堕天使は天使となって生きる ~若き天使の子育て論~

紫隈嘉威(Σ・Χ)

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第十章 産休

第二節 お勉強~魔法編~

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 ルシフェルは自身の執務室にて、双子が対面になるよう座らせて魔法について教えていた。
 いくつかの魔法を使えているのだが、感覚的に使えているだけなので、理論を教えて習熟を早める意図がある。

「まずは、魔法ってどうやって起こすんだっけ?」
「「魔力で魔素を励起させて現象に変換する」」
「よくできました」

 魔法の基本と言うより、魔法の定義である。説明を求められたときに困るだけの話なので、この定義自体は覚えさせる必要はない。

「それじゃ、まずは魔素について」

 世界には魔素と言う粒子が満ちており、これ自体は無色、無味、無臭の三拍子がそろった上で、目で見えるほど大きくはないので知覚することはできない。
 しかし、魔力を放出して影響を受けると励起状態になり、魔覚神経を通して知覚できるようになる。
 無論ただ放出しただけでは、魔素は励起状態にならない。体の中にある魔力袋と言う臓器に魔力がたまると自然放出を行うのだが、それで励起していては暴走するだけである。
 魔素が励起状態になる条件は、一定量を瞬間的に放出することである。因みに、ルシフェルの凄まじい回復量でも、必要な瞬間放出量には届かない。
 疑似励起状態にある魔素は、必要な瞬間放出量からわずかに少ない放出量を断続的に行うことで作り出すことができる。
 これは、完全に励起するまではすぐに元の安定的な状態に戻るからである。完全に励起すると、元に戻るまでかなりの時間を要する。

「ここまでは良い?」
「「うん」」
「じゃあ、次」

 魔素が励起状態になったことで知覚できるようになると、励起状態の魔素に対して強弱をつけて魔力を供給する。この強弱の付け方によって、魔素は触媒として働き、魔力を熱エネルギーや引力エネルギーに変換する。
 魔力の供給の仕方が、魔法を起こす重要な要素なのである。

「じゃあ、魔力制御が上手になればいろんな魔法が使えるってこと?」
「そうだよ」

 イムの言う通りで、制御が上手い程、一つの魔法でバリエーションが出で、つられて制御方法のアイディアが出るので教えてもらうまでもなく使える魔法が増えて行く。
 魔力制御がずさんだと、現象が起こらなければそれでいいが、過供給状態になって暴走を始め、手が付けられないことになる。

「だからいっぱい練習させたんだ。もっと上手になれば、色んな事が魔法でできるようなるからね。例えば、こう」
「「キャ」」

 双子の髪だけが動くように微風を起こすと、咄嗟に髪を押さえる。すぐに髪以外に風が当たっていないことに気付いて目を輝かせた。

「最終的には身動ぎひとつしなくても、思いどおりに魔法が発動できるようになってもらうからね?」
「「はーい」」
「次は励起魔素の制御を奪う方法」

 個々人の魔力が持つ独特の波長によって、励起状態になった魔素の制御権は励起状態にした人にある。
 制御権を奪う方法は、励起状態にした人の魔力波長を真似ることで可能となる。その為、励起状態にした人の波長を予め知っておく必要がある。
 疑似励起による魔法封じも同じ理由で看破が可能だ。

「どうやってその人の波長を知ればいいの?」
「それは解析魔法で可能だよ」
「解析魔法?」

 解析魔法は魔素を励起させた状態で魔素自体をぶつけ、その際にどのような変化を起こしたのか知覚する必要がある。
 これによって、その人の魔力波長、感情、体温、病気等を知ることができる。
 病気に関しては励起魔素がどのように変化するか知っていなければ特定することはできない。
 物によっては会得している技能も分かるのだが、これも知ってないと分からない。
 また、似たような反応を起こすこともあるので、膨大な知識と、知識を生かして読み取る技術が必要なのである。
 魔力波長は少し練習すると分かるようになる。なので、

「今度、魔力波長を読み取る練習とマネする練習をしようね」
「「うん」」
「じゃ、魔法の詠唱ね」

 正しい魔法の詠唱は、『使用者、格、種類、対象者、発動条件、効果』である。魔法によって様々に変化する。
 最も、詠唱自体に重要性はなく、必要がない。理由は唱えただけで魔法が発動しないからに他ならない。
 しかし、戦術と言う面では意外と重要で、仲間に対する使用報告、敵に対するブラフとしては有効なのである。
 魔素が励起した程度では、使われることが分かっても、それが何の魔法なのかまでは分からないからだ。

「仲間に報告したら敵にわかっちゃうよ?」
「わざと間違えることを仲間に言っておかないといけないよ?」

 双子の言うことは最もな話である。

「わざと間違えるのは、仲間がいる時は無理だね。だけど、使う魔法を分からせることで、敵からその対策を引き出すことができるよね」
「「うん」」

 よく分かっていないのか返事が暗い。分からない事に対する相槌はいつもこうだ。教える方は分かりやすくて助かる。

「魔法に対する対策をしないといけないってなったら、その分隙が生まれるんだ。その隙を仲間が突けるようになるよね?」
「「うん!」」
「だから、無駄じゃないんだよ」

 戦術の基本は相手のミスをどれだけ誘い、どれだけ自分がミスをしないのか、なのである。
 単純処理よりも並行処理の方がミスを生みやすい。だからこそ詠唱は有効になる場面があるのだ。

「わざと間違えるということは、詠唱とは別の制御をやるってことだから、これ自体は高等技術なんだ。できたところで、一人で戦う場面じゃないと使えないから、今はできなくても大丈夫だよ」
「「はーい」」

 更に高等テクニックとして、双子に魔素を励起してもらって、その制御をルシフェルが行うことで魔法を次々と繰り出す方法である。
 高等テクニックである理由は、それだけ息が合ってないといけないからだ。
 無論、ルシフェルではなくイネスが制御できれば、団としての攻撃力は高くなる。
 団の中では群を抜いて低い魔力量なので、励起する為の魔力が要らないと言うのはかなり大きな節約になる。
 練習しているとは言え、双子の制御技術はまだまだ未熟で、イネスの制御技術の方が高いのである。実はすでに双子とイネスは連携の練習をやっている。

「お兄ちゃん」
「ん?」
「技能と魔法ってどう違うの?」

 頷きあったと思ったら、そう聞いてきた。

「間違えることなく発動できて、余計な魔力を消費しない技術のことだよ」

 技能には先天性と後天性がある。
 先天性はルシフェルの持つ『天族隠蔽』や『威光の目』がこれに当たり、生まれた時から持っている技のことである。
 後天性は様々な技を習熟していって、体が覚えた状態のことである。
 例えば、ラジエラは『裁縫』と言う技能をこちらに来て最近覚えた。機械顔負けの速さと正確さで縫物を行える技能である。最近は刺繍に凝っており、その内技能となる可能性がある。
 ミカエラの持つ『解析』と言う技能は解析魔法とは原理が違い、彼女の場合は相手の状態を知覚する方法を持っている先天性技能だ。
 アルマエラの持つ『解析』は解析魔法を習熟し、魔力消費を極限まで抑えられるようになった、魔法ベースの後天性技能である。

「余計な魔力を消費しなくなって、間違えなくなったら技能になるよ」
「使い続ければ技能になるの?」
「ううん、高度な制御技術と言っても、魔法によって制御方法は違うからね。ただ使い続ければいいっていう問題じゃないよ」

 そう言うと二人とも肩を落とした。

「後でマリに聞いてみて、服を作ってる時に早さとか正確さとか考えてた?って」
「「聞いてみるー」」

 そのラジエラだが、今は意中の人の所に行っているので近くにはいない。

「それじゃ、制御訓練やろっか」
「「はーい」」

 天の資源はどれも貴重、できる訓練も限られるので、小石を浮かせて誘導する魔法で行う。
 神殿の裏手にある天庭てんていに出ると適当な小石を拾って双子に渡す。

「まずはゆっくり、自分の周りを回転させるイメージね。こういう風に」

 そう言って、シュベメンツゲビヤーと言う戦闘用装備を展開して見せる。
 シュベメンツゲビヤーは拳銃から持ち手を無くして羽を付けたような形をしており、着弾時に爆発を起こす弾を発射する装置である。また、魔力で動作する魔動型で、使用者の周囲を、円を描くように飛びまわるサブウエポンだ。
 発射時に使用者の正面へ回り込み、使用者の目線から、八十ヤーツ(約六十メートル)付近が焦点になるように銃口が向くよう設計されている。
 精度がよくないので単発発射など考えられない武器であるが、発射時に相応の魔力を流すだけで残りは自動制御なので、牽制の為に用いられることが多い。
 二十ゼンヤーツ(約十五センチメートル)程の大きさの物が、右袈裟方向に八個、左袈裟方向に八個飛び回る姿を見た双子は目を見開いて驚いている。
 弾が入っていないので発射されはしないが、発射しようとするとルシフェルの正面に回り込んで撃鉄が空振りする音が鳴った。
 食いつきがいいのはやはりセレである。

「何に使うの?」
「本当だったら、当たったら爆発する弾を勢いよく発射する武器だよ」

 武器部分に興味がないイムは、どのように飛び待っているか観察している。

「爆発ってどれくらい?」
「んー、じゃぁ、一発撃ってみようか」

 そう言って飛び回っている一つを捕まえると弾を込める。
 弾は、内部にあるリボルバーのシリンダーのような物を取り出してそこに込める。シリンダーには計六発の弾が入るようになっている。
 弾を込めたシュベメンツゲビヤーに音響結界を張って飛び回らせる。こうしないと発砲音に双子が驚いてしまうからだ。
 主要用途が牽制なので、音響魔法が組み込まれていない。
 着弾しないと爆発しないので手ごろな石を魔法で浮かせて、誘導魔法を使ってから発射した。
 石に当たるとボンと言う耳をふさぐほど大きくはない爆発音を立てて石は砕けた。

「あんまり大きな爆発じゃないんだね」

 セレは残念そうにしているが、普通は飛翔速度の影響で、生物なら体に入ってから爆発するのでただでは済まない。

「手に当たったら手はなくなるよ?」
「え!」

 口を開けて驚くセレは自分の手をまじまじと眺めている。

「強そうに見えないけど、基本的には中に入り込んだ後の爆発だからね。足なら歩けなくなるし、体と頭なら間違いなく死ぬよ」

 普通の銃弾よりも内部組織を破壊するが、ダムダム弾ように長期的な苦しみを与えないので、殺傷力の高さから禁止はされていない。

「使えなくなった時が困るから、しばらくは使わないけどね」
「奥の手?」
「そう、切り札ね」

 頭を撫でてあげるとセレは笑顔になった。
 ルシフェルの指導の下、双子の制御訓練は夕飯まで続いた。
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