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第十四章 精霊
三節 精霊と眷属③
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「「わー、かわいいー」」
ボーデンハーゼの群れに囲まれて、もふもふを堪能する双子だったのだが、一体何匹いるのか分からない程の数に埋まってしまい、ルシフェルとガブリエラによって助け出された。
「「ううー」」
まんざらでもなかったようで、ルシフェルに講義をする双子だが、あのままでは生き埋めになっており、その内、多数のボーデンハーゼによって潰されていたので、我慢してもらうほかない。
ボーデンハーゼは土兎で、体躯はさほど大きくなく、大きな個体でも体長は七十ゼンヤーツ(約五十センチメートル)を超えていない。丸いしっぽに長い耳、灰色もしくは茶色の毛をしているが、その姿は野兎と言うより飼い兎と言った方がよい。
その中でも異質なのが、雪兎ではないかと見まがうような純白の毛と、額には直径二センチにもなるほぼ無色の金剛石(ダイヤモンド)の花が咲いている兎だ。金剛石特有の屈折率により、きらきらと、時には虹色に見えるよう輝いている。
カーバンクルである。
この一匹だけ動きがおかしかった。色合いで注目させられてはいたが、それでもどこか変だった。
他にもカーバンクルがいるようで、赤い体毛に紅玉(ルビー)、青い体毛に青玉(サファイヤ)、緑色の体毛に翠玉(エメラルド)、橙の体毛に黄玉(トパーズ)、そして紫の体毛に紫水晶(アメジスト)が一匹ずつ集まってきた。
で、彼らカーバンクルが何をしたのかと言うと、まだ群がろうとするボーデンハーゼたちに飛び蹴りを食らわせて、文字通り蹴散らしてしまった。
さすがの双子も呆然としてしまった。
「こりゃこりゃ、暴力はいかんぞ」
のっそり現れてそんなことを言ったのはノームである。
「ほっほっほ、なるほどのう。ルシフェル様の判断は正しいですぞ」
「「ええー」」
白いカーバンクルから何か聞いたのか、ノームがそう言うと、双子は抗議した。
「ボーデンハーゼは岩盤をも掘り抜ける硬く鋭い歯と爪を持っておるからの。油断しておると血だらけではすまんぞ?」
サーっと双子とイネス、ラジエラの血の気が引いて行った。
おおよそ、色玉石の山でするような顔色ではない。
ノームが住処する色玉石の山は、大量の良質な宝石を産出可能な山で、元は巨大な火山だったカルデラである。今の火山活動は完全に収束し、ノーム曰く、向こう数万年は活動しない可能性が高いらしい。
産出されるのは宝石だけでなく、金や白金、銀、鉄、銅、チタン、クロムと言った鉱石類も豊富に産出される。
「まんざらでもなかったようだがの?あ奴らは数と爪と歯で外敵を蹴散らす。この山一帯はボーデンハーゼの縄張りで、ここ数百年はどんな獣魔でも人族でも侵略を受け取らん。と言えば、強さが分かるかの?」
「「つよい!」」
「ほっほっほ」
立派なあごひげをくしけずりながら得意げに笑うノームは、ボーデンハーゼたちを散らしてしまった。
残ったのはカーバンクルたちである。
「額のは石?」
「額のは本物?」
「そうじゃ。ボーデンハーゼの中でも徹底的な偏食をする者がやがてカーバンクルとなるのじゃ。つまり、本物の宝石を砕いて取り込んだ結果が、この姿と言うわけじゃ」
「「へー」」
そこまで偏食すると普通は死ぬだが、カーバンクルはそれを超越した存在である。
「「え、じゃあ」」
「そうじゃ、カーバンクルたちは強いぞ?それにじゃ、額の宝石にはとんでもない量の魔力が溜まっておるから、いかなわしでもこの数を相手にするのは骨が折れるぞい」
下級天使だと簡単に数で負けてしまう。ここには六種六匹だけしかいないが、あと数種類のカーバンクルがいる。
双子はすっと目線をルシフェルに向けた。
「俺の敵じゃないな」
「ほっほっほ、熾天使様では相手にならんよ。特にルシフェル様は戦闘経験が豊富と聞いておる。カーバンクルたちが束になったとて、無理じゃよ」
本人から言質をもらい、ノームからお墨付きをもらい、必死にカーバンクルたちが首を振る様子見た双子は嬉しそうにしている。
「む?アザエル様はどうしたのじゃ?」
双子がカーバンクルたちと戯れ、ノームから教えてもらっている間、クシェルイネスに抱かれたままじっと何かを見ていた。
その様子を疑問に思ったのだろう。
「あそこ、こっちに向かって来てる」
ノームから問われて指さした先から何かがこちらに移動してきている。集団ではあるのだが数が多くない。
「おお、まだ来てなかったカーバンクルたちじゃな」
ノームが言った通り、やってきたのはカーバンクルたちだった。
電気石(トルマリン)、水宝玉(アクアマリン)、黄水晶(シトリン)、蛋白石(オパール)、橄欖|《かんらん》石(ペリドット)を額に付けている。
「なんと、初めからこちらに向かってきたのが分かったのじゃな?」
「うん!」
「ほっほっほ、なんと賢い子よ」
褒められてうれしいクシェルは何とも上機嫌だ。
イネスに降ろしてもらって、双子と混ざりカーバンクルたちと遊び始めた。
「うむ、良きかな、良きかな、ここは安全じゃ、存分に遊ぶがよい」
とんだ狸爺だな、とルシフェルは思った。
「ここが侵略されないのはボーデンハーゼだけが理由じゃないですね?」
「ルシフェル様にはかなわんのう。そうじゃ、ここはわしの土地、領地じゃ。ここで取れる鉱石と宝石は、輸出しておる。これを盾に、この地を守っておる」
「やっぱり」
政治にも精通していたノーム、彼によって完璧に加工された宝石と鉱石は、天に融通されるだけでない。多国と取引を行い、この地が侵略されないように、代理戦争まで起こさせている程の影響力を持つにまで至っている。
精霊がどうしようと精霊の勝手である。精霊はあくまでも世界毎の固有種なので、世界を渡る天使とはわけが違う。
「やりすぎて足元救われることのないよう」
「はっはっは、天使様の手を煩わせたどこぞの精霊と同じにしてほしくないわい」
こういう対立が急激な気候変動の一因になっているのだが、それは言わないでおく。ミカエラの仕事だ。
「これで、いい勉強になったでしょう」
「ルシフェル様のおかげかもしれんのう。わしら精霊にとっても、可能性の子を保護し育ててもらった。セレとイムは、精霊たちの架け橋を期待しとるんじゃ」
「と言うと?」
「わしらの生まれは自然からだと言えば一つじゃが、正確には違うのじゃよ。ウンディーネは人族とうまく暮らしておるようじゃが、それはメーヨンファル族に限った話、結局は共生できておらん」
精霊の活動範囲は惑星全体に及ぶ。惑星全体に影響を及ぼせる、及ぼしている人族と相容れてないのは、獣魔と変わらない。ノームはそう言いたいのだ。
「それは、人族の社会に溶け込みたいと、そう取れますが?」
「いや、そうじゃないんじゃが」
ノームは言い淀んでしまった。
「それもあると言った方がいいのかもしれんのう。言い方が悪かったわい。精霊同士の架け橋じゃな。長らくセルシウスとイフリートは仲違いをしておった。それがどうじゃ、あの子たちが生まれてからは、嘘のように喧嘩がなくなった」
「そうだったのですね」
精霊のことを何も知らなかったイネスは驚いた。
結局、イネスからすると恐れ多い存在なので、ルシフェルと結婚してからも、そう多く接してはいない。
「そうじゃ、わしらだってな、気候変動の主な原因はセルシウスとイフリートの仲違いであると思っておるほどじゃ。わしら精霊が司っている力は違う。それ故に、どうしても、相容れない場合があるのじゃ」
特にドリアードは、ノーム、セルシウス、イフリートと仲が良くなく、ノームはイフリートとウンディーネに板挟みにあっている状態である。
レムとプルートは今でこそ仲がいいものの、一時期はひどいものだったのだとか。
これを天族が早期に仲介しなければ、ルシフェルがいた世界と同様に、長期に及ぶ精霊戦争に発展したとまで言うのだ。
「随分楽観視しているようですが、双子が滅亡の引き金を引かない保証はないのですよ?」
「「「な」」」
「双子が原因になることだってありうるでしょう」
「どういう意味じゃ!」
激昂したノームがルシフェルにつかみかかり、ルシフェルは冷たい目で見降ろしている。
これにイネスとガブリエラが慌てたのだが、ラジエラは何喰わない顔をしている。
「ある意味では当然じゃない?」
「なんじゃと?」
声を上げたラジエラに全員が顔を向けた。そのラジエラは、ルシフェル同様ノームに冷たい目を向けていた。
「だって、双子が死んだとき、セルシウス様とイフリート様は正気でいられるの?言っとくけど、双子は簡単に殺せる可能性もあるんだよ?」
「ぐぬ」
ラジエラの言葉にノームは狼狽えてその手をルシフェルから離した。
これはラジエラの言うとおりであろう。
双子の種族と言うのは、半精半人ということになっているが、ミカエラの解析では、その魂は人の体に結びついていることが分かっている。
人の体が死に、内にある変異魔素が魂を止められたのなら、精霊として生き永らえることになるのだが、それが起こる保障と言うのがどこにもないのだ。
「もし、人族の所為で双子が死ぬことになったら?セルシウスとイフリートは絶対に許さないだろうし、架け橋を期待しているあなただって許さないでしょう?」
「それは・・・」
「生きている以上死を拒むのは当然、抵抗を選んで来たら人と精霊の全面戦争になったっておかしくない。精霊なら皆殺しなんて簡単だろうし、惑星から生き物が消えることになってもおかしくないだろうし」
ラジエラにとってこれは八つ当たりのようなものだ。
元いた世界で獣魔が異常に力を付けた理由は精霊戦争にあり、当時の天使は積極的な介入をしていないことまで、ラジエラは知っているのである。
それで何度ルシフェルを心配することになったのか、任務でいなくなるルシフェルを複雑な気持ちで見送り、ボロボロで帰ってきたルシフェルに何度抱き着いたことか。
唯一の身内だからこそ、ラジエラはブラコンを加速させていったのである。
「私やお兄ちゃんだって我慢できる保証はないよ?現に身内だって思ってるし、双子の手を離すのが嫌なんだもの。他の天族だってそう。双子は天族にとって特別観察対象なんだから、それを邪魔されたと判断したら天族だって戦争に加担するだろうし」
「・・・」
「ああしてるけどね、ある時期から私たちに害を及ぼそうとする人族とか獣魔を威嚇するようになったんだよ。自覚はしてないだろうけど、いつでも魔法が使えるように魔素を励起させてたからね。知らないふりをしてたけど、ほら」
ラジエラが指さす先、セレは氷をダート|(手投げサイズの矢)の形に、イムは炎をダートの形にして自身の周りに複数浮かべ、その先のノームに向けている。
『Icy Darts』と『Flame Darts』を遅延発動させている状態だ。
クシェルは双子と手を繋いで心配そうな顔をしている。
「セレちゃん、イムちゃん、大丈夫だから魔法は終わらせて」
「「分かった」」
しぶしぶ魔法を終わらせる双子にノームは胸をなでおろした。
セレが作り出した氷とイムが作り出した炎は、かなりのエネルギーが圧縮されており、そもそも物理的なダメージは受けないが、エネルギーから受ける影響は馬鹿にできなかったのである。
「ノーム様、もう一度、その髭を整えられるとよいでしょう」
ルシフェルの皮肉にノームはふさぎ込んでしまった。
ボーデンハーゼの群れに囲まれて、もふもふを堪能する双子だったのだが、一体何匹いるのか分からない程の数に埋まってしまい、ルシフェルとガブリエラによって助け出された。
「「ううー」」
まんざらでもなかったようで、ルシフェルに講義をする双子だが、あのままでは生き埋めになっており、その内、多数のボーデンハーゼによって潰されていたので、我慢してもらうほかない。
ボーデンハーゼは土兎で、体躯はさほど大きくなく、大きな個体でも体長は七十ゼンヤーツ(約五十センチメートル)を超えていない。丸いしっぽに長い耳、灰色もしくは茶色の毛をしているが、その姿は野兎と言うより飼い兎と言った方がよい。
その中でも異質なのが、雪兎ではないかと見まがうような純白の毛と、額には直径二センチにもなるほぼ無色の金剛石(ダイヤモンド)の花が咲いている兎だ。金剛石特有の屈折率により、きらきらと、時には虹色に見えるよう輝いている。
カーバンクルである。
この一匹だけ動きがおかしかった。色合いで注目させられてはいたが、それでもどこか変だった。
他にもカーバンクルがいるようで、赤い体毛に紅玉(ルビー)、青い体毛に青玉(サファイヤ)、緑色の体毛に翠玉(エメラルド)、橙の体毛に黄玉(トパーズ)、そして紫の体毛に紫水晶(アメジスト)が一匹ずつ集まってきた。
で、彼らカーバンクルが何をしたのかと言うと、まだ群がろうとするボーデンハーゼたちに飛び蹴りを食らわせて、文字通り蹴散らしてしまった。
さすがの双子も呆然としてしまった。
「こりゃこりゃ、暴力はいかんぞ」
のっそり現れてそんなことを言ったのはノームである。
「ほっほっほ、なるほどのう。ルシフェル様の判断は正しいですぞ」
「「ええー」」
白いカーバンクルから何か聞いたのか、ノームがそう言うと、双子は抗議した。
「ボーデンハーゼは岩盤をも掘り抜ける硬く鋭い歯と爪を持っておるからの。油断しておると血だらけではすまんぞ?」
サーっと双子とイネス、ラジエラの血の気が引いて行った。
おおよそ、色玉石の山でするような顔色ではない。
ノームが住処する色玉石の山は、大量の良質な宝石を産出可能な山で、元は巨大な火山だったカルデラである。今の火山活動は完全に収束し、ノーム曰く、向こう数万年は活動しない可能性が高いらしい。
産出されるのは宝石だけでなく、金や白金、銀、鉄、銅、チタン、クロムと言った鉱石類も豊富に産出される。
「まんざらでもなかったようだがの?あ奴らは数と爪と歯で外敵を蹴散らす。この山一帯はボーデンハーゼの縄張りで、ここ数百年はどんな獣魔でも人族でも侵略を受け取らん。と言えば、強さが分かるかの?」
「「つよい!」」
「ほっほっほ」
立派なあごひげをくしけずりながら得意げに笑うノームは、ボーデンハーゼたちを散らしてしまった。
残ったのはカーバンクルたちである。
「額のは石?」
「額のは本物?」
「そうじゃ。ボーデンハーゼの中でも徹底的な偏食をする者がやがてカーバンクルとなるのじゃ。つまり、本物の宝石を砕いて取り込んだ結果が、この姿と言うわけじゃ」
「「へー」」
そこまで偏食すると普通は死ぬだが、カーバンクルはそれを超越した存在である。
「「え、じゃあ」」
「そうじゃ、カーバンクルたちは強いぞ?それにじゃ、額の宝石にはとんでもない量の魔力が溜まっておるから、いかなわしでもこの数を相手にするのは骨が折れるぞい」
下級天使だと簡単に数で負けてしまう。ここには六種六匹だけしかいないが、あと数種類のカーバンクルがいる。
双子はすっと目線をルシフェルに向けた。
「俺の敵じゃないな」
「ほっほっほ、熾天使様では相手にならんよ。特にルシフェル様は戦闘経験が豊富と聞いておる。カーバンクルたちが束になったとて、無理じゃよ」
本人から言質をもらい、ノームからお墨付きをもらい、必死にカーバンクルたちが首を振る様子見た双子は嬉しそうにしている。
「む?アザエル様はどうしたのじゃ?」
双子がカーバンクルたちと戯れ、ノームから教えてもらっている間、クシェルイネスに抱かれたままじっと何かを見ていた。
その様子を疑問に思ったのだろう。
「あそこ、こっちに向かって来てる」
ノームから問われて指さした先から何かがこちらに移動してきている。集団ではあるのだが数が多くない。
「おお、まだ来てなかったカーバンクルたちじゃな」
ノームが言った通り、やってきたのはカーバンクルたちだった。
電気石(トルマリン)、水宝玉(アクアマリン)、黄水晶(シトリン)、蛋白石(オパール)、橄欖|《かんらん》石(ペリドット)を額に付けている。
「なんと、初めからこちらに向かってきたのが分かったのじゃな?」
「うん!」
「ほっほっほ、なんと賢い子よ」
褒められてうれしいクシェルは何とも上機嫌だ。
イネスに降ろしてもらって、双子と混ざりカーバンクルたちと遊び始めた。
「うむ、良きかな、良きかな、ここは安全じゃ、存分に遊ぶがよい」
とんだ狸爺だな、とルシフェルは思った。
「ここが侵略されないのはボーデンハーゼだけが理由じゃないですね?」
「ルシフェル様にはかなわんのう。そうじゃ、ここはわしの土地、領地じゃ。ここで取れる鉱石と宝石は、輸出しておる。これを盾に、この地を守っておる」
「やっぱり」
政治にも精通していたノーム、彼によって完璧に加工された宝石と鉱石は、天に融通されるだけでない。多国と取引を行い、この地が侵略されないように、代理戦争まで起こさせている程の影響力を持つにまで至っている。
精霊がどうしようと精霊の勝手である。精霊はあくまでも世界毎の固有種なので、世界を渡る天使とはわけが違う。
「やりすぎて足元救われることのないよう」
「はっはっは、天使様の手を煩わせたどこぞの精霊と同じにしてほしくないわい」
こういう対立が急激な気候変動の一因になっているのだが、それは言わないでおく。ミカエラの仕事だ。
「これで、いい勉強になったでしょう」
「ルシフェル様のおかげかもしれんのう。わしら精霊にとっても、可能性の子を保護し育ててもらった。セレとイムは、精霊たちの架け橋を期待しとるんじゃ」
「と言うと?」
「わしらの生まれは自然からだと言えば一つじゃが、正確には違うのじゃよ。ウンディーネは人族とうまく暮らしておるようじゃが、それはメーヨンファル族に限った話、結局は共生できておらん」
精霊の活動範囲は惑星全体に及ぶ。惑星全体に影響を及ぼせる、及ぼしている人族と相容れてないのは、獣魔と変わらない。ノームはそう言いたいのだ。
「それは、人族の社会に溶け込みたいと、そう取れますが?」
「いや、そうじゃないんじゃが」
ノームは言い淀んでしまった。
「それもあると言った方がいいのかもしれんのう。言い方が悪かったわい。精霊同士の架け橋じゃな。長らくセルシウスとイフリートは仲違いをしておった。それがどうじゃ、あの子たちが生まれてからは、嘘のように喧嘩がなくなった」
「そうだったのですね」
精霊のことを何も知らなかったイネスは驚いた。
結局、イネスからすると恐れ多い存在なので、ルシフェルと結婚してからも、そう多く接してはいない。
「そうじゃ、わしらだってな、気候変動の主な原因はセルシウスとイフリートの仲違いであると思っておるほどじゃ。わしら精霊が司っている力は違う。それ故に、どうしても、相容れない場合があるのじゃ」
特にドリアードは、ノーム、セルシウス、イフリートと仲が良くなく、ノームはイフリートとウンディーネに板挟みにあっている状態である。
レムとプルートは今でこそ仲がいいものの、一時期はひどいものだったのだとか。
これを天族が早期に仲介しなければ、ルシフェルがいた世界と同様に、長期に及ぶ精霊戦争に発展したとまで言うのだ。
「随分楽観視しているようですが、双子が滅亡の引き金を引かない保証はないのですよ?」
「「「な」」」
「双子が原因になることだってありうるでしょう」
「どういう意味じゃ!」
激昂したノームがルシフェルにつかみかかり、ルシフェルは冷たい目で見降ろしている。
これにイネスとガブリエラが慌てたのだが、ラジエラは何喰わない顔をしている。
「ある意味では当然じゃない?」
「なんじゃと?」
声を上げたラジエラに全員が顔を向けた。そのラジエラは、ルシフェル同様ノームに冷たい目を向けていた。
「だって、双子が死んだとき、セルシウス様とイフリート様は正気でいられるの?言っとくけど、双子は簡単に殺せる可能性もあるんだよ?」
「ぐぬ」
ラジエラの言葉にノームは狼狽えてその手をルシフェルから離した。
これはラジエラの言うとおりであろう。
双子の種族と言うのは、半精半人ということになっているが、ミカエラの解析では、その魂は人の体に結びついていることが分かっている。
人の体が死に、内にある変異魔素が魂を止められたのなら、精霊として生き永らえることになるのだが、それが起こる保障と言うのがどこにもないのだ。
「もし、人族の所為で双子が死ぬことになったら?セルシウスとイフリートは絶対に許さないだろうし、架け橋を期待しているあなただって許さないでしょう?」
「それは・・・」
「生きている以上死を拒むのは当然、抵抗を選んで来たら人と精霊の全面戦争になったっておかしくない。精霊なら皆殺しなんて簡単だろうし、惑星から生き物が消えることになってもおかしくないだろうし」
ラジエラにとってこれは八つ当たりのようなものだ。
元いた世界で獣魔が異常に力を付けた理由は精霊戦争にあり、当時の天使は積極的な介入をしていないことまで、ラジエラは知っているのである。
それで何度ルシフェルを心配することになったのか、任務でいなくなるルシフェルを複雑な気持ちで見送り、ボロボロで帰ってきたルシフェルに何度抱き着いたことか。
唯一の身内だからこそ、ラジエラはブラコンを加速させていったのである。
「私やお兄ちゃんだって我慢できる保証はないよ?現に身内だって思ってるし、双子の手を離すのが嫌なんだもの。他の天族だってそう。双子は天族にとって特別観察対象なんだから、それを邪魔されたと判断したら天族だって戦争に加担するだろうし」
「・・・」
「ああしてるけどね、ある時期から私たちに害を及ぼそうとする人族とか獣魔を威嚇するようになったんだよ。自覚はしてないだろうけど、いつでも魔法が使えるように魔素を励起させてたからね。知らないふりをしてたけど、ほら」
ラジエラが指さす先、セレは氷をダート|(手投げサイズの矢)の形に、イムは炎をダートの形にして自身の周りに複数浮かべ、その先のノームに向けている。
『Icy Darts』と『Flame Darts』を遅延発動させている状態だ。
クシェルは双子と手を繋いで心配そうな顔をしている。
「セレちゃん、イムちゃん、大丈夫だから魔法は終わらせて」
「「分かった」」
しぶしぶ魔法を終わらせる双子にノームは胸をなでおろした。
セレが作り出した氷とイムが作り出した炎は、かなりのエネルギーが圧縮されており、そもそも物理的なダメージは受けないが、エネルギーから受ける影響は馬鹿にできなかったのである。
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