「待たせることは可能ですか?」
「もちろんです。すぐが無理であるならば、指定していただいた日時を何が何でも空けておくとのことですから」
「ではそのように伝えてください。ああ、謝罪する相手を間違えるな、とも伝えておいてください」

 今回の件、被害者はセレとイムの二人であって、それ以上でもそれ以下でもない。親である大精霊の二人は二次被害者だ。
 共和国の管理問題はあるものの、防げていたはずのことを防げていない天族にだって問題がある。

「明日、天へ戻ろうと思っています。もし何かあれば、遠慮なく通信魔法を使ってください」
「かしこまりました」
「さて」

 ルシフェルは二人に近づいて何かを伝えると、イネスを手招きした。近寄ってきたイネスに目線を合わせるように伝える。
 それでも怖いのかラジエラの服に顔をうずめてしまった。

「セレちゃん、イムちゃん、君たちを助けるために一番協力してくれたお姉ちゃんだよ」
「「そうなの?」」

 恐る恐る顔を見せた二人はイネスを見ようとしない。

「そうだよ。お礼、言えるよね」

 ルシフェルに向かって頷いた二人はお互いに顔を見合わせてこういった。

「「お姉ちゃん、ありがとう」」
「良くできましたね」

 イネスが二人を撫でようと手を伸ばすとビクッと身を固めたが、撫でられたことが分かるとその緊張を解いて、表情が柔らかくなった。
 それを確認したイネスは撫でるのを止めて二人の頬にやさしく手を当てた。

「もう大丈夫ですからね。必ずルシフェル様とラジエラ様が守ってくださいます。お二人が安心して過ごせるよう、私も協力は惜しみません。世には悪い大人ばかりいるわけではありませんからね」
「「うん」」
「ふふふ、いい子ですね」

 褒められ、撫でられ、少しだけ笑顔を見せてくれたのを見て、イネスは思い直した。ただ、初対面だから、聖女のこと知らないから怯えられたのだと。
 彼女が帰ると、褒められたことがうれしいのか、少しだけラジエラと楽しそうに話していたが、たったこれだけでもかなりの疲労になったようで寝てしまった。
 翌日、部屋を空ける事を女将に告げ、天の神殿へと赴いていた。
 天族しかいないので二人が怯えるようなことはなく、ルシフェルとラジエラに抱かれてきょろきょろと周り見回している。
 ここに来たのは初めてらしく、興味津々なのは子供らしい。だからと言って下ろそうとするとかなり嫌がるのだが。
 ミカエラがいると思われる部屋へ行くと、部屋の前にルムエルとルマエラがいた。ルシフェルとラジエラが屈んで目線を合わせさせると挨拶をさせる。恥ずかしいのか緊張しているのか、二人とも顔をうずめてしまったのは困った。
 挨拶が終わって部屋に入るとミカエラが立って出迎えた。

「無事保護できたのですね」
「ええ、ほら、挨拶して」
「「お、おはようございます」」
「はい、おはようございます。良くできました」

 ミカエラが二人の頭を撫でると二人は嬉しそうにしているがどこかぎこちない。それを見たミカエラの笑顔に影が差している。ここ数日の様子から、どうも大人が怖いようだが、これは仕方のないことだ。
 二人を下ろすとラジエラに二人とも預けて、外のルムエルとルマエラと遊んでくるように伝える。
 三人とすれ違うように、一人のどこかボーイッシュな女性が入ってきた。

「ミカエラ、終わったよ。んー?君は、見かけない顔だね」
「彼が件の天族ですよ」

 ミカエラにそう言われた女性は手をポンと叩いた。

「あー、じゃあ、君がルシフェル君だね、私はガブリエラ、智天使だよ。みんなからは配達人って言われてるよー」
「ガブリエラ様ですね。改めて、熾天使を拝役したルシフェルです。先ほど、セレちゃんとイムちゃんを保護して連れてきました」
「さっきの?」

 ガブリエラはミカエラを見て聞いた。

「ええ、そうです。それから、二人を連れて行ったのは智天使ラジエラ、彼の妹です」
「おお、私と同じ智天使か、落ち着いたら話してみたいな」

 そう言ってルシフェルの顔色を窺う。

「それはいいですね」
「是非ともお願いしたいですね。できれば友達になっていただければ」
「それは彼女次第かなぁ。まぁ、同じ智天使として仲良くしたいとは思っているよ」
「よろしくお願いします」

 カブリエラは今のやり取りでルシフェルの心労が見て取れた。

「こっちがよろしく、かもね。そう言えば、セレちゃんもイムちゃんも、挨拶はしてくれたんだけど、前みたいに元気ないね?あ、やっぱ人間に悪い事されてた?」
「解除してはいますが、かなり強力な隷属魔法と奴隷教育に、虐待も受けていました」
「それでかぁ。それで私の翼と輪っか見てホッとしてたのね」

 すれ違う時に挨拶をした、だけだがちゃんと見ていたようだ。

「で、二人はこれからどうするの?さっきイフリートとセルシウスの様子見てきたけど、あれだと二人を彼らのとこに行かせても、全然よくないと思うけど」
「どんな様子でしたか?」
「まだ動けるって感じだけど、ほぼかかりっきりだねぇ。何とか二人の元に行こうと余計なことしてたみたいだし、保護したことも知らないんじゃないかな?私も今知ったし」

 言葉どおりならだいぶ無理をしているようだ。

「なら、ガブリエラ、二人の所に行って保護したことを伝えてください。いつでも会わせられるのですから無理はしないようにと。その後は休んでいいですから」
「えー、残業ぉ・・・わーったよ、行ってくるよ」

 ミカエラの表情を見て許されないと悟ると、足早に部屋を出て行った。
 ガブリエラが退出して、二人はソファーに座る。

「さて、保護していただいたのはいいのですが、子供たちをどうするかは、まだ決めかねています。天で保護すると何も考えなくてもよいのですが、教育上はあまりよろしくありません。今のところ、地上の勉強の為にあなた方と行動を共にさせようと思っています。あなた方もこちらの世界については疎いでしょうから一緒に、という事ですね。イフリートもセルシウスも手が離せませんから、まともに接する時間がありません。当然教育の時間もありません」
「しばらく預かるのは構わないのですが、父親という存在を二人にどう意識付けするのかと言う問題が出てくるんですが」
「それなんですよね・・・」

 年を経るごとにこの頃の記憶は薄れていく。言葉だけで意思付けをしても、顔が分かっていなければ、「誰?」となり兼ねない。それで受け入れてくれる子がいれば、逆に会わせていても受け入れきれない子もいれば、最悪ぐれてしまう子もいる。

「おいおい、答えを出していきましょう。落ち着かないと何もできないので、しばらくは預かってください」
「かしこまりました」

 ほとんどの天族が出張ってようやく押し止めている現状、集まって話し合いができる状態ではない。上位がそれをやるとどこで綻びが起きるか分かったものではないのも大きいだろう。

「そう言えば人族はあなたに何か言ってきませんでしたか?」
「二人がいた国の幹部から、国の法律で犯人を裁きたいという要望と、謝罪と今後についての話を私としたいと言ってきています」
「犯人については勾留して何もしないように言っておいてください。ラファエルが手隙の時に判断します。謝罪と今後についての話については絶対に受けないでください。謝る相手を間違えていますし、利用されたくはありませんからね」

 この点はルシフェルと同じ考えのようだった。
 一大勢力であるアージェ教は信仰の対象に精霊も入れており、地方の町や村ほど精霊を重んじる傾向もある。精霊と協力関係を築いている魔法使いは、一人で一個中隊の戦力になるので国としても絶対に無視はしないわけだ。
 それが直系の子供となれば、国に帰属させられれば、それだけで戦力や民衆の帰属性も強固なものへとなる。
 大人として自分の判断で利用されることを良しとして帰属するのなら、天族としても特に問題にはしない。子供のころからと言うのが問題なのだ。
 精霊はその気になれば世界を滅ぼすことが可能だ。現に、二人の暴走によって精霊の里は廃村になっている。

「大変な時に限って問題を起こすのだから・・・」

 溜息ながらにミカエラのこぼした愚痴をルシフェルは聞かなかったふりをした。
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