堕天使は天使となって生きる ~若き天使の子育て論~

紫隈嘉威(Σ・Χ)

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第三章 天使と双子

四節 一先ず

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 神殿での生活は、やはり至れり尽くせりではあったが、おかげでセレとイムの二人に集中できたので良しとしよう。
 特にこれと言ってトラブルもなく、二人の人慣れは意外と早く三ヶ月ほどだった。騎士や司祭の男性に慣れるよりも、世話をしてくれる修道女たちに慣れるのに時間がかかったのは意外と言えた。
 修道女たちに自発的に笑顔で挨拶できるようになると、すぐに騎士たちを怖がらなくなり、その内挨拶ができるようなる。そして、巡礼者や礼拝者に興味を持って見るようになっていた。
 慣れに関しては修道女たちの方が腫れ物に触るような感じだったのと、騎士たちが良くお菓子で釣ろうとしていたことにも原因があるだろう。この頃と言うのは大体そう言うものなのだが。
 因みに、ルシフェルからお菓子で釣りすぎるなと、強烈な訓練内容を与えられて、騎士たちが総倒れしていた。まぁ、日に日にお菓子の量が増え、しまいには両手に抱えるほどのお菓子を、二人が二人してもらったからなのだが。
 当初は半年を見ていたのだが、思わぬことに予定を早めることにした。しつこく合わせていたので、二人に対するご褒美の意味もある。
 なぜご褒美なのかと言うと、人慣れしてきてはいるが、どうも地が人見知りのようだからだ。
 未だにルシフェルにしてもラジエラにしても、頼る人がいない、甘える人がいないから、頼るし甘えているのだ。不安や恐怖と言った感情がなければよく顔色を窺っているし、そう言う時でないとわがままを言わない。
 下手すると十年以上の付き合いになるのだ。できれば本当の親だと思ってくれないと、二人の人格形成に問題が出かねない。
 周りを排除できる、しっかりと二人が安心して接することができる場所が必要で、その方が、二人も気が楽なようなのだ。
 夜、一緒の寝具で寝るわけだが、その頃だと修道女や司祭の訪問がないので、今日はどうだったとかある程度表情豊かに話しができている。昼だと、誰かがやってくるのが分かるのか、訪問がある少し前にぴたりと自分から話をしなくなってしまうのだ。
 話の腰を折らないようにおとなしくしてくれるのは有難いのだが、それはそれで子供のあり方としては問題を感じてしまう。
 空き物件をいくつか見ることができる、という事で、二人を連れて外出することになった。
 外に出ようとすると二人とも抱っこをせがんで来たので、ルシフェルがセレを、ラジエラがイムを抱いた。大体、セレが早くにルシフェルに抱っこをせがむので、イムがラジエラに抱っこをせがみ、この組み合わせが多い。寝る時は寝具をくっつけて二人を挟むように寝るが、この時の組み合わせは逆が多い。
 最近は二人の性格の違いがはっきりとしてきており、セレは明朗闊達でイムは引っ込み思案と言ったところだ。
 抱っこをせがんだ理由はレイモンにある。

「おはようございます」
「「おはようございます」」
「今日も元気だな、よしよし」

 彼が丁寧な言い回しをしないので、高圧的に感じているのだ。それだけに、身近にも感じており、会うのが早かったのでレイモンに慣れるのは早かった。

「イネス様が物件の案内をしたがったんだが、上から待ったがかかってな、イネス様の交渉で俺が案内することになった。ルシフェル様の巫としての仕事をしたがってるんだが、市井に出すと面倒事が起きる、つってな」

 そりゃそうだ。聖国は憲章で国民総修道師を掲げているので、聖女の神聖視や人気は他国よりも高い。そんな彼女が町にいると、なまじ距離感が近いのもあって、案内どころではなくなる可能性は高い。

「そんじゃ、行くぜ」

 物件は全部、神殿から近いらしく徒歩での移動だ。紹介してもらえる物件は、所帯を持った騎士の寮として使っていたものらしい。
 町並みは石造りで整然としており、屋根は青で統一されている。
 レイモン曰く、神殿の周囲と、政治中枢の貴族院周囲は元有った通りに面する以外は規格統一されているらしい。神殿が中心で、北に貴族院、南が農業区、西が商業区、東が工業区として整理されている。貴族院には議会会議場と各省庁が入っている。
 元々、北の山の麓に神殿を立てたので、裾野が南に広がっており、このような配置になったらしい。なので、北に行くほど坂を上ることになる。
 物件へ行く間、セレもイムもレイモンを質問攻めにするほど、二人は町並みに興味津々だった。

「そうだ、今日紹介する物件は外観が全部同じだ。ただ、内装と間取りは少しずつ違ってる」

 選べるよう配慮する為に、寮は全部内装と間取りを変えているらしい。外観が同じなので限界があったらしく、大きくは変わらないようだ。
 一件目に着いた時、レイモンはそう言った。
 三件回って、昼になったので、ちょうど近くにあったテラスのある食堂で昼食を取ることにした。
 初めての外食で気分高揚の二人は、やはりはしゃぐようなことはしないが、ニッコニコでほおばっているのが何ともかわいらしい。
 間取りを図にしたものがあるらしく、食後の紅茶を嗜みつつ、レイモンに見せてもらう。
 二階建てで、屋根裏部屋があるのは共通、階段が入り口の位置で変わっている印象だ。その為、二階の間取りは階段に影響されて三部屋だったり、四部屋だったりだ。
 これ以上見て回る物件もないが、ルシフェルとしてはほぼ決まっていた。ラジエラは悩んでいるようで、このまま居続けられないので、カフェに移動した。
 カフェにつくと二人が眠くなってしまったので、ルシフェルが二人を抱きかかえる形で眠らせた。

「ここかなぁ。部屋が多い気がするけど。お兄ちゃんはどう?」

 見せられたのは三件目だ。ルシフェルが考えていたものと一致している。
 中央あたりに入り口があり、入った目の前に階段ある。一階は入り口を入って右がキッチンダイニング、左がリビング、リビングの奥にトイレとシャワールームがある。二階は四部屋構成の家である。

「俺もここだと思ってた」
「だよね」
「どこだ?」

 レイモンに間取りを渡すと、彼はこういった。

「いいんじゃねーか、神殿からそれなりに距離はあるが商業区に近いし、ここは最近改装したばかりだからな。他二つは吹き抜けで、そこから二人が落ちそうだし」
「そうなんだよねぇ」

 ラジエラはカウンターキッチンだった二件目が良かったのだが、懸念がそれだった。二人が走り回ってくれるほどはしゃぐぐらいに懐いた時が怖いのだ。こればっかりはしょうがない。
 元いた世界の家の作りがカウンターキッチンだったのが尾を引いているわけだが、如何せん似た作りの二件目、吹き抜けと階段の手すりを支える柱の間隔が広いのだ。
 二人がもし自分の子供だったらと考えると身震いがする。
 問題があるとするなら、キッチンからリビングが見えないことだ。リビングで遊ぶ二人の様子がキッチンから見えないのは痛い。借家になるので勝手に改装はできないから、やはり仕方がない。

「理想をかなえたければ自分で建てるしかないな」
「だねー」
「だな」

 一件目を全く話題にあげないのは、通りの角に当たる癖に、窓から日が入らないことが大きい。さらに吹き抜けの手すりの柱の間隔は広く、人通りの多い場所と来ている。
 それでも、カウンターキッチンと言う魅力を捨てきれないのか、間取りを眺めて悩んでいる。預かっている子供なのだ。諦めろとしか言えない。

「レイモン、魔術回路を引ける技師はいるのか?」
「腕のいい奴を知ってるが、どうした?」
「いや、二人の体調管理に必要なある器具が欲しいんだ」

 医療技術が低くなってしまったので健康のバロメーターとして分かるものがないと、管理がしてあげられない。

「なんだそりゃ?」
「体重計、体の重さが分かるものだ。職人に頼んだ方が当然いんだが、身長を図るのは俺でも作れるぐらい簡単だ。が、体重はそうはいかない。天秤に乗せる訳にもいかないからな」

 身長は立っている面から頭の天辺まで垂直にどれくらいあるか、と言う話なので、地面に対して垂直の柱に立たせれば分かる。
 体重は比べる物あれば分かるのだが、比べる物重さが分かっていないといけない。これが一番簡単だが、実際は服につかまるなどで正確には分からない。実際にぐったりしている時の方が重かったりする。
 天秤を使っても、かなり大きな物でないと不安定で時間もかかるので、二人がそこにいるのを嫌がってしまう。

「あー・・・計って何になるんだ?」

 これはもっともな質問で、医療技術の低さが分かる質問でもある。回復魔法があってないような世界だが、前時代なので結局相応なわけだ。
 ルシフェルが元いた世界では、回復魔法はなくとも、医療魔法は存在していた。ミカエラやイネスが話す限りでは、医療魔法は存在せず、完治まで七日かかる怪我が六日で済むものならあり、即効性は皆無だ。
 さらに、病気を治すにも、薬を使って効いたから使っているだけなので、実際には効かずに死んだのか、副作用で死んだのかはっきりしていない。回復魔法をかけ続けると衰弱して死んでしまう。
 医療魔法も外科方面は発展しているが、内科方面は全くダメなのだ。かと言って、なくなったものが再生されるのではなく、くっつけるだけで、時間がたてばくっつきもしない。麻酔を魔法で代用できるので、戦場ではだいぶ重宝している。が、理論、体組織と組成、経験がないと危ないだけで、習得は限られた者だけだ。

「成長の観察だな。大体十三ぐらいまでは、少し見ない間に大きくなってたりするだろ?それが正常なのかどうか、だな。貧民街の子供と貴族の子供、同じ年でも全然違うだろ?」
「なるほど、健康の指標になるわけだ。でも、それだったら、魔術回路を使わなくても、酪農組合が出荷で使ってるを使えば済むぜ?」
「なんだ、あるのか」

 ルシフェルは単純にないだろうと思っていた。

「あるぜって、そうか、そう言えばそう言うの疎かったんだよな」
「持ってきてもいいが、それだとな」

 天族所有の物を言っている。技術の差があるのは周知されているが、盗まれるなどして流出すると、それによって革命が起こってしまう。
 彼が元から所有しているものは、すべてスリの対策が施されており、万が一盗まれて、リバースエンジニアリングされそうになると爆発する仕様だ。彼が装備のすべてを魔動型に変えた、変えさせられた最大の理由がこれだ。通常の電動型では爆発する仕様にできない。
 汎用携帯端末とは言っているが、一般使用もできるというだけで、彼専用の軍用品だ。違いは爆発の規模が桁違いに大きく、端末を中心とした半径三百メートルにクレーターを作る程。だから野暮ったい、分厚い作りになっている面もある。

「間違いなく二人経由で外に漏れるな。分かった、工業区の知り合いに一台融通してもらえないか聞いとくわ。工業区で作ってるだろうしな」
「頼む」
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