永劫の誇り – 鹿之助、燃ゆる戦国の灯』

honyarara

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第五章 再興の烽火

再興の烽火Ⅱ

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晩秋の山間、霧が立ち込める峡谷を抜ける一群の影があった。山中鹿之介を先頭に据えた、かつて尼子家に仕えし者たちの集会である。出雲、伯耆、因幡の各地から、密かに呼びかけを受けた旧臣たちが、音もなく集まり始めていた。彼らの鎧は既に錆び、兵数も乏しかったが、目に宿るものはただ一つ――「再び、あの旗を掲げる」という不屈の意思であった。

鹿之介は、朽ちた松明の火を見つめながら語った。
「我らは敗れた。しかし、それは死を意味せぬ。我らの誇り、尼子の志を誰かが継がねば、歴史はただ勝者の筆に染まる。故に、再び歩むのだ。今度はただ剣を振るうだけではなく、民の心に寄り添い、希望を与える者として。」

この言葉に、集まった者たちは静かに頷き、それぞれ懐中から家紋の残る紐や古びた陣羽織の切れ端を取り出す。それは過去に斃れた主君たちとの「誓いの遺物」であり、再び立ち上がることの象徴であった。

やがて、鹿之介は少数の近習と共に、石見の山村を拠点として独自の動きを開始する。密かに若者を募り、農地の傍らで武芸の鍛錬を行い、村の困窮する民に援助を与え、信を得ていった。戦を忘れぬ者たちもいたが、鹿之介の真摯な眼差しと言葉に、「この人こそ、また新たな灯をともすのでは」と次第に人は集まってきた。

この時、毛利元就は既に老境にあり、政治の主導権は隆元から輝元へと引き継がれつつあった。老将は、報告書を静かに眺めながらこう呟いた。
「鹿之介……その火を絶やすな。我らが築いた覇権もまた、いつか誰かに試される。そのとき、お前のような者が現れることを、歴史は望んでおるのかもしれぬ。」

赤き烽火はまだ細く、山間にしか届かぬ光であったが、その焔は誰よりも深く熱かった。志を継ぐ者たちはまだ少なく、資金も兵も乏しい。だが、彼らの姿は、歴史の傍らで消え去る者たちではなかった。
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